『呪術廻戦』伏黒恵も『anan』の表紙に “推し活”がアニメ作品に及ぼす影響を考える

1月31日に『呪術廻戦』の伏黒恵が表紙を飾る『anan スペシャルエディション』が発売された。“推し活”が流行している近年、女性誌の表紙にアニメや漫画の男性キャラが登場する機会が増えている。

推し活は、作品の展開やPRにどんな影響を与えているのだろうか。本記事では、女性誌とのかかわりが深い、『名探偵コナン』『進撃の巨人』『呪術廻戦』の3作品を題材に、推し活がアニメ公式に及ぼしている変化を探る。

●抱き枕カバーになった人気キャラたち

アニメ公式に対して推し活がもたらす影響として最も顕著なのは、何といってもグッズのラインナップだろう。

推し活アイテムとして人気の高いアクリルスタンド(通称アクスタ)は、『呪術廻戦』と『名探偵コナン』、『進撃の巨人』のいずれの作品でも販売されている。

加えて、『名探偵コナン』は安室透と赤井秀一、服部平治、『進撃の巨人』はエレンやリヴァイの“抱き枕カバー”まで展開。作品中の人物と恋愛をする「乙女ゲーム」さながらに、キャラクターとの密な距離感を楽しめる商品を公式が開発しているのだ。

『名探偵コナン』はさらに、安室や怪盗キッド、赤井などがシーツに寝転ぶ姿を描いた「寝そべりver.」の缶入りメモやフラットケースまで販売している。

小学生時代から本作を愛読してきた筆者は、こうしたグッズを見て少々複雑な思いもあったが、グッズの利益によって作品がさらに世に広まること、キャラクターと生活をともにできることは大きな喜びだろう。

●サブキャラが主役に進化? アニメ映画の方針転換

これまで計26作もの映画が公開されてきた『名探偵コナン』。推し活の広まりは、映画の内容にも影響をもたらしている。

本作の歴代映画において大きな変化点となったのは、安室透(降谷零)が実質的な主役として描かれた2018年公開の『名探偵コナン ゼロの執行人』。

主要キャラの恋模様や怪盗キッドとコナンの対決、黒の組織とのバトルを題材とすることが多かった映画に、“新キャラ”が主役として躍り出たのだ。

ファンに「安室の女」という俗称がつくほど強烈な人気を得ている安室は、2022年公開の『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』でもほぼ主役として登場。男性アニメキャラのソロとして初めて表紙を飾った『anan』では、堂々たる雰囲気を醸し出している。

観客動員数が利益に直結しやすい映画では、同じ作品を何回も観るリピート鑑賞をいかに引き出すかが重要な要素になってくる。

ビジネス的な側面から考えれば、安室のように“推す人”が大量にいるキャラを主役におくのは適した戦略なのだろう。推し活による影響が映画の宣伝戦略に繋がったと思われる作品は『名探偵コナン』だけではない。

2021年に公開された映画『劇場版 呪術廻戦 0』では、大人気の最強の呪術師・五条悟の登場シーンが多く組み込まれている。映画の主役は乙骨憂太だが、キービジュアル内に描かれた五条の眼(六眼)は乙骨の全身よりも巨大だ。

原作未読のアニメ視聴者にとって無名の人物を主役とした本映画は、キービジュアルで“五条悟の活躍”が見られることを暗に示すことにより、彼を慕うファンの入場を誘っていたのかもしれない。

●人気によって寿命が延長?

最後に取り上げるのは、推し活がキャラクターの寿命を延ばしている可能性について。

2023年末に完結編のアニメが放送された『進撃の巨人』において筆者は、大人気キャラであるリヴァイが死ななかった理由を“人気が出過ぎたからではないか?”と考えている。

マンガの最後で車椅子に乗り登場したリヴァイだが、彼は巨人の爆撃によって大きなダメージを受けていた。サシャやハンジといった主要キャラや主人公のエレンまでもが命を落とした本作において、強烈な傷を負ったリヴァイが生き残ったのは、ともすれば不自然な流れのようにも思える。

彼が最後まで生き残り、車椅子姿になってまで最終回に現れたのは、リヴァイに惹かれるファンへの配慮もあったのではないだろうか。

そもそもリヴァイは、2014年発売の女性誌『FRaU』の表紙に描き下ろしイラストで登場し、品切れを続出させた近年の推し活の元祖ともいえる存在だ。彼の命を落として作品を終わらせ、ファンを落胆させるのは原作側としても本意ではなかったように思う。

アイドルや俳優だけでなく、アニメやマンガといった二次元の世界にも多大な影響を及ぼす推し活。推し活による作品の変遷は、まだまだ続いていくのかもしれない。

(文=三山てら子)

© 株式会社blueprint