【海外試乗】マセラティV8の終焉と生産終了記念モデル「ギブリ334ウルティマ&レヴァンテ V8ウルティマ」

2023年をもってマセラティが誇る伝説のV型8気筒ツインターボエンジンが生産を終えた。そんな最後のV8搭載モデルとなるクアトロポルテ トロフェオとギブリ トロフェオに、雪深いイタリアで試乗した。(Motor Magazine 2024年3月号より)

1959年より続いたマセラティV8エンジンに幕

2023年をもって、数々の栄冠に彩られたマセラティV8の歴史がひっそりと幕を閉じた。

カーボンファイバー製のヘッドカバーに紅いシリンダーヘッドが印象的なV8エンジン。最高出力580ps、最大トルク730Nmを発生。

マセラティ初のV8モデルが誕生したのは1959年のこと。3500GTのボディに、もともとレース用に開発された5L V8エンジンを押し込んだ5000GTは、当時のペルシャ国王からのリクエストにより誕生したもので、わずか34台のみが生産された。

同じ V8エンジンは初代クアトロポルテ、初代ギブリ、ボーラなど、私たちにも馴染みの深いモデルにも採用されながら1990年まで生産され続けた。なかなかの長寿エンジンである。

この“初代”に続くV8エンジンは1989年デビューのシャマルに搭載されて世に出ると、4代目クアトロポルテにも積まれたが、1997年にマセラティがフェラーリ傘下に入ると、マラネロ製V8にトライデントのマークが与えられるようになる。

以来、マセラティのV8エンジンといえばフェラーリが生産したものを指すようになったが、同じV8でもマセラティとフェラーリでは微妙に仕様が異なり、クランクシャフトはマセラティ用がクロスプレーンでフェラーリ用がフラットプレーンとされた。

前者が快適性重視で後者が出力重視となることは皆さんもご存じのとおりだが、ピュアスポーツのフェラーリと異なり、マセラティは長距離を高速かつ快適に移動するグランツーリズモとしての性格が求められたから、これは当然の判断だったといえる。

終了が惜しいほどの完成度のクアトロポルテ トロフェオ

そんなマセラティV8の歴史を振り返るイベントが、雪深いイタリア北部で開催された。つまり、マセラティによる雪上試乗会が催されたのだ。

特設コースでは試せなかったものの、公道ではしっとりとして上質な乗り心地とハンドリングが堪能できたクアトロポルテ。

最初に試乗したのはV8エンジンを積んだクアトロポルテ トロフェオ。全長5.2mのサルーンは流れるようなスタイリングが美しく、イタリアのセンスに溢れたインテリアの仕立ても魅力的だが、少なくともその初期型は、ボディ剛性が高くないためにサスペンションの動きがあいまいで、ハンドリングにしても乗り心地にしても決して洗練されているとは言いがたかったと記憶している。

ところが、生産終了を間近に控えたクアトロポルテ トロフェオは、これが同じクルマとは信じられないくらいボディ剛性が向上していたほか、良質なダンパーが生み出す乗り心地はしっとりとして快適で、このままラインナップから消し去るのは惜しいほどの完成度だった。

正直、ADASやインフォテインメント系が最新でないことを除けば、メルセデスベンツSクラスやアウディA8よりも魅力的と思えるほどである。

クローズドの特設雪上コースではギブリ トロフェオに試乗した。クアトロポルテよりもホイールベースが短いギブリのハンドリングは軽快で、後輪駆動ゆえに激しくテールを左右に振るドリフト走行を満喫できた。ただし、当日は気温が0度近くと「高め」だったために雪面をグリップするのは難しく、トラクションを確保するのに苦労したことを付け加えておきたい。

特設コースを走るギブリ。クアトロポルテよりホイールベースが短いため、軽快なハンドリングが楽しめる。

V8モデルがマセラティのラインナップから落ちるのは、マセラティがフェラーリ傘下を離れ、ステランティスに組み込まれたことも影響しているが、それ以上に重要なのは、V8エンジンに優るパフォーマンスのV6“ネットゥーノ”エンジンをマセラティ自身が生み出したことにある。つまり、今後マセラティのフラッグシップにはネットゥーノエンジンが搭載されることになるわけだ。

一方、マセラティはV8モデルの生産終了を記念して、ギブリとレヴァンテに限定モデルを設定した。なかでも世界で103台だけが限定生産されるギブリ334ウルティマは、最高速度が4ドアモデルとして世界最速の334km/hに達するという。レヴァンテ V8ウルティマを含め、日本にも少数が輸入されるので注目したいところだ。(文:大谷達也/写真:マセラティS.p.A.)

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