玉置玲央が『光る君へ』で放つキケンな魅力 華やかな布陣の中でも際立つ存在感

いま、玉置玲央に見惚れている。これは私だけではないだろう。放送中の大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)で初回から大暴れしては話題をさらったのだ。

まだはじまったばかりの本作をとおして、彼のその“キケンな魅力”に触れることができた視聴者は少なくないと思う。映画やドラマで主役級のポジションを担う華やかな布陣の中でも、圧倒的に彼の存在が際立っているのだ。

本作で玉置が演じているのは藤原道兼。右大臣である藤原兼家(段田安則)の次男であり、のちに最高権力者となる藤原道長(柄本佑)の兄だ。いつも穏やかで才能にあふれる長男の道隆(井浦新)とは対照的で、つねに苛立ちを抱えた人物だ。主人公・まひろ(吉高由里子)の母を殺めたのも彼であり、とにかく問題の多い人間である。

冒頭に記しているように、第1話から大暴れ。激情型な彼はことあるごとに自身の鬱憤の捌け口に弟を利用し、果ては無害で無抵抗な人間を斬り捨てる始末。あまりにキケンだ。

しかしだからといって、これをただ筋書きどおりに演じただけでは、あれほどまでの“恐怖の初回”は生まれなかっただろう。玉置は各シーンにおける道兼の感情ごとに声色のみならずその質感までも自在に操り、アップで捉えられた際の表情によるパフォーマンスは目が離せないものだった。表情筋の細部にまで、道兼の心情と、その演じ手である玉置の意志とが宿っているのが感じられて鳥肌が立ったほど。俳優にはいろんなタイプがいて、当然ながら俳優ごとに演技のアプローチは違う。だから一概に何がベストなのかなど断言できやしないが、彼の“演じる”という行為に対する意識の高さに私たちが打ちのめされた結果が、あの初回なのだと思う。

そんな玉置の演技者としてのキャリアのはじまりは演劇である。現在も劇団「柿喰う客」の一員だ。やはり舞台で鍛えてきた人間は基礎力が違う。演劇には映像のような編集があるわけではないし、いちど幕が上がれば逃げ場はない。目の前の観客に差し出せるのは、さまざまな経験を積んだ己の肉体のみ。これをいかに信じられるかが舞台俳優としての強さに関わってくるのではないかと思う。そしてそこで培われたものは映像の領域にだって生きるはずなのだ。

私が玉置玲央という俳優を知ったのは、2012年に上演された「柿喰う客」の『無差別』という作品でのこと。彼の声と身体の扱い方には、まるでアスリート的なものを感じ、衝撃を受けた。近年は朝ドラ『おかえりモネ』(NHK総合)や佐向大監督による映画『教誨師』(2018年)に『夜を走る』(2022年)など映像の領域でもアクティブな活動を展開しているが、やはり舞台にもコンスタントに立ち続けている。2022年に上演された『パンドラの鐘』のハンニバル役は、やっぱりすごかった。1999年に野田秀樹と蜷川幸雄が“世紀の演劇対決”として同時期に上演したビッグタイトルであり、野田版では松尾スズキが、蜷川版では松重豊が演じたキャラクターである。

このように豊かなキャリアを築いてきたタイミングでの道兼役は非常に大きいはず。大河ドラマは視聴者層の幅が広く、先述してきたように道兼は目立つキャラクターだ。本作でさらにその名前と力が知られることになるのだろう。こういった俳優のキャリアの流れに対して、「ブレイクした」などと評する言葉をたまに目にするが、小劇場をはじめとする演劇は下積みの場などでは決してないことを強く言っておきたい。『光る君へ』で放つキケンな魅力を、体温が感じられる距離感でこれからも味わっていきたいものである。

(文=折田侑駿)

© 株式会社blueprint