「今すぐ逃げて」発災1分で津波到達 地震だけじゃない火山県の”有事” 海底噴火や山体崩壊…必要な備えとは

「噴火で津波が起きても、すぐに発生を感知できるシステムがない」と語る柿沼太郎准教授=鹿児島市の鹿児島大

 「今すぐ逃げてください」。能登半島地震が発生した直後の1月1日夕、大津波警報の発令を受けテレビ各社のアナウンサーが、切迫した口調で繰り返し避難を呼びかけた。

 「適切な対応」。鹿児島大学の柿沼太郎准教授(海岸工学・津波工学)はこう振り返る。海岸線に近い海底断層で地震が起きた場合、津波の到達が早いという特徴がある。今回も1分後には第1波が押し寄せた地域があったとされる。

 鹿児島県周辺にも海岸線に近い断層として甑断層帯や市来断層帯などがあり、未確認の活断層もあるとされる。柿沼氏は「震源が近い場合、沿岸部の人は揺れが収まったら、なるべく早く頑丈な建物の高層階へ垂直避難が大切だ」と強調する。

 垂直避難が求められるのは、海底火山噴火や、山体崩壊・地滑りによる土砂崩れで起こる津波も同じだ。桜島など県内には活火山が11あり、全国の1割を占める。噴火による海底地形の変化や噴出物で水が動いて津波が発生する可能性があるほか、マグマに触れた水が急激に熱せられて水蒸気爆発を起こし、津波を引き起こすことも考えられるという。

 県地域防災計画によると、1779年に始まった桜島の安永噴火では、80年と81年に鹿児島湾で海底噴火が起こり、津波が発生。死者・行方不明者や家屋などの被害があったと伝わる。

 火山が起因となる津波は、陸地にすぐに最大水位の波が到達したり、短い周期で何波も押し寄せたりすることも想定される。だが、沿岸部に住宅が連なる桜島をはじめ、監視や予測体制は未整備だ。柿沼氏は「沖の異常潮位をすぐに感知し、住民に通知できるシステムが必要だ」と訴える。

 一方、30年以内に70~80%の確率で起きるとされるマグニチュード(M)8~9級の南海トラフ巨大地震では、大隅半島や熊毛、奄美地域の離島を中心に大きな津波被害が想定される。こうしたプレート(岩盤)境界付近で起きる「海溝型地震」は、津波到達までに比較的時間があるが、大陸棚などが波を大きく増幅させるのが特徴。垂直避難とは異なり、高台などのより高所を目指し続けることが重要となる。

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