アングル:PC普及で廃れた筆記体、米小学校で教育義務化の動き

Daniel Trotta

[フラートン(米カリフォルニア州) 27日 ロイター] - 米国ではコンピューターの普及に伴って、筆記体はほとんど使われなくなった。しかし、カリフォルニア州が今年から小学校で筆記体の学習を義務化するなど、教育の再開に取り組む州が増えている。端末操作を通じて文字の書き方を学んだ世代は今後、時代遅れになるかもしれない。

カリフォルニア州では元小学校教師のシャロン・クワークシルヴァ氏が筆記体の学習義務化に関する法案を議会に提出し、法案が昨年10月に成立。小学校1年生から6年生(概ね6歳から12歳)に相当する260万人に対して筆記体の指導を行い、「適切な」学年(一般的には3年生以上)に筆記体の授業を行うことが義務付けられた。

専門家によると、筆記体の学習には認知能力の発達、読解力や手先の器用さの向上といった効果がある。また、歴史的な文書や何世代も前の家族の手紙の読み方を教えることは重要だとの声もある。

ロサンゼルス南東約50キロのフラートンにあるオレンジソープ小学校では、4年生から6年生を受け持つ教師のパメラ・ケラーさんが、この法律が1月1日に施行される前から筆記体を教えていた。

難しいと不平を言う生徒もいるが、ケラーさんは「これで頭が良くなるし、脳のつながりができて次のレベルに進むのに役立つよと彼らに説明すると、生徒たちはもっと賢くなりたいと思っているからやる気をが出ます。生徒たちは学びたい気持ちをもっていますから」と話した。

今週、筆記体の授業中にケラーさんは生徒たちに、やさしく、ちょっとしたアドバイスをしていた。「少しリラックスして優しくやってみましょう。消しゴムがあるから大丈夫。あの輪っかになったところ、すごくいいよ。気に入った」といった具合だ。

ケラーさんによると、最近、学校の図書室で1787年に書かれた合衆国憲法の画像を見て「筆記体だよ」と、生き生きとした表情を見せた生徒もいたという。

筆記体は難しいという生徒も何人かいて、特にZは難しいという声が上がるが、それでも生徒は筆記体を楽しんでいる。

4年生のソフィー・ガーディアさん(9)は「新しい文字を学ぶのは楽しいし、より素敵な書き方だと思う」と目を輝かせた。

ナンシー・カーチャーさんが受け持つ3年生のクラスでは「楽しい」、「きれい」、「お母さんの字が読めるようになった」、「秘密のため」といった感想が生徒から聞かれるという。

<筆記体の復活>

筆記体はコンピューターのキーボードやタブレットの普及につれて衰退してきた。2010年に発表された大学進学準備のための「全米共通学習達成基準(コモンコア)」からも除外された。

「子どもたちに手書きによる文字の書き方を教えることは一切なくなった」と、手書き指導を推進する非営利団体「ハンドライティング・コレクティブ」の創設者、キャスリーン・ライト氏は言う。

だが、筆記体は復活しつつある。全米州議会議員連盟のローレン・ゲンディル氏によると、カリフォルニア州は14年以降に筆記体の義務付けを導入した州として22番目、筆記体指導法案の制定としては14番目になる。今年に入って既に5州で、議会に筆記体法案が提出されている。

ロサンゼルス郡教育局リーディング言語教育プロジェクトのディレクター、レスリー・ゾロヤ氏は、筆記体の学習はいくつかのスキルを促し、それが連動して幼少期の発達を高めることが研究で明らかになっていると効用を指摘する。

「ブロック体ではなく筆記体を使うことで、異なる神経ネットワークが使われ、脳の中にそうした経路ができる。また、文字がどのように形成されるかという情報の定着にも役立つ。文字を書きながら、その文字の発音や次の文字へのつながりが意識される」と言う。

クワークシルバ氏は、イエズス会出身のジェリー・ブラウン前知事との2016年の出会いが法案を提出するきっかけになった。ブラウン氏は再任されたばかりのシルバさんが教員だったと分かると即座に「筆記体を復活させるべきだ」と伝えた。

厳密に言えば、筆記体はとっくに葬り去られていたわけではなかった。カリフォルニア州には筆記体の学習目標が存在していたのだ。しかし、クワークシルバ氏によると指導は行き届いておらず、一貫性がなかった。

「この法律の目標は、生徒が6年生を終えるまでに筆記体の読み書きができるようになること」だと強調した。

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