京都市にはなぜ女性市長が生まれない? 過去には在職中死亡も「鋼のメンタルと体が必要」

京都市役所

 2月4日投開票の京都市長選に立候補したのは5人の新顔。いずれも男性であり、これは今回も京都市初の女性市長が誕生しないことを意味する。

■過去の選挙を調べると…

 お隣の滋賀県では、前の知事や大津市長は女性だったし、府内でも宇治市長に続いて八幡市で全国最年少女性市長が生まれたばかり。社会的にも女性活躍やジェンダー平等の機運は高まっているが、過去の京都市長選を調べると、女性の立候補者は2人しかいなかった。

 なぜ、女性は京都市長選にチャレンジしない、またはできないのだろうか。

 京都市選挙管理委員会によると、女性の市長選立候補者は1989年の三浦貴代さんと2016年の本田久美子さんの2人だけ。三浦さんは1332票、共産党から推薦を受けた本田久美子さんは12万9119票で落選した。

 ■女性の方が選挙に強い

 「女性の方が選挙に強い」

 こう持論を説くのは、2012年に36歳で大津市長に初当選し、2期8年務めた弁護士の越直美さん(48)。とりわけ「都市部の方が女性は議員や首長になりやすい」という。

 実際、京都市と同じ政令指定都市だと、仙台市や横浜市で女性市長が生まれている。越さんによると、東京では都知事はもちろん、区長選挙が行われる23の特別区でも3割が女性区長。地縁血縁が薄く「空中戦」の要素が強くなる都市型選挙では、政治を変えてほしいという有権者の思いが、イメージ的にも刷新感を打ち出せる女性候補に有利に働くという。

 ■京都の女性の政治参画は進んでいる

 京都も女性の政治参画は進んでいる。府議会は女性議員が20%、市議会も25%を超え、全国でも上位という。市議会議長では、「おつるさん」と呼ばれた加藤つるさん(自民党)が1975年に全国の政令指定都市で初の女性議長になっている。

 女性が選挙に強いはずの大都市であり、女性議員を多く育む土壌がある京都市。なのに首長や手を挙げる女性が出てこないのは、また違ったハードルがあるということか。

 企業の女性役員育成を掲げる会社の共同経営者でもある越さんは、女性がリーダーを目指すうえで、時間外労働が多く家庭との両立を図る際に負担が大きくなることや、「自己評価の低さ」がネックになっているという。

 大津市長時代、市立小中学校の児童・生徒会長の男女比を調査すると、小学校は男女が半々だったのに対して、中学校では女性の生徒会長が20%程度にとどまった。

 ■「日本の社会構造に原因」

 越さんは「中学生になると世の中の仕組みが見え、大臣や社長は男性が多く、リーダーは男性がやるものと思うようになる。結果として大人になってもリーダーになることを躊躇するようになる」と日本の社会構造に原因を求める。

 一般的に首長候補者は役所内部から選ばれるケースが少なくない。

 京都市長は、現職の門川大作氏、前市長の桝本頼兼氏と2代続けて教育長から就任した。昭和40年代半ばから平成の初めまでは舩橋求己氏、今川正彦氏と2代続けて助役(副市長)が市長に上がった。

 ■市役所の風土や空気は?

 市役所の風土や空気が女性リーダーの輩出を妨げていることはないのだろうか。

 2017年から4年間、京都市政初の女性副市長を務めた村上圭子さん(66)の元を訪ねた。

 村上さんによると、市役所では30年ほど前から女性の管理職登用が進み、ジェンダーフリーの意識は他の自治体と比べて高いという。現在14人いる区長と担当区長のうち女性は半数を占める。

 ■首長には二つの顔

 首長は議員や幹部職員と違い、行政の執行責任者と政治家の二つの顔を持つ。実務タイプの村上さんは首長になりたいと思ったことはないというが、その要因の一つが、職員時代から長年見てきた京都市長の働きぶりだ。

 「滅私奉公。全てをささげる人じゃないとできない。鋼のメンタル、鋼の体が必要です」

 京都市長は激務で知られる。過去には、1966年に就任した井上清一市長が在職中に亡くなったり、2代前の田辺朋之市長が病気で辞任したりと心身への負担は大きい。議会やメディア、市民からも時に手厳しい批判を受け、庁内外の利害調整に奔走する。

 村上さんは性別を巡る話とは切り離したうえで「京都は選挙でタレント候補がほとんど出ない。市長の振る舞いを市民の方はよく見ていて、市政への関心度が高い」と話す。

 ■政治の側は?

 では候補者を選んだり、推薦したりする政治の側はどう考えているのだろう。

 ある政党の元府連幹部は「女性の候補者を排除しているわけではない」としながらも、京都で長年続く市長選の「共産対非共産」の構図が、主要政党による女性候補擁立に至らない一因とみる。

 つまり、非共産勢力が国政与野党相乗りで候補を一本化する場合、「他の党からも推薦をもらわないといけない。そうなると、たとえば役人とか、個性がなくて収まりがいい人選になる」。

 また接戦が予想されることも、安定感を重視した人選につながると推察する。

 ■つながりや年功序列重視?

 越さんは、京都市は大都市でありながら昔からのコミュニティーがしっかりしていて、その分、男性中心のこれまでのつながりや年功序列が重視され、女性の候補者が応援してもらいにくいのではないかと指摘する。

 一方、自身が最初に出た大津市長選は候補者3人中2人が女性で、2期目の選挙は4人中2人が女性だった。

 ■「1人女性が出ると…」

 「1人女性が出ると、女性を出さないと勝てないという動きが出たりする。京都市長選も女性が立候補するようになれば一気に増えるかもしれない」

 越さんは、社会に多様性を生み出す観点からも、次回以降の女性のチャレンジに期待を込める。

京都市政初の女性副市長を務めた村上圭子さん(下京区)
2012年の大津市長選で初当選した越さん(左)と前滋賀県知事の嘉田由紀子氏

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