マイケル・ジャクソン、伝記映画の注目ポイントは? 激動のキャリアから意思を継ぐ者まで

2009年の急逝から15年が経とうとする今もなお、世界中に影響を与え続けている世紀のスーパースター、マイケル・ジャクソンの伝記映画『マイケル』が来年春に全米公開されることが決定した。監督は『イコライザー』シリーズや『トレーニング デイ』を手がけたアントワーン・フークア。プロデュースを務めるのは『ボヘミアン・ラプソディ』のグラハム・キングに、マイケルの遺産共同執行者でもあるジョン・ブランカとジョン・マクレーン。そしてマイケル役を演じるのは、彼の甥にあたるジャファー・ジャクソンだ。

ジャクソン家のDNAを引き継ぐ主役 ジャファーの演技に要注目

1月20日、主演を務めるジャファーは自身のInstagramに「月曜日から旅がはじまる」と綴り、マイケルの代名詞ともいえる爪先立ちのポーズの写真と共にクランクインを宣言した。

1996年生まれのジャファーは、父親であり80年代にソロシンガーとしても活躍したジャーメイン・ジャクソンと共に10代の頃からステージで歌唱を披露しており、その頃からマイケル似の優しく眩いハイトーンボイスがファンの間で話題に上がっていた逸材。高いダンステクニックや随所の仕草など、2019年に公開された彼のデビューシングル「Got Me Singing」のMVを観れば、彼が本作に誰よりも適任なのは明らかだろう。

もっとも、彼がマイケルのパフォーマンスを実際に観たのは2001年にマディソン・スクエア・ガーデンで行われたソロ30周年記念イベントが最初で最後とのことで、最盛期をリアルタイムで体感した世代ではない。世界中から熱狂的なファンが見守るアイコンを背負うことは親族とはいえど計り知れないプレッシャーのはずだが、マイケルの功績を後世に伝えていく意味でも、彼のような世代が演じることはとても価値のあることだろう。

マイケルの父親、ジョーことジョセフ・ジャクソンを演じるエミー賞受賞俳優のコールマン・ドミンゴは、「リハーサルでジャファーを見たときには本当に驚いた。彼が亡き叔父 マイケルを演じる姿には神がかったものがある。彼の持つ才能とマイケルのエッセンスを体現する様はまさに別次元だよ」(※1)と、本作に懸けるジャファーの想いの大きさを語っている。また主要キャストとして、『ボーイズン・ザ・フッド』や『ラブ・ジョーンズ』をはじめ90年代からブラックコミュニティで絶大な支持を得続けている女優 ニア・ロングが母キャサリンを演じることも発表された。

マイケルの激動の人生を支えたキーパーソンたち

2024年2月初旬現在、映画本編の内容については詳しく明かされていないが、公式のあらすじには「『マイケル』は、キング・オブ・ポップとなった聡明でありながら複雑な男の姿を観客の心を揺さぶる正直さで描いています。この映画は、彼の人間的な側面や個人的な苦悩から、その最も象徴的なパフォーマンスに代表される紛れもないクリエイティブな才能まで、彼の勝利と悲劇を壮大なスケールで描く映画になっています」と書かれており、激動を極めたマイケルの人生をさまざまな角度から映し出していくことが予想される。

たとえばコールマン演じる父 ジョーは、ジャクソン5結成~モータウン・レコードへの契約を結びつけた後見人だが、家庭内では子供たちに日常的に躾(しつけ)という名の暴力を振るっていたのは有名な話。複雑なマイケルとの親子関係がどのように描かれるのかも映画の肝になるだろう。

そんなマイケルにとって、モータウン・レコードの創始者 ベリー・ゴーディは、インディアナ州ゲイリー生まれのジャクソン5を全国的なスターに押し上げただけでなく、プロデューサー/ソングライターとしての音楽的ノウハウ、さらにはプロモーションから利益の上げ方といった経営の理論までを教えてくれる、先生であり第2の父親的存在だった。「最初の20秒で聴き手の心を掴め。それができない曲は売り出してはいけない」などゴーディがマイケルに伝えた言葉の数々は、モータウンを離れたあとでも彼の心に刻まれていたはずだ。

またモータウンの契約前にジャクソン5が前座を務め、その実力を早々に称えたGladys Knight And The Pipsに、モータウンのオーディションに同席しマイケルを9歳の頃から見守ったスモーキー・ロビンソン、幼少期からの親しい友人であり後に映画『ウィズ』でも共演したダイアナ・ロス、その映画をきっかけに『Off The Wall』~『Thriller』~『BAD』への華々しいソロキャリアを導いたクインシー・ジョーンズなど、彼が心から慕った音楽界の先達たちとのシーンも期待したい。

伝説的なパフォーマンスの再現

もちろんマイケルの伝記となれば、数多く存在する伝説的なパフォーマンスの再現は欠かせない。ムーンウォークを初めて披露したことで知られる1983年のモータウン創立25周年記念イベント、1992年にルーマニアのブカレストで行われた『Dangerous World Tour』での約2分間にわたるステージ上での静止と熱狂、そしてMVの概念を超えた“ショートフィルム”として映像と音楽の融合を試みた「Thriller」に「Beat It」、誰しもが一度は挑戦した「Smooth Criminal」のゼロ・グラビティなどは作品内に登場するとみて間違いないだろう。あまりに完璧主義であったマイケルの当時の制作過程や葛藤は、1988年に刊行された唯一の自伝本『ムーンウォーク』も併せて予習すると楽しめそうだ。

マイケルの意思を引き継ぐアーティストたち

マイケルが与えてきた後進への影響は計り知れないが、1月に東京ドーム7日間公演を大成功のうちに終わらせたブルーノ・マーズは、彼の遺伝子を受け継ぐアーティストの中でも最右翼だろう。エルヴィス・プレスリーとともにマイケルを憧れの対象として挙げてきた彼は、ブラックミュージックを基調としたポップな音楽性はもちろん、淀みないナチュラルなダンススキルも含めてマイケル(と、そのマイケルがお手本にしたジェームス・ブラウン)の要素に溢れている。圧倒的なカリスマなのに親しみやすいキャラクターなのが愛らしく、ライブ後に投稿された日本への感謝を込めた最新リール動画も観るだけで微笑ましい。マイケルと同じく、世界中がトキメく生まれながらのスーパースターだ。

またマイケルといえば1993年の『NFL スーパーボウル』のハーフタイムショーでのパフォーマンスも鮮明に記憶されている。近年はジェイ・ZがNFLとパートナーシップを結び、2022年にはドクター・ドレーを中心にスヌープ・ドッグ、メアリー・J.ブライジ、エミネム、ケンドリック・ラマーらが集結。昨年はリアーナが久しぶりにステージ復帰するなどR&B、ヒップホップ関連のアクトが続く中、今年パフォーマンスを予定しているのがアッシャーだ。

1993年のデビュー以降は常にR&Bシーンの最前線にいる彼だが、ここ数年の活躍は目覚ましく、『スーパーボウル』の前々日には通算9枚目のアルバム『Coming Home』をリリースする。本作では90年代末からの黄金タッグとして名高いジャーメイン・デュプリやリル・ジョンも制作に関与、さらにはサマー・ウォーカーやザ・ドリームら地元の後輩たちを従え、現行R&Bの中心地ともいえるアトランタの盛り上がりを象徴する2024年の重要作となることは必至だ。2001年、マイケルのソロ30周年記念イベントでトリビュートパフォーマンスを披露した彼にとっては、『スーパーボウル』の場が意味する価値も人一倍大きいはず。人々の記憶に残るエポックメイキングなステージングを期待して良いだろう。

そのアッシャーとは年齢がひと回り近く離れているが、現代のキング・オブ・R&Bとして肩を並べるのがクリス・ブラウン。キャリア約20年の中で発表したアルバムは11作品で、そのうちのほとんどがビルボードR&Bチャートで首位を獲得。最先端のストリートR&Bを追求する彼の創作意欲と努力は、常にマイケルの背中を追っているからこそだろう。近年は世界を席巻するアフロビーツのアーティストとも積極的にコラボレーションを行い、ナイジェリアのロジェイ、サーズとのコラボ曲「Monalisa」や最新作『11:11』に収められた「Sensational ft. Davido, Lojay」など、マイケルが現代に生きていたらすぐに気に入りそうな楽曲も多数発表している。

そんなクリスは2022年の『アメリカン・ミュージック・アワード』にて、同じくMJチルドレンのひとりであるシアラとマイケルへのトリビュートパフォーマンスを予定していたが、かつての恋人 リアーナへの暴行事件が再度取り沙汰され突如出場をキャンセルされた。当時の事件については消えることのない事実ではあるものの、オファーを出した後での中止は不憫にも思われた。

そしてジャネット・ジャクソンの来日公演も迫っている。『Together Again』と題された本ツアーでは兄 マイケルと共演した「Scream」もセットリストに入っているという噂で、マイケルの意思を一番に引き継ぐ彼女の姿を見逃すわけにはいかない。

マイケルの音楽と人生、そして彼が放ったメッセージは、この先の世代にも多大なインスピレーションと勇気、たくさんの教訓を与えていくだろう。あらためて彼の功績と音楽に目と耳を傾けつつ、映画『マイケル』の公開を待ち望むとしよう。

※1:https://variety.com/2024/film/news/colman-domingo-michael-jackson-father-joe-biopic-1235887187/

(文=Yacheemi)

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