88歳 現役医師 帯津良一さんが実感する「持たない暮らしは案外と気楽」

人生を豊かなものにするために、欠かせないと思うものはなんでしょう。お金、もの、おしゃれ……、3つあげるとしたら? 話題の新刊『にこにこマンガ 88歳現役医師のときめいて生きる力』から、「持たない暮らしは案外と気楽」という帯津良一さんの暮らしををご紹介します。

案外と気楽な持たない暮らし

私はお金やものに対する執着がないほうです。持ち家もなく、衣服にもそれほどこだわりはありません。移動はもっぱらタクシーを利用しているので、車も持っていません。強いて言えば「酒と本と女」でしょうか。これはわが人生を豊かなものにするために欠かせません。

とはいえ、食の好みは至って庶民派ですし、女といっても気の合う女性とのハグくらいです。これらはものではないので、増える心配はありません。ただ、本は増えていく一方です。

自宅は眠りに帰るだけなので、私が多くの時間を過ごすのは病院の自室です。窓からは広々とした田園風景が望め、四季折々の風景が私の目を楽しませてくれます。なかでも、田植え前の水が張られている水田と刈り入れ後の白鷺の訪れは私の好きな歳時記となっています。

室内に目を転じると、部屋の中央には本や書類の山に占領された大きな机があり、三方の壁は本棚とその前には入りきらない本が積み上げられていますし、床にはウイスキーや焼酎の酒瓶が所狭しと並んでいます。

忙しさゆえと言い訳しつつ、なんとかしなければという気持ちもないわけではありません。少しずつでも身辺整理をしなければと思ってはいます。まだ着手はできていませんが......。

90歳を超えたらおまけの人生

70代、80代と年を重ねるごとに気力、体力、色気などの衰えを感じることもあるでしょう。昨日できていたことが今日はできない、ということも出てきます。「年老いてしまった」「生きていてもしょうがない」「生きるのがめんどうだ」などと無力感におそわれることがあるかもしれません。

この根底には、老いに伴う自分自身の体の変化、社会から取り残される孤独感や焦り、死への不安などが関わり合っているのだと思います。また、高齢者のこうした加齢に伴う心理状態が世間的に誇張されているようにも感じます。

例えば、高齢者はがんこで怒りっぽく、猜疑心が強いなどと言われがちですが年をとったら誰もがそうなるということでもありません。ネガティブな心理状態のひとかけらもない人だっています。

私の敬愛する太極拳の師、楊名時(ようめいじ)先生はその達人でした。いつもニコニコとして、「生きるも死ぬもあるがまま」と思い出したようにおっしゃり、見事な往生を遂げられました。楊名時先生と過ごした時間は、私にとって掌中の珠であり、最大のよろこびです。

ここまで達観するのは難しいかもしれません。90歳を超えたらおまけの人生、思う存分に老いを満喫しよう、そんな余裕を持ってみてはいかがでしょう。

※この記事は『にこにこマンガ 88歳現役医師のときめいて生きる力』帯津良一著(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。

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