「うれしい」けれど複雑 自宅焼失の蕨野さん 輪島・仮設住宅の入居始まる

仮設住宅の鍵を開ける蕨野さん=3日午後1時40分、輪島市マリンタウン

  ●今も避難所の人を思うと…

 輪島市で仮設住宅への入居が始まった3日、住民は整った生活空間に「ぐっすり眠れそう」「感染症の心配が減る」と喜びの声を上げた。一方、仮設住宅の戸数が不足し、今後も不便な生活をしいられる避難者も多いことから「もっとつらい人がいると思うと、素直に喜べない」と複雑な胸の内を明かす入居者もいた。(政治部・作内祥平)

 入居者は3日、輪島市役所で鍵を受け取り、市マリンタウンに整備された仮設住宅に入った。第1陣として入居が決まった55人は、多くが朝市通り周辺の大規模火災で家が焼失した人たち。この日、初めて居住スペースに足を踏み入れた家族連れは、整った水回りなどの設備に歓声を上げた。

 自宅が倒壊、焼失した河井町の蕨野(わらびの)永治さん(75)は断水に苦しんだ1カ月間を振り返り、「風呂に入れるのがうれしい」と語った。

 ただ、その言葉とは裏腹に、蕨野さんの表情は晴れなかった。避難所や自宅で過ごす人の中には80代や90代も多く、「自分より高齢の避難者がつらい生活を続けると思うと、うれしさも半分」という。

 大下澄子さん(76)も「避難所に比べて精神的に楽」とする半面、「今も避難所に残っている人が気の毒だ」と話した。長女の尚美さん(53)は「避難所は仕切りもない雑魚寝状態で、感染症が心配だった。母一人でも入居できて安心した」とほっとした表情を浮かべた。

  ●「生きて恩返し」

 「準備してくれた人のためにも、ここで生きて恩に報いたい」と語ったのは河井町の槌谷義雄さん(82)。火事で住宅が全焼、内灘町に避難していたが、仮設住宅の入居開始に合わせて輪島へ戻った。金沢に住む息子からは「こっちへ来ないか」と誘われたが、「自分は輪島で頑張りたい」と断ったという。

 市によると、3日は9世帯23人に鍵を渡した。仮設住宅は木造で、冷暖房や寒さ対策のオイルヒーターを完備。キッチン、トイレ、風呂付きで、浄水をためる受水槽と下水の浄化槽も備える。窓は三重ガラスで結露しにくく、遮音性も高いという。

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