ハイプレスに苦しみ自陣に封じ込められた日本。ドイツ戦で成功体験を得た、最も主たる鎌田大地はイラン戦にはいなかった【アジア杯】

[アジアカップ 準々決勝]日本 1-2 イラン/2月3日/エデュケーション・シティ・スタジアム

日本代表は2月3日、アジアカップの準々決勝でイランと対戦し、前半に守田英正のゴールで先制したものの、後半に同点に追いつかれ、さらに終了間際にPKで失点。1-2で逆転負けを喫し、アジアカップ敗退が決まった。

ロングボールとハイプレスに封殺される。この2つの戦術に悩まされたグループステージのイラク戦で、日本はチャンス乏しく1-2で敗れたが、イラン戦はその轍を踏むことになってしまった。

相手は前半、ブロックを構えて体力の消費を抑え、後半に向けては日本陣内で人を捕まえるハイプレスへ移行している。その結果、イラン戦の日本はイラク戦以上にボールを運べなくなり、自陣に封じ込められた。

戦略的に酷似する両チームに大きな違いがあったとすれば、ロングボールの使い方だ。イラクはFWアイメン・フセインをターゲットにしたハイボールを蹴ってきたが、イランのターゲットは徹底してスペース。冨安健洋と板倉滉の間にポジションを取り続けるFWサルダル・アズムンを走らせ、何度オフサイドにかかっても、一発で背後を突くボールを狙い続けた。

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日本はこの背後へのロングボールに対し、ある程度は対処できたが、徹底されて苦しんだのは確かだ。トランジション(攻守の切り替え)時のリスク管理のため、谷口彰悟を入れてCBを増やし、5バックに変更する手はあった。

その場合、冨安がビルドアップに絡みやすくなったり、中山雄太を投入しやすくなったり、さらに終盤の空中戦に対抗したりとメリットは多く、状況の打開策になり得たはず。しかし、延長戦を意識したのか、森保一監督は動かなかった。

ただ、そうは言ってもロングボールにはある程度対処できたし、「ああすれば良かった」という策が明確に浮かぶところに救いはある。だが、相手のハイプレスに対してはロングボール以上に苦しめられ、自陣に閉じ込められ、ほぼ対処できなかった無力感が残る。

イランの守備はマンツーマンだった。自陣も敵陣もマンツーマン。日本の先制場面はそれがイラン側で裏目に出て、自陣でボランチが空けたスペースを上田綺世のポストプレーと守田の侵入により、日本が突くことができた。

ところが、後半はイランの対人の強さが、ハイプレス場面で存分に発揮された。イランは[4-2-3-1]の布陣からボランチ1枚を中盤の底に残し、前線5枚で寄せてきたが、その圧力を受けた日本は、前へボールを運べなくなった。押し返せないまま、攻撃を受け続けるのは苦しい。

プレス回避のテーマについては、昨年9月のドイツ戦で軽やかな回答を見せたばかりだ。両ウイングを大外に張らせて、ファーストプレスをかわした瞬間、一気にサイドチェンジで敵陣へ攻め込む。それが奏功したのがドイツ戦だったが、当時、そのファーストプレスをかわすキーマンは鎌田大地だった。今大会は招集されていない。

ドイツ戦で鎌田がやったように、トップ下の彼がサイドバックの位置まで斜めに下りて、逆にサイドバックは中盤のすき間へ入る。これはイランに対しても有効打になったのではないか。

相手のアンカーは当然、トップ下の久保建英なり南野拓実なりを追撃しようとするが、サイドバックが入ってくるので足が止まる。ウイングとサイドバックの単純な隣同士のポジションチェンジより、マンツーマン主体の相手には有効だろう。ところが、ドイツ戦でその成功体験を得た、最も主たる選手はイラン戦にいなかった。
また、上記のロングボールやハイプレスといった個々の課題に関して、包括的に影響力を弱めるゲームコントロールも不足していた。上田がファウルを受けたり、ボールを奪った瞬間にうまく運べたりした場面で、明らかに前線の枚数が不足しているのに、縦に急ぎすぎて攻撃を終わらせてしまい、試合のペースを再びイランへ明け渡した。個々の局面解決に加え、包括的な解決策としても、日本はうまく戦えていなかった。

完敗と言うしかない。4年前は、優勝候補と呼ばれたイランを日本が分析し、丸裸にして3-0で完勝した。今回は全くの逆だ。優勝候補と呼ばれた日本の特徴が丸裸にされ、イランに完敗を喫した。これがサッカー。国を背負って戦う真剣勝負だ。

試合後は様々な感情が溢れたが、落ち着いて俯瞰すると、日本が抱える問題はかなり出た。これらがごまかされたまま、何となく結果だけ残して最終予選や次のワールドカップを迎えるよりはいい。そう思うことにした。

取材・文●清水英斗(サッカーライター)

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