社説:ミャンマーの3年 軍政の暴力と抑圧を止めよ

 ミャンマーを忘れ去られた危機にしてはならない-。

 そんな国連が発する訴えに、日本をはじめ国際社会が向き合い、軍政による暴力を早く止めるため力を尽くしたい。

 ミャンマー国軍が民主派政権を倒したクーデターから3年がたった。

 全権を握った軍事政権は市民への激しい弾圧を続ける。現地の人権団体によると、4400人以上が死亡し、約2万人が拘束中という。

 国軍と民主派や少数民族との武力衝突は激化し、国内で約260万人が避難生活を強いられている。先の国連報告書が「人道危機が深刻化している」とした状況は見過ごせず、国際支援の強化が急がれる。

 民主派の一部と少数民族武装勢力は連携して武力闘争を展開し、昨秋の一斉蜂起から攻勢を強めている。国軍は多数の拠点を失い、部隊規模での投降や脱走兵が続出するなど弱体化が指摘される。

 一方、劣勢を補うように空爆やドローン、地雷の攻撃を強め、市民の犠牲と生活破壊の拡大が憂慮されている。

 軍政は、治安の悪化を理由にクーデター以来の非常事態宣言を延長し続け、民政復帰に向けた選挙の実施期限を来年2月まで、またも先送りした。

 民主派の象徴のアウンサンスーチー氏も、非公開裁判で汚職など刑期27年の有罪とされ、収監されたままだ。昨年、スーチー氏が率いた民主派政党も事実上、非合法化された。

 こんな軍政に全国民を代表し、統治する正当性はなく、公正な選挙による民主主義の回復も任せられないのは明らかだ。

 圧政に抵抗する市民たちの「沈黙のスト」に加え、欧米の経済制裁や外国資本の撤退による不況と高インフレも直撃し、軍政の足元は揺らいでいる。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)各国は、クーデター直後から暴力停止など「5項目の合意」を求めて平行線だった。だが、窮地の軍政は先月末の外相会議に外務省高官を出席させ、協調姿勢へ変化を見せた。隣国タイを通じた人道支援を糸口に対話を広げ、紛争解決につなげられるか試されよう。

 中国も、自国との国境付近での軍と少数民族勢力の停戦を仲介して影響力を示す。一方、欧米は軍政3年を機に人権侵害などに追加制裁を打ち出したが、ウクライナ、中東の紛争も加わる中で関心の低下は否めない。

 グテレス国連事務総長は、ミャンマー国民の3割超の約1860万人に緊急の人道支援が必要と訴えるが、昨年に集まった各国資金は3割程度という。

 長く最大支援国としてつながりの深い日本は、新規の政府開発援助(ODA)停止などにとどまる。軍政への資金を遮断した上で、戦闘停止と人権保護、着実な民主化への働きかけを主導する役割が求められよう。

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