体罰で監督を辞任…「俺みたいになるな!」"しくじり監督"が伝えるパワハラへの「致命的な7つの習慣」 スポーツの暴力行為など相談件数は前年の約2倍に

パワハラで部活の監督を辞任。「俺みたいになるな」とスポーツ指導者に講演で語り掛けたのは、ラグビー強豪校の元監督の男性です。
いまだ暴力行為がスポーツの現場で行われる中、失敗から学んだ男性が伝えたのは、パワハラにつながる「致命的な7つの習慣」と、回避するための「身につけたい7つの習慣」です。

1月18日から2日間、鳥取県鳥取市で行われた「第58回全国高等学校体育連盟研究大会」。全国の高校スポーツの指導者が集まり、研究成果の発表を行いました。

「3年生の中心選手の練習の態度、生活の態度の悪さに、私はその選手を全員の前で怒鳴りつけ、手を出してしまったのです」

初日の講演で壇上に立ったのは、流通経済大学ラグビー部アドバイザー・松井英幸さん。

松井さんは、強豪で知られる千葉の流通経済大柏高ラグビー部の監督を30年間務めていましたが、2015年、体罰がきっかけで辞任しました。

その後、コーチングなどを学び、現在は自身の経験をもとに指導者への講演活動などを行っています。

流通経済大学ラグビー部アドバイザー 松井英幸さん
「指導者と選手間に強い主従関係があります。スポーツ特有の勝利主義や仲間意識、精神論、暴力行為を容認する意見が、未だ指導者や保護者に根強くあります」

日本スポーツ協会が設けているスポーツでの暴力行為などの相談窓口に寄せられた相談件数は、2022年度には過去最多の373件となり、前年度と比べると約2倍に増えました。

なぜスポーツの現場でパワハラが起きるのか?

松井さんはこの状況を、「選択理論心理学」の側面から捉えます。

流通経済大学ラグビー部アドバイザー 松井英幸さん
「人の動機付けは、外側から相手を変えることができます。『自分は正しい。相手が間違っている。相手を正すことは正しい』という考え方です。これを選択理論心理学では、外的コントロールといいます」

松井さんは、パワハラにつながる「外的コントロール」の致命的な習慣として、「批判する」「責める」「文句を言う」「ガミガミ言う」「脅す」「罰する」「目先の褒美で釣る」の7つを挙げました。

流通経済大学ラグビー部アドバイザー 松井英幸さん
「この外的コントロールを聞いたとき、これは俺のことを言われてるのかというぐらい、私はこの致命的な7つの習慣を使いこなしてました。目先の褒美で釣る。『おい、試合に勝ったら明日休みしてやるぞ』。そんなことを言ってた自分がいました。やはり私たちにとっては楽ですよ。『やれ』『四の五の言わずやりゃいいんだ』。簡単ですよね。こういうふうに私たちは指導していました。そして、短期的であるが効果が出ます」

ではパワハラをしないために、どうするべきなのか?

松井さんは、選手本人に考え行動させる「内的コントロール」が重要とし、「傾聴する」「支援する」「励ます」「尊敬する」「信頼する」「受容する」「違いを交渉する」の7つの習慣を身につけたいと話します。

中でも、「励ます」方法としては、試合前の激励のショートスピーチ「ペップトーク」が最適とのこと。

流通経済大学ラグビー部アドバイザー 松井英幸さん
「大谷翔平さんのあのWBCのときの言葉です。『僕から1個だけ、憧れるのをやめましょう。憧れてしまっては超えられないので、僕らは今日超えるために、トップになるために来たので、今日1日だけは、彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう。さあ行こう』これ皆さんご存知だと思います。実はこれは、まさしくペップトークなんです」

アメリカでは当たり前のように行われている「ペップトーク」。日本の指導者も学ぶべきだとしています。

流通経済大学ラグビー部アドバイザー 松井英幸さん
「ついつい私達は、相手のことを思うあまり、お前に良くなってほしいんだ、お前に頑張ってほしいんだという思いがあるけど、言葉は反対の言葉をついつい使ってしまっていたんじゃないでしょうか?以前の私も、まさしくその通りです。『お前ら全然駄目じゃないか、だけど腹の中でお前に期待してるんだ』。『お前本当にやる気あるのか、お前が一生懸命やることが大事なんだ』。だけども、こういう否定的な言葉を使う。『お前じゃ無理だよ』と言いながら、お前に期待してるという思いからそういう逆の言葉を使っていた。ですから、私達はこれからは、相手に響く言葉を、まさしくコミュニケーションギャップを越えるには、やはり言葉の力が大事です」

選手への愛情とは真逆の否定的な言葉が出てしまう…。そんな指導者に松井さんが求めるのは、選手との心からの対話、そして、言葉の力を磨くことです。

参加者(陸上競技の指導者)
「あすは我が身というか、いつ起こってもおかしくないことだと思うので、自分のことと置き換えて聞かせていただきました」

参加者(バレーの元指導者)
「伝えるというものが、当たり前のようにやっていたことが、使い方によっては全然違う方向に行くんだということがあったので、今後いろんな指導者に伝えていきたいです」

自分の「しくじり体験」を後輩の指導者たちに味わってほしくない。松井さんは今後も「俺みたいになるな!」と言い続けます。

流通経済大学ラグビー部アドバイザー 松井英幸さん
「私たち指導者が新しいことを始める勇気、前例にないことに挑戦する勇気、変わる勇気、私たち指導者が一歩踏み出す覚悟と勇気を持つことが、選手たちの未来への架け橋となるのではないでしょうか」

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