【プロの観戦眼31】地味だけど強いマナリノ! 35歳での躍進を支えるシンプルで古風なフォアハンド~佐藤哲哉<SMASH>

このシリーズでは、多くのテニスの試合を見ているプロや解説者に、「この選手のここがスゴイ!」という着眼点を教えてもらう。試合観戦をより楽しむためのヒントにしてほしい。

第31回は、元全日本ダブルスチャンピオンでデ杯日本代表も務めた佐藤哲哉氏。“推し”は35歳の大ベテラン、アドリアン・マナリノだ。彼はここへきて大ブレークを果たしている。

2022年までツアータイトル2つだったのが、23年はニューポート、アスタナ、ソフィアと3勝をゲット。今年も全豪オープンでベスト16入りし、世界ランキングはキャリアハイの17位、フランス勢のトップに躍り出ている。

「マナリノは地味な風貌だし、ウェア契約もないようで、いつもノーデザインのウェアを着ています。同じフランス人でもモンフィスやガスケのような華やかさはありませんが、玄人受けする存在。特に最近は好調なので、陰の人気者になっているんです」と佐藤氏。

人気の理由は、まさにその“地味さ”。風貌だけでなくプレーもクラシカルで、派手なショットはないのにパワフルな若手を手玉に取るから面白いのだという。
「フォアハンドストロークが特に古風ですね。現代はヒジから大きく引いたり、面を伏せたりする選手が多いですが、マナリノは胸の前でラケットを真っすぐ後ろに持っていくだけ。とてもシンプルで、サービスリターンのような打ち方です」

それでもマナリノは「手首の使い方がうまい」ため、フラット、スピン両方ともスムーズに打ち出せる。加えて「ポジションが前めなので、ボールを捉えるタイミングが早く、打点も高い。だからシンプルスイングでもいいボールが打てるんです」と佐藤氏は分析する。

「これは一般の愛好家、特にシニアの方にはめちゃくちゃ参考になりますね」とのこと。省エネでボールを裁くことで、マナリノは選手寿命を延ばしていると言える。

「この年でここまで勝てるのは、錦織選手など他のベテランにも励みになるでしょう」と、佐藤氏はツアー全体への波及効果にも期待を込めた。

◆Adrian Mannarino/アドリアン・マナリノ(フランス)
1988年6月29日生まれ。180cm、79kg、左利き、両手BH。5歳からテニスを始め、リオスに憧れて育つ。2004年にプロ転向し、19年にツアー初優勝を果たした苦労人。力に頼らず、タイミングの変化や多彩な組み立てで相手を崩す。ツアー通算5勝。ATPランキング自己最高17位。

取材・文●渡辺隆康(スマッシュ編集部)
※『スマッシュ』2024年1月号を再編集

© 日本スポーツ企画出版社