気候変動がサッカーに影響?Football For Futureの予測と対策

ルイスFC女子 写真:Getty Images

2021年にイギリスで誕生した「Football For Future(フットボール・フォー・フューチャー/以下FFF)」は、サッカーを通じて環境問題解決を目指す新進気鋭のチャリティー集団だ。気候問題の専門家やサステナビリティに特化したリーダーたちが、プレミアリーグを含めたサッカークラブの職員やアカデミー生たちに対して環境問題に関する教育、クラブのサステナビリティ活動の企画も行っている。

そんなFFFの共同設立者であり共同ディレクターであるバーニー・ウェストン氏が、今年1月25日、南イングランドのルイスFC(イングランド女子2部)の環境活動報告会で「サッカーと環境(気候変動)の関係性」について語った。この記事では、その内容の一部を紹介しよう。


スタンフォード・ブリッジ 写真:Getty Images

気候変動がサッカーに与える影響を知ろう

ウェストン氏によると、近年明らかな気候変動がサッカーに与える影響は大きく2つある。

1)洪水によるスタジアム被害

FFFの調査では、2050年までに約25%の英国内のサッカークラブのスタジアムが、洪水や突風などの自然災害によって一時的、または最悪の場合永続的に使用不可になることが予測されている。特に地盤の低いロンドン地域にあるチェルシーの本拠地スタンフォード・ブリッジや、ウェストハム・ユナイテッドの本拠地ロンドン・スタジアムなどでは、被害の懸念が顕著だ。

毎年1月になると突発的な大雨や雪、嵐などに見舞われている英国だが、近年では災害レベルが上がってきている。実際に今年1月には20、21日にかけて大規模なストーム(Isha)が発生。いくつかの地域でインフラの崩壊や家屋の倒壊があり、スコットランドのグラスゴー・ユナイテッド(西スコットランドリーグ3部所属)では、スタジアム(グリーンフィールド・パーク)の屋根が剥がれる被害があった。

2)気温上昇による選手の熱中症リスク

2022、23年と、世界各国の中でも気温の著しい上昇が続いている英国。サッカーは広いピッチを90分以上もの時間ほぼ全力疾走する競技であり、言うまでもなく暑さは選手の身体に大きな負担を課す。

2022年にイングランド女子代表が優勝を果たしたUEFA欧州女子選手権(7月6~31日)の際には、あまりの気温の高さに野外トレーニングを取りやめ、室内で行える内容に切り替えたという事例もあった。


アーセナルの3rdユニフォーム(2023/24シーズン)イラスト:Football Tribe

サッカーが気候変動に与える影響を知ろう

では逆の視点で、サッカーが環境に与えている影響は何だろうか。ウェストン氏から飛び出した言葉は「カーボンフットプリント」の一言だった。排出される二酸化炭素などの温室効果ガスの出所を調べて把握することである。

例えば「あなたがサッカーの試合を見に行く日を想像してみよう」と同氏。朝起きてから多くの人はパジャマから洋服に着替えるだろう。お気に入りのチームのユニフォームや、観戦に似合うファッションかもしれない。この行為の中で、まずはユニフォームを含む「服」を製造する過程で発生する温室効果ガスの存在に気づく。

次にスタジアムへ行くと思うのだが、ここでもどんな移動手段を選ぶかによって、温室効果ガスの排出量に大きな影響を及ぼすだろう。スタジアムに到着したら、チケットだ。デジタル化の影響を受けて紙のチケット利用は減少傾向にあるが、未だ存在している限り製造工程で排出される温室効果ガスについては、見ぬふりはできない。

ほかにも夜間の試合ではピッチを照らすための大容量の電力が使われる。マッチデーメニューの食事の製造過程や利用するパッケージなどからも温室効果ガスは排出されている。では具体的にどのようにして減らしていくのだろうか?

ルイスFC女子 写真:Getty Images

スタジアムでヴィーガン食にするとどうなる?

近年、環境に配慮したユニークな取り組みを実施しているサッカークラブが注目されている。例えばルイスFCは、1月21日にホームで行われたダラムウィメン(イングランド2部)との試合で、会場で販売するメニューを完全ヴィーガン食(完全菜食主義の食事)にする「Veganuary(ヴィーガニュアリー)」を行った。

一体、この取り組みのどこが環境に配慮されているのか。2016年に発表された英国オックスフォード大学の研究によると、通常の肉や魚などを含めた食事をヴィーガン食に置き換えると、温室効果ガスの排出を約70%も抑えられることが明らかとなっている。

つまり、サッカースタジアムで提供するものを徐々にヴィーガン食にしていくことで、たとえばプレミアリーグの試合に訪れた数万人から排出される温室効果ガスについて、かなりの量を抑えることが期待できるという訳だ。


2024年パリオリンピック 写真:Getty Images

サッカークラブでトレンド化する環境活動

FFFのウェストン氏によれば、前述のような環境に対するサッカークラブの積極的な取り組みは、数年前までは想像もつかなかったという。今ではプレミアリーグ各クラブごとに存在する「サステナビリティ・マネージャー」という担当者も、FFF創設時の2021年にはなかった。

世の中の意識が明らかに変わってきた背景としては、2018年12月11日に国際連合(UN)が世界中のスポーツ業界向けに「スポーツを通じた気候行動枠組み(Sports For Action Framework)」を定めた影響が大きい。

これは各組織が気候変動に対する具体的な施策を設定し、スポーツの力を活用し人々の気候変動に対する意識や行動を牽引するという指針で、FIFA(国際サッカー連盟)、UEFA(欧州サッカー連盟)、プレミアリーグ、そして今夏開幕予定のパリオリンピック組織委員会も賛同している。

今後の環境の変化と共に、サッカー業界の変化にも注目していきたいものだ。

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