不甲斐なさを痛感。“10番”堂安律に求められる、さらなる奮起。ソン・フンミンのように、鬼気迫る闘争心と個の違いを示せる存在になってほしい【アジア杯】

「前回のアジアカップからオリンピックとワールドカップと今回のアジアカップと、何ひとつ代表で成し遂げ切れていない自分の不甲斐なさを今、感じています」(堂安律)

2月3日に行なわれたアジアカップの準々決勝・イラン戦で、1-2の衝撃的な逆転負けを喫し、まさかのベスト8で敗れ去った日本代表。森保一監督が現役時代に参戦し、初のアジア王者に輝いた92年広島大会以降で見ると、8強というのは、96年UAE、2015年オーストラリア、そして今回の3回だけだ。

2023年3月に本格始動した第二次森保ジャパンは、6月のエルサルバドル戦から連勝街道を驀進し、「アジア最強」「今大会優勝候補筆頭」と高く評価されていたが、結果的には5試合で3勝2敗。デュエルや空中戦に長けていて、蹴り込んでくるスタイルを得意とするイランやイラクのような相手に、脆さを露呈する結果となってしまったのだ。

「今日は間違いなく、前半は自分たちのペースでやれていた。でも後半になってパワーで来る相手に、ほとんどの選手が欧州でやっていてパワーに慣れているはずなのに、跳ね返せなかった。

それが何から来るのか分からないけど、相手のパワーに完全に支配された感はあります。見ていた人も『やられそうだな』って雰囲気があったと思うし、やっている人たちもそう感じていたなかで、中の選手から声をかけきれなかったのは課題ですね」

試合後のミックスゾーンに一番に現われた堂安(フライブルク)は、偽らざる本音を打ち明けた。彼が指摘する通り、後半の日本はリスタート、ロングスロー、サイドチェンジを多用してくる相手に屈し、負けるべくして負けた。

1-1で迎えた90+6分に、ジャハンバフシュのPKを決められるまでピッチに立っていながら、攻めに転じる推進力を出せず、「10番」を背負って初の公式大会で1ゴールに終わった。その事実を堂安は重く受け止めている様子だ。

今大会は序盤2戦が停滞し、そこで堂安がカツを入れたことで、インドネシア戦以降は日本らしさを取り戻しつつあった。堂安と毎熊晟矢(C大阪)の右の縦関係もまだ4か月しか組んでいないのに、非常に息が合っており、久保建英(レアル・ソシエダ)を含めた3人の連動性には大きな可能性も感じさせた。

だが、イランは確実にそこを消そうと対策を講じてきた。堂安は左SBモハマディにガッチリとマークされ、毎熊もモヘビの対応とハイボール処理に忙殺され、攻め上がる機会をなかなか作れなかった。

むしろこの日は前田大然(セルティック)と伊藤洋輝(シュツットガルト)が陣取った左サイドの方が機能。そこに守田英正(スポルティング)と上田綺世(フェイエノールト)が絡んで先制点が生まれている。

【PHOTO】日本代表のイラン戦出場15選手&監督の採点・寸評。後半は何もできずに敗戦。及第点は2人のみの低評価

だが、後半になると両サイドが高い位置を取れなくなり、堂安も“消えている”時間が長くなった。とはいえ、チームを離脱した伊東純也(スタッド・ドゥ・ランス)という重要なカードを使えず、堂安がある程度、出続けているしかない。

彼自身も3戦連続スタメンで疲労が溜まり、動きにキレがなくなってきていた。そうなると、鋭いフィニッシュという武器も発揮できない。さすがの堂安もなす術を見出せなかった。

「前半は身体も動いていたなかで、セカンドボールの球際も勝っていましたけど、やっぱり後半ですね、ズルズルズルズル行ってしまったし、失点の仕方がちょっと悪くて、メンタル的にもダメージが来た。

普段動けるはずが、脳からダメージが来て、ちょっとずつまた動けなくなった。攻撃もボール持った時に打開策が全く見えなかったし、後半は本当に情けないゲームでした」と堂安も反省しきりだった。

彼自身がエースナンバー10を背負っている以上、このようなパフォーマンスを二度と繰り返してはいけない。2026年北中米W杯のアジア枠が8・5枠に拡大したとはいえ、日本はここから1年以上も予選を戦わなければいけない。前回大会の最終予選でもオマーンとサウジアラビアに敗れたように、今回も同じミスを犯さないとも限らない。

そういう時に、前回は長友佑都(FC東京)や吉田麻也(LAギャラクシー)らベテランが力強くリードしてくれたが、今はそういう面々もいない。ならば、メンタルが強く、悪いことは悪いとハッキリ言える堂安が、闘将タイプの冨安健洋(アーセナル)と力を合わせてチームを引っ張っていくしかない。ここからはもう遠慮している場合ではないのだ。

代表で堂々と振る舞うためにも、所属のフライブルクでもっと目覚ましい結果を残す必要がある。今季の堂安は親知らずの問題の影響もあってシーズン序盤に躓き、まだ今季リーグ戦で1ゴールしか奪っていない。チームの順位も7位とUEFA圏内が微妙な情勢。このまま足踏み状態を続けるわけにはいかない。

堂安がかつての香川真司(C大阪)や本田圭佑のような絶対的エースになってくれれば、イラン戦のような苦境でもワンチャンスから一撃を食わらせることができる。

2日のオーストラリア戦で韓国の絶対的エース、ソン・フンミンが見せたような鬼気迫る闘争心と個の違いを示せる存在になってほしい。それが2度目のアジアカップで挫折を味わった堂安に求められる今後の重要テーマだ。こんなところで歩みを止めている時間はない。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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