社説:自動運転バス 安全性高め「住民の足」なるか

 住民の移動手段を守る切り札となるのか。安全を最優先に、さらなる信頼性の確保と環境整備が求められよう。

 人に代わって自動で車を操作する「自動運転バス」の導入に向けた動きが、各地で広がっている。

 共同通信の調査によると、一定条件下で運転手がいなくても走行可能な「レベル4」バスの地域交通への導入について、福井県が永平寺町で始めており(現在休止中)、福岡県が2市で予定しているとした。30都道府県が検討しているという。

 すでに全国では、運転手はいるが一定の条件で手放し運転が可能な「レベル2」以上の実証実験や実用化が、36都道府県で行われている。東近江市では2021年から、中山間地の移動サービスとして、4.4キロを走行する実用化に移行している。

 先行地域での有効性や課題を洗い出し、人口減少や高齢化が進む中で住民の「足」を確保する新たな選択肢を整えたい。

 自動運転バスは、自動化の度合いで5段階のレベルに区分される。昨年4月の改正道交法施行で、「レベル4」の公道走行が解禁された。

 政府は春以降、運行に適した道路環境を検討するため、新たに専用レーンなどを設けた実証実験を開始。25年度に50カ所、27年度に100カ所以上での自動運転バス実現を目指すとしている。

 導入が進む背景には地方の人口減少に加え、深刻化する運転手の確保難がある。

 帝国データバンクによると、全国の民営路線バス会社127社のうち、約8割が23年度中に減便、廃止を実施した。

 都市部でも、大阪府の南河内地域の金剛自動車は全15路線を廃止、バス事業から撤退した。

 こうした中、京都や滋賀でも自治体や事業者の試行が続く。

 京阪神にまたがる関西文化学術研究都市では18年からさまざまな形で実証実験を続け、ノウハウを積み重ねている。

 最大の課題は安全性の確保である。

 大津市では「レベル2」の実証実験をしていた昨年1月、坂道でバスが自動加速した弾みで、乗客が座席から滑り落ちる事故が発生。実験を中止した。全国でも永平寺町で駐輪中の自転車と、福岡市ではタクシーと接触した事例も発生した。

 丁寧な検証と課題の克服が求められる。事故が起こった場合の法的責任に関するルールづくりも欠かせない。

 自動運転技術は自家用車や輸送分野でも進展している。すでに米国では完全自動運転の無人タクシーが稼働しており、スマホのアプリなどで簡単に利用できる。市場の拡大や生産性の向上へ各国、企業は力を入れる。

 命を預ける乗り物だけに前のめりな導入は慎みつつ、日本でも新技術を生かしたい。
 

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