【ファクトチェック】 「岸田首相と馳知事は地震翌日に自衛隊派遣することを決定」→誤り

Japan In-depth編集部

【ファクトチェック】

岸田首相と馳知事は地震翌日に自衛隊派遣することを決定」→誤り

1月20日、X(旧Twitter)に以下の投稿がなされた。

(X:旧Twitterの埋め込み機能を使っています)

投稿されてから2月4日までに136.9万回表示され、5258いいね!が付き、2209回リポストされている。

この投稿のファクトチェックを行った。

検証

令和6年1月1日、16:10頃、石川県能登地方を震源とする最大震度7(M7.6、深さ約16km)の地震が発生した。

まず、石川県馳浩知事が発災の翌日、すなわち1月2日に自衛隊派遣を決定した、との言説をチェックする。

防衛省によれば、同日の16:45に、馳浩石川県知事から陸上自衛隊第10師団長(守山)に対して災害派遣要請があり、同時刻に受理した、との報告がある。つまり、馳知事は地震が発生したおよそ35分後に自衛隊の派遣要請を行っており、馳知事が「翌日に自衛隊派遣することを決定した」という投稿は誤りであることがわかる。

次に、岸田首相が1月2日に自衛隊派遣を決定した、との言説をチェックする。

同日19:02に行われた官房長官記者会見にて、NHK記者が自衛隊の災害派遣要請有無について質問したところ、林芳正官房長官は当初、「現時点で知事からの災害派遣要請は受けておりませんが、自衛隊については自主派遣で活動しているものと承知している」と回答した。その後記者会見の最後で、「知事から自衛隊に対し派遣要請が行われた」と述べ、前言を訂正、馳知事が自衛隊の災害派遣を要請したことを認めたが、岸田首相が自衛隊の派遣を要請したかどうかについては言及しなかった。

▲写真 林芳正官房長官、首相官邸にて(2024年1月1日) 出典:首相官邸

また同日23:35に行われた総理会見で岸田文雄首相は、「自衛隊機で防災担当副大臣以下の内閣府調査チーム、金沢に到着をいたしました」と発表、かつ「自衛隊の災害派遣、警察の広域緊急援助隊の派遣、消防の緊急消防援助隊の派遣については、道路が寸断されているなど困難を極めているところですが、建物の倒壊などによる被害者は一刻も早く救出する必要があり、全ての手段を尽くして、現地に可及的速やかに入るよう指示をしたところです」と述べている。ここでも首相自身が防衛省・自衛隊に災害派遣要請をしたとの発言はなかった。

▲写真 会見する岸田文雄首相、総理官邸にて(2024年1月1日) 出典:首相官邸

また1月1日18時58分の防衛大臣臨時記者会見木原稔防衛大臣は、「本日、発出された内閣総理大臣指示事項、これは16時15分でしたけども、それを踏まえまして、甚大な被害が発生していることを念頭に、陸海空自衛隊が緊密に連携し、人命救助を第一義とした活動を実施すること。早急に本地震による被害状況を把握できるよう、関係府省庁及び自治体と緊密に連携し、情報収集に努めるとともに、あらゆる手段を活用した情報収集活動を実施すること。これらを指示したところであります」と述べているが、内閣総理大臣が災害派遣要請をおこなったとの発言は無かった。

▲写真 木原稔防衛大臣 出典:防衛省

加えて、翌日1月2日に岸田首相が防衛省に対し、自衛隊の災害派遣要請をしたという事実は、首相官邸ホームページからも、防衛省・自衛隊ホームページからも確認できない。

災害派遣要請の定義

ここで、「災害支援要請」の定義をみてみる。

防衛省によると、「災害派遣は、都道府県知事などが、災害に際し、防衛大臣又は防衛大臣の指定する者へ部隊等の派遣を要請し、要請を受けた防衛大臣などが、やむを得ない事態と認める場合に部隊等を派遣することを原則としている」。これは、「都道府県知事などが、区域内の災害の状況を全般的に把握し、都道府県などの災害救助能力などを考慮したうえで、自衛隊の派遣の要否などを判断するのが最適との考えによるものである」としている。

また、「海上保安庁長官、管区海上保安本部長及び空港事務所長も災害派遣を要請できる。災害派遣、地震防災派遣、原子力災害派遣について、①派遣を命ぜられた自衛官は、自衛隊法第94条(災害派遣時等の権限)に基づき、避難等の措置(警職法第4条)などができる。②災害派遣では予備自衛官及び即応予備自衛官に、地震防災派遣又は原子力災害派遣では即応予備自衛官に招集命令を発することができる。③必要に応じ特別の部隊を臨時に編成することができる」ともある。

つまり、災害派遣は、都道府県知事からの要請により行うことを原則としている。自衛隊の派遣にそもそも首相の要請は必要が無い。

▲図 災害派遣 要請から派遣、撤退までの流れ 出典:防衛省・自衛隊

■ 判定

以上のことから、馳知事による自衛隊災害派遣要請は地震発生同日に行われたことは明らかである。また自衛隊の災害派遣要請は基本的に被災地の都道府県知事が行うことが原則となっていることから、総理大臣の自衛隊派遣要請は必要が無かった。

以上のことから、「岸田首相と馳知事は、翌日に自衛隊派遣することを決定した」という言説は、馳知事については「誤り」である。

また、「岸田首相が翌日(1月2日)に自衛隊派遣することを決定した」、と断定するにたる情報は無かった。なにより、岸田首相については、そもそも発令する必要がないうえに、1月1日夕方には馳知事が派遣要請を行っており、自衛隊も自主活動を始めている状況であった。以上のことから、このポストは全体として「誤り」と判断する。

【Japan In-depthファクトチェックポリシー】

Japan In-depthは、NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、ファクトチェックを実施しています。FIJが定めたガイドラインに準拠して、言説の真実性・正確性の評価・判定を行います。政治家、有識者の発言、メディアの報道、ネット上で拡散されている情報など、社会的に影響の大きな言説を対象とします。判定基準は以下の通りです。

トップ写真:令和6年能登半島地震で倒壊した家屋のおける生存者を捜索する自衛隊員(2024年1月5日 石川県輪島市)出典:Tomohiro Ohsumi/Getty Images

© 株式会社安倍宏行