能登地震で活躍する災害救助犬、その能力とは 6歳コーギー「ヒルネ」は安否確認に貢献

能登半島地震の捜索活動に加わった災害救助犬のヒルネ(滋賀県竜王町岡屋・栗東ドッグスクール)

 災害現場でわずかなにおいを手がかりに生存者などを見つけ出す「災害救助犬」。能登半島地震でも多くの犬が被災地に入り、行方不明者の捜索に当たった。ハンドラー(指導手)として同行した栗東ドッグスクール(滋賀県竜王町岡屋)のトレーナー高畑伊津香さん(58)が取材に応じ、現地の状況を語った。

■「人を探す能力」だけじゃない

 災害救助犬の認定を行うジャパンケネルクラブ(JKC)から出動要請があったのは、1月2日夕方。高畑さんは、竜王町内で飼い主と暮らすコーギーのヒルネ(雌、6歳)を連れて行くことを決めた。

 日付が変わる頃、長浜市内で近隣県の災害救助犬と合流し、石川県珠洲市に向かった。広島の土砂災害や熊本地震の現場に出動した経験もある高畑さんだが、そこかしこが陥没した道路の状況にショックを受けた。

 自衛隊の車両に先導され、珠洲市役所に到着したのは3日午前10時ごろ。市役所は混乱を極め、情報も入り乱れていたが、隣接する輪島市で救助犬が少ないことが分かり、同市を目指すことにした。

 「少しでも早く」という思いだったが、輪島に入るのにも5、6時間かかったという。捜索活動を開始したのは4日朝。「どこから手を付けたらいいか分からない状態だった」という。関東から駆け付けた救助犬と合流し、二手に分かれて捜索した。

 JKCが認定し、有事の際に出動可能な救助犬は、昨年4月時点で125頭。一握りの犬しか認定されない。大きな音や煙に驚かないこと、不安定な場所にも拒否せず入れること、消防隊員や自衛隊員など多人数のにおいに惑わされないこと、リードを付けない状態でコントロールできることなど、求められる能力は多い。

 「人を捜す能力だけに優れていてもいけない。人の命がかかっているので、現場に出るとなったら中途半端ではいけない。認定試験はかなり難しい」(高畑さん)

 もともと競技犬だったヒルネは、元気で訓練にも意欲的。数々の賞を獲得し、飼い主はさらに何かさせてあげようと考え、災害救助犬を目指すことにした。京都府京丹波町の施設で訓練を重ね、約2年前に合格した。今回が初めての出動。飼い主は「頑張っておいで」と快く送り出してくれたという。

■被災地でも訓練通りの活動

 最初に訪れたのは山手にある一軒家。土砂崩れに巻き込まれ、消防隊員からは「二次災害の危険がある」と言われた。余震が続き、積雪で足場も悪い状態。携帯電話はおろか、消防無線も通じない。救助犬たちは待機していたが、離れた場所から消防隊員が声をかけることしかできなかった。後日、この現場から遺体が見つかったことを報道で知ったという。

 続いて、市街地の民宿を捜索した。宿泊客の安否が確認できない状態で、屋根に上がった大型犬が反応を示した。消防隊員がこじ開けた隙間からヒルネたちが入ったところ、携帯電話や所持品が見つかった。これらを手がかりに、持ち主が避難して無事だったことが確認できた。

 高畑さんは「現場は訓練とは全然違う。でも、訓練が重要ということは現場に行ったらよく分かる」と振り返り、訓練通りに活動できたヒルネをねぎらった。

 いつどこで起きるか分からない災害に備え、ドッグトレーナーとして愛犬家に訴えたいことがあるという。「いざ同行避難することになった時のために、『ハウス』(ケージなどでおとなしくする指示)は必ず練習しておいてほしい」

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