子どもの偏食。苦手なものを「一口だけ食べてみて」と促すのはNG偏食克服の正しい知識を身につけて【専門家】

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子どもの偏食は味覚が発達する2歳ごろから多くなるといわれていて、なかには食べられないものが多いと「しつけのせいかな?」と悩むママ・パパもいるようです。しかし食べない子専門のカウンセラーとして活動する、一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会代表理事 山口健太さんは「子どもの偏食はしつけのせいではない」と言います。山口さんに、家庭でできる子どもの偏食克服法について聞きました。

「子どもの偏食はしつけのせいではなく、理由がある!」。自身の会食恐怖症の経験と、1000人以上の食の悩みを聞いて見えてきたこと

いつでもおやつが食べられる環境はNG

偏食を減らす1回の食事の割合は、好きなもの3:普通なもの5:苦手なもの2が目安。

山口健太さんは、SNSや対面などで食の悩みに答えたりしています。これまでのべ1000人以上のママ・パパから子どもの偏食の相談を受けていますが、そこから問題点が見えてくると言います。

――子どもに好き嫌いが多いと「しつけのせいかな?」と悩むママ・パパもいるようですが、しつけと偏食は関係があるのでしょうか。

山口さん(以下敬称略) 私はしつけのせいだとは思いません。これまで私は、のべ1000人以上のママ・パパから、子どもの偏食の悩みを聞いてきました。どのママ・パパも「好き嫌いを少しでも減らしたい」と思い、一生懸命に取り組んでいる印象です。しかしなかには、「少しでも栄養をとってほしい」「少しでも野菜を食べてほしい」という思いから、誤った方法で子どもに食事やおやつを与えているママ・パパもいます。

――誤った方法とはどういうものでしょうか。

山口 たとえば子どもの偏食の原因の一つに「時間と量の問題」があります。偏食だと残すことが多いので、ママ・パパは「食べる量が少ないけれど体の成長は大丈夫?」と心配します。そのため朝食・昼食・夕食の1日3食以外にも、いつでもおやつが食べられる環境を作ってしまいがちです。「おなかがすいたら、いつでもおやつが食べられる」と思えば、子どもは3度の食事をあまり食べなくなります。いつでも食べられる環境は逆効果です。

――ほかに注意することはありますか?

山口 成長曲線に沿って身長も体重も順調に増えていれば、食事の量と好きなものの割合を見直してみましょう。
基本的に子どもは、好きなものから食べます。それでまだおなかがすいていると、「これなら食べられる!」というものを食べます。おなががいっぱいになれば苦手なものは食べません。
そのため1回の食事の割合を、好きなもの3:普通なもの5:苦手なもの2を目安にしてみましょう。

好きなものと普通なものでおなががいっぱいにならないように全体の量も見直してください。
おなががすいていれば苦手なものも「ちょっと食べてみようかな?」という気持ちになると思います。ママ・パパが、おいしそうに食べていれば「僕(私)も、野菜食べてみようかな?」と思うかもしれません。子どもに好き嫌いが多いと、だんだん「子どもが食べないものは食卓に出さない。どうせ食べないから」と考えるママ・パパもいますが、そうすると食に触れるという機会すらなくなってしまいます。少量でもいいので苦手なものも食卓に並べてください。

――「時間と量の問題」とのことですが、時間についても教えてください。

山口 共働き家庭が増えて、毎日、決まった時間に食事が出せないというママ・パパもいるでしょう。1時間ぐらいのずれはいいのですが、できるだけ生活リズムを整えて、食事の時間を一定にすることも大切です。食事の時間が遅くなると、子どもに「おなかがすいた~」と言われて、つい食事の前におやつを与えたりしがちです。また食事の時間は、30分もあれば十分です。ダラダラ食べもやめましょう。

苦手なものが入っていても、うそをつかずに食べさせることが大切

子どもはママ・パパのうそに敏感です。食に関しても同じことが言えるようです。

――ほかに子どもの偏食を克服したいときにやめたほうがいいことはありますか?

山口 子どもにうそをついたり、ごまかしたりして食べさせることはやめましょう。たとえば野菜が苦手だとこまかく刻んでハンバーグなどに混ぜて、野菜が入っていると言わないで、子どもに食べさせるママ・パパもいますが、これはおすすめできません。

「好き嫌いのギャップ理論」といって、子どもは「嫌いなにんじんが入っている」とわかっても、「大好きなハンバーグだから!」と食べてみて、そして「おいしい!」と思うと、「もしかしたら、にんじんも食べられるかも」とプラスの感情を抱きやすくなります。
しかしママ・パパがにんじんが入っていることを伝えずに子どもに食べさせて、「にんじんが入っている」と気づいたとき、「うわ~、にんじんだ」とマイナスの感情を抱き、次からは警戒して大好きだったハンバーグまでも食べなくなる可能性もあります。
そのため「にんじん入っているけど、小さく刻んでいるから食べてみて」「にんじんが入っているけど、おいしく作ったから食べられるかもよ」と正直に伝えてください。

「一口だけ食べてみて」の前に、苦手なものに興味をもつ言葉かけを

子どもの偏食克服は、スモールステップで進めていくことが大切。山口さんは「一口だけ食べてみて」は、子どもにとってはハードルが高いと言います。

――「一口だけ食べてみて」という言葉かけは適切でしょうか?

山口 「一口だけ食べてみて」というのは、子どもにとっては実はハードルが高いです。その前段階として、苦手なものに興味を持たせるステップを作りましょう。たとえば「においだけかいでみる?」「ちょっとなめてみる?」のような言葉をかけでもいいでしょう。そのほうが、子どももトライしやすいです。それでペロッとなめることができたら「できたね!」とほめてあげて、少しずつ次につなげていきましょう。
保育園では、こうした言葉かけで食べられるものを増やしていく保育者もいます。

――「せっかく作っても食べてくれない」と悩んでいるママ・パパもいますが。

山口 「食べて!」という期待を持てば持つほど、食べてくれなかったときにママ・パパはがっかりするものです。そのため忙しい中、無理して手作りする必要はありません。市販のベビーフードのほうが、自分の感覚に合う子もいて、食を広げるきっかけを作りやすい場合もあります。
「せっかく作ったのに食べてくれなかった」と落ち込むのではなく、今は将来的な食の広がりに投資している時間と考えて、長い目で見守りましょう。

お話・監修/山口健太さん イラスト/佐々木奈菜さん 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部

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「乳幼児期の好き嫌いは様子を見ていていいのでは? そのうち食べられるようになるかもしれない」と考えるママ・パパもいるでしょうが、子ども自身、困ってしまうのが園や小学校での給食です。山口さんは「無理なくできるところから取り組んで、何よりも子どもとの食事の時間を楽しむことを忘れないでください」と言います。

山口健太さん(やまぐち けんた)

PROFILE
一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会代表理事。食べない子専門のカウンセラー。食育研修講師。『きゅうけん|月刊給食指導研修資料』編集長。全国の保育園などで講演会も行う。

山口健太(やまけん) Instagram

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子どもの偏食改善の方法をイラストや図を使ってわかりやすく解説。子どもの食の悩みを解決するアイデアが満載。
山口健太著、藤井葉子監修/青春出版社(1870円)

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