荒れ果てたごみ山を再生し…“そばの花”咲く映えスポットに 耕作放棄地の復活に取り組む女性に密着

日本全国で農業を営む人が年々減っている一方、荒れ果てた耕作放棄地は増えて問題となっています。雑草が伸び、ゴミなどが不法投棄された耕作放棄地を復活させようと奮闘する、1人の女性。奮闘の先に、どのような未来を描いているのか密着しました。

「片付けに多大な時間とコストが必要」

愛知県豊川市で代々農業を続けている酒井美代子さん。2023年9月、耕作放棄地に有志を募って、そばの実を撒きました。

(酒井美代子さん)
「豊川稲荷っていう人が集まる場所があるから。元々おそば屋さんもあるし。海外のそばではなく、国産のさらに地元産のなんてなかなか良くない?」

約5500平方メートルの畑は、3年前まで耕作放棄地としてゴミや資材置き場になっていました。一旦、耕作放棄地になると農業を再開したくても、雑草やゴミの片づけだけで多額の費用や時間がかかり、簡単にはできません。

(酒井美代子さん)
「農家だって片付けている時間があるなら、きれいな畑で耕作した方が収入につながるもんね。片付けている間は、収入につながらない」

耕作放棄地は全国的に増えていて、豊川市でも約93ヘクタールと農地全体に占める割合が増え続けています。小さい頃から作物でいっぱいの畑を見てきた酒井さんは、一念発起。ボランティアで知り合った仲間に呼びかけ、耕作放棄地の復活に取り組み始めました。

(酒井美代子さん)
「今、新規就農の人たちが借りられる畑は草だらけとか、とんでもない畑ばかりで、なかなか整った畑を借りるのは難しい。汚い畑をきれいにするのにも数年かかる。農地を昔みたいに、全面休むところなく使う農業地帯に戻りたい」

荒れ果てたごみ山を、そばの花が咲く映えスポットに!

こうして酒井さんが掲げたのは「休耕地ハッピープロジェクト」です。地元住民を中心に参加人数は延べ200人、地元の行政も産廃の片付けに協力するなど、官民一体で農地の再生に取り組んでいます。

そばの実を選んだ理由は、やせた土地でも育ちやすく、収穫まで3か月程度と早く結果が出せるから。そしてもう一つ、大切な理由がありました。種をまいてから一か月経つと、畑一面を埋めつくすような白いそばの花が咲きます。道行く人も、思わず足を止めています。

(酒井美代子さん)
「ここは抜け道で、元通学路だったけどみんな目をつむって通るくらいのごみ山だった。みんなここを通らなかったんだけど、最近結構通るようになって。『ここの畑遠くから見てきれいに咲いてるね』って褒めてもらったりとか。映えスポットのコースみたいに、ここを回って豊川稲荷に行くとか、(写真映えする)そば畑のマップをいつか作りたいなって思っていて」

かつて見向きもされなかった耕作放棄地が、白い花でいっぱいの「映えスポット」に。耕作放棄地の復活に、人々の関心が集まることも期待できます。12月になって気温が下がり実が色付くと収穫の時期です。そばの出来栄えは上々でした。

豊川市に新たな名物を!地元産を広げる取り組み

2023年の年末、酒井さんは一昨年の収穫分のそばを持って、豊川稲荷の門前にある飲食店「むすび茶屋」を訪れました。実はこの店も、ハッピープロジェクトのメンバーの一員です。持ち込んだそばを使って、初めて試食してみる事に。

(酒井美代子さん)
「豊川産のそばで(店を)やれたら最高だよね」

期間限定商品として、乾麺にしたそばをお土産としても販売しました。すると…

(お客さん)
「気になりますね。“豊川産のそば”って食べたことない。おいなりさんとそばと一緒に食べたらおいしそう」

豊川産という言葉に興味を持ち、そばを買ってくれる人たちを見た酒井さんは、今後に期待を寄せます。

(酒井美代子さん)
「そばも豊川稲荷の門前で食べてもらえるなら、生産者も増えるかもしれない。山の方がそば畑でいっぱいになるかもしれない」

荒れ果てた畑に、もう一度人の手を。10年後、ひょっとしたら地元産のそばが豊川稲荷の門前の名物になっているかも。そんな期待と共に、酒井さんの挑戦は続きます。

CBCテレビ「チャント!」1月11日放送より

© CBCテレビ