【まとめ記事】焚き火を極めたプロが「薪」について徹底解説!

みんな大好きな焚き火。しかし、薪の種類まで気にする人は少ないだろう。
薪にはそれぞれの特徴があり、用途も変われば、香り、音、炎の色も異なる。
そういう木ごとの違いを知れば、こだわりたくなってくるはず。

そこで、焚き火のプロフェッショナルであるiLbf(イルビフ)の堀之内健一郎さんに薪の話を聞いてみた。

プロが教えてくれた薪の基礎知識

iLbf(イルビフ) 堀之内健一郎さん
火とアウトドアの専門店iLbf (イルビフ)の店主であり、焚き火の楽しさを多くの人に広めてきた人物。
国内では珍しい焚き火の専門店を2016年にオープンすると、こだわりのセレクトでマニアからも支持される存在となった。

iLbf の店内には、火に関連するギアがズラリと並ぶ。
本格的な薪ストーブからソロ向けの焚き火台などが豊富に揃っている。
こだわりのアウトドアグッズも目を引く。

埼玉県三郷市彦成4-4-17 みさと団地南商店街104
※営業時間・定休日などは公式サイトにて要確認。

薪にこだわる人が増えてきた

堀之内さん曰く、「以前と比べ、若い人など幅広いお客さんが来るようになりました」。
キャンプスタイルの変化を実感しているそうだ。

「最近では、薪の種類を選んで買われる人が増えました。最初から銘柄を指定する人もいます」とも。
以前は、銘柄を選んで薪を購入する人は少数派だったが、状況は変わりつつある。

例えば、薪を選ぶ際の一般的な見分け方は針葉樹と広葉樹の違い。
キャンプ場で売られている薪の多くが針葉樹だ。
ただ、火付きがよく、火力も強いが、火持ちは悪いという欠点もある。

そのあたりがわかってくると、物足りなさを感じてきて、焚き火を極めたくなる……という流れだ。

薪の違いを知って焚き火マスターに

薪は木それぞれに特徴があり、用途によって最適な木も変わってくる。

例えば、「樫」の場合は火付きは悪いものの、火持ちがいいので、ある程度燃えている焚き火に入れたり、薪ストーブにくべるには最適だ。
「楢」の場合は火付きも火持ちもよく、匂いも少ないので、料理を作るのに適している。ピザ窯などでも多く使われているのがこれ。

そんなふうに薪にはそれぞれの特徴がある。
同じ調理に使う場合でも、炒め物では瞬間的に火力が強くなるタイプ、煮込み料理では火持ちのいいタイプといったように使い分けることで、薪の能力を最大限に発揮できる。

また、香り、音、色などの違いもあって、癒やし効果を求めている人には大切なポイントとなる。
このように、薪の違いに気づくと、薪選びは楽しくなってくる。
そろそろ、薪にこだわりたくなったのでは!?

イルビフおすすめの焚き火セット

薪にこだわる以上はギアにもこだわりたい。
堀之内さんがふだん愛用している焚き火ギアを紹介してもらった。

__①キンドリングクラッカー
__上から太い薪を入れて、ハンマーで叩くと、簡単に薪割りができる。

②ファイヤーサイドのファイヤーバード
火ばさみ、火掻き棒など4種類の使い方ができる万能アイテム。
尖った先を使って、燃えた薪を崩すこともできる。

③グレンスフォシュ・ブルークのアウトドアアックス
切れ味がいいので、薪の形状を整えたり、枝を払うときなどに便利。

④バイソンのバイソンストライカー800
ヘッド部分に十分な重みがあって、薪をしっかりと押し出してくれる。

薪割りで使う土台の木の幹も重要。地面が土だと、力がしっかりと伝わらない。ひとつで十分なので、揃えておきたい。

焚き火は大量の空気を消費する!

イルビフの焚き火スペースを見ると、上部に大きな排気設備があるが、これだけでは吸排気には不足していて、別途、空気取り入れ用の装置が側面に組み込まれている。

それから焚き火をするときには、忘れてならないのが安全確保。

焚き火は大量の酸素を消費するので、オープンエアで行うのが基本。
クローズドな場所だと、片面が開いていても、吸排気をしっかりと行うのは難しい。

煙が発生するので、排気は気にするが、吸気は忘れてしまうことが多い。
新鮮な空気が大量に入ってくるかどうかも、しっかりと確認しておこう。

知っていれば焚き火が変わる!プロが教える薪の違い

では、それぞれの薪の特徴を詳しく見ていこう。
木質の違いがわかれば、ぐっと焚き火が楽しくなってくるぞ。

■楢(なら)— ピザ窯にも使われている、調理に向いた万能性

火付き○/火持ち○/入手○

流通量も多く、生産体制が整っているので、入手しやすい薪の一種。
火付きもよく、火持ちがいい、という相反する性質を兼ね備えている。
匂いも少なく、食品に影響を与えないことから、料理などに適している。ピザ窯などでも多く使われているのがこれ。

焚き火の初心者にも扱いやすく、調理のときも暖房用にも使える、バランスの取れたおすすめの薪。

■樫(かし)— 小さな斑点が目印。ズシリと重たくて硬い木

火付き×/火持ち○/入手△

手に取るとズシリと重たさを感じる。
木材の内側表面を見てみると、小さな点が並び、繊維が詰まっているのがわかる。
乾燥するのにも時間がかかり、硬い木質が特徴。

なかなか火が付きにくいが、火が付くと安定しているので、炉の温度が上がった焚き火の後半に投入したり、薪ストーブの利用にちょうどいい。
焼けると薬のような香りが漂ってくる。

■榎(えのき)— 青い炎に癒やされる。入手困難で趣向性が高い

火付き○/火持ち△/入手

入手困難な薪のひとつ。木材の乾燥で急に軽くなる木質がある。
乾燥の途中ではアーモンドのような香りを発する。
火付きがいいので、焚き火の前半に利用するのがおすすめ。

さらに、火が安定すると、青い炎が出てくるのが特徴。
この炎の色を求めて、焚き火や薪ストーブなどのジャンルを問わずに、炎を観賞するために購入する人も多いとか。

■椚(くぬぎ)— パチパチと薪のはぜる音を楽しむ雰囲気重視

火付き×/火持ち○/入手○

樹皮の形状が楢に似ているが、ひとつひとつの凹凸が大きい。
内部は樫のように繊維が詰まっていて、硬いのが特徴。
国内の広い範囲に分布している樹木でもある。

火持ちがよく、焚き火の後半に投入するのがいい。
また、「パチパチ」と音がするのが特徴で、雰囲気を重視する人に好まれる。
癒やし目的の焚き火や薪ストーブなどで使われることが多い。

■椣(しで)— パカンときれいに割れて薪割りが簡単!

火付き○/火持ち○/入手△

木自体は硬いが、きれいに割れてくれるので、薪割りなどの加工がしやすい木質を持っている。
しかし、流通量が少なく、入手困難な薪でもある。
火付きがよく、火持ちがいい性質を持っている。

燃えたあとにも、薪の形が残っているので、炭のような使い方ができるのも特徴。
炎が落ち着くと温度が安定するので、調理などに使用するのが適している。

■桜(さくら)— おなじみの桜の木も薪となれば香りが立つ

火付き○/火持ち△/入手△

桜は日本人にとってなじみがあるので、樹皮を見てわかる人も多い。
火付きはいいが、火持ちが悪いので、薪ストーブなどのスタート時などにもよく使われている。

最大の特徴は燃やしたときの香り。
スモーク料理などにも利用される桜チップ同様に、特徴のある香りがある。
料理では使いづらくなるが、桜の香りを求めて購入するユーザーも多いという。

■欅(けやき)— 大工も敬遠する肌荒れ具合が特徴

火付き○/火持ち○/入手○

欅の見分け方は、内側の状態をチェックすればすぐにわかる。
内側の木肌が荒れているのが特徴だ。
薪を割ったとき、きれいに割れず、毛羽立った状態になってしまう。
火を付けると荒れた表面から燃えていくのがわかる。

燃やすと、心地よい香りが立つのが特徴。
若い木は香りが強いが、古木や安定した木は甘い香りがしてくる。
薪としても扱いやすい。

■栗(くり)— なかなか巡り合わない珍しさを楽しんでみる

火付き○/火持ち△/入手×

薪には産業用とその他(農作物や自然林)の2系統の木が使われていて、農作物用や自然林などのその他の木は、薪として伐採されることが少ない。
特に栗は希少価値の高い存在。
燃焼時の音に特徴があり、グツグツ、ボツボツ、といった低い音を発することから、その癒やし効果を求めて観賞用に購入する人が多い。
若い木だと水分量が多く、強くはぜるので注意が必要。

■梅(うめ)— オレンジ色の木肌が特徴。その香りに癒やされる

火付き○/火持ち△/入手×

栗と同じように希少価値の高い薪。
木肌に特徴があり、オレンジ色のようなブラウン系統のカラーで、色が濃いのが特徴。
木がまっすくに成長しないことから、大きな薪やまっすぐな薪は少ない。

燃やしたときの香りが強く、調理にはあまり向かないので、観賞用として利用するのがおすすめ。
希少価値が高いこともあり、その燃え方自体を楽しむ薪といえる。

【危険!】焚き火に適さない木もある

焚き火をするとき、薪拾いをする人も多いだろう。
しかし、焚き火に適さない木もあるので注意が必要。
例えば漆系の木は、触れたときと同様にアレルギー反応を起こす場合もある。
また、上の写真のキョウチクトウは燃やした時に毒を発するので危険だ。

プロが伝授! 薪の本格的なテクニック

本格的なテクニックを身に付ければ、焚き火もいちだんと楽しくなる。
ここでは、さらに薪に対する知識を深めよう。

薪の形で調整する

薪は事前に、自分の利用する環境に合わせて、サイズを調整しておく。
長さを統一して、太さにバリエーションを持たせておくと便利だ。

薪の形によっても燃え方が変化する。薪をくべるときの向きも重要だ。
写真のAを下にすると燃えやすく、Bを下にすると燃えにくくなる。
火力を高めるとき、火を落ち着かせるときなどに、その性質を理解しておけば炎を調整しやすい。

薪の大きさで炎を調整できる。
細く小さな薪は焚き火のスタート時に利用したり、調理中に少し火力を追加したいときなどに利用できる。

木の特徴によって、薪を使い分けることができるが、薪自体の形状によっても、炎の上がり方や火持ちなどを変化させることが可能だ。
サイズや形を見て、炎を調整してみよう。

薪を組み合わせて炎を上げる

焚き火をするとき、単一の種類でなくてもいい。
火付きがよく、燃焼温度が高い木と、火付きが悪いが、火持ちのいい木を組み合わせる方法もある。
イルビフでも焚き付けには火付きのよい杉を使って、大きな木に炎を移している。

火の調整にはイルビフで販売している木のスライスがあると便利。
火力が弱ったときにこれを投入すれば、すぐに炎を強めることができる。

簡単な火種を準備しておく

火種はいろいろとあるが、このファイヤーサイドのファイヤースターターが便利。

袋のまま着火でき、燃焼時間も長いので、薪へ確実に着火できる。

スウェーデントーチも楽しい

焚き火のちょっと違ったアプローチとして、スウェーデントーチというものがある。
丸太の上部に十字の切り込みを入れて、中心に火を入れる、大きな木のろうそくのようなもの。
いろいろなタイプがあるので、手軽に火を体験してみるのもいいだろう。

PHOTO/中里慎一郎
TEXT/渡辺圭史
出典/ガルヴィ2020年12月号__
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