FASTはテレビコンテンツにこそ勝機があるのでは?〜InterBEE2023「配信サービスはVODの次に進むか」レポート / Screens

一般団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、「Inter BEE 2023」を2023年11月15~17日にかけて開催。今回も幕張メッセ会場とオンライン会場のハイブリッド形式で行われ、幕張メッセ会場には昨年より約5,000名多い31,702名が訪れる盛況となった。

本記事では、放送と通信の融合を前提としたうえで、その“先”にあるビジネスの形をさまざまな切り口で取り上げたセッションプログラム「INTER BEE BORDERLESS」をレポート。今回は11月17日に行われた『配信サービスはVODの次に進むか』の模様をお伝えする。

映像配信市場がコロナ禍を機に大きく成長し、これまで通信と放送の壁に阻まれてきたIT企業と放送局の関係も変わりつつある昨今。海外で盛り上がりを見せるFAST(Free Ad-supported Streaming TV)の波も日本へまもなくやってきそうという状況のなか、今後に向けてどのようなビジョンを描いているのか。さまざまなキーマンが日本における配信サービスの未来を語る。

パネリストは株式会社U-NEXT 取締役 COO・本多利彦氏、株式会社TVer 常務取締役COO・蜷川新治郎氏、株式会社フジテレビジョン ビジネス推進局 コンテンツビジネスセンター プラットフォーム事業部長・野村和生氏。モデレーターをメディアコンサルタント・境 治氏が務めた。

■コンテンツ調達力で勝負のU-NEXT、映画館との相互送客やオリジナルIP発掘も

U-NEXT本多利彦氏

最初にU-NEXTの本多氏がプレゼンする。 U-NEXTは日本企業による最大級のSVODプラットフォーム。TBS・テレビ東京・WOWOWの合同動画配信サービスであったParaviとの統合はメディア業界でも大きな話題となった。現在の有料会員数はU-NEXT単独で約400万人。

国内のSVODにおけるマーケットシェアはNetflixに次いで2位、1人あたりの視聴時間、1日あたりの利用時間は大手プラットフォーム中最大を誇る。

そんなU-NEXTの人気を支えているのは「圧倒的なカバレッジ、コンテンツの調達力」と本多氏。配信作品数では業界2位のAmazon primeビデオの2倍以上に及ぶほか、ビデオ、電子書籍、音楽をひとつのアプリで統合的に配信。海外スポーツを毎日生中継するチャンネル「SPOTV NOW」や、映画配信では映画館と連携したポイントサービスや映画館での広告展開など、リアルサービスへの送客も意識した展開が特色だ。

「U-NEXTでは映画コンテンツの配信を重視している。作品が埋もれてしまうことのないよう、SVODとTVOD(都度レンタル型動画配信)のハイブリッドで配信しており、映画におけるTVODの販売シェアは圧倒的No.1を保っている。また、映画については『お客様を劇場へお連れするサービス』と位置づけており、映画チケットのポイントサービスや、全国のTOHOシネマズ2,500スクリーンでの広告放映など、連携を図っている」(本多氏)

さらにU-NEXTでは、オリジナルIPの創出にも注力している。小説の映画化のほか、2019年からは独自ブランドでのオリジナル小説配信、2022年からはオリジナル漫画をスタート。

「2023年10月からは社内に編集部を開設し、縦スクロール型の漫画コンテンツ配信にも乗り出している」という。

■CTVでの共視聴・完視聴に強みを持つTVer、テーマ特集・ローカル番組発掘に注力

TVer蜷川新治郎氏

続いてのプレゼンはTVer・蜷川氏。右肩上がりの成長が続くTVerは、2023年度内のアプリダウンロード数が7,000万を突破し、MUB(月間ユニークユーザー)も3,000万人に到達。再生回数はサービス単体で3億9,000万回を超えた。

楽天リサーチの「普段使っている配信サービス」調査によると、TVer利用ユーザー数はAmazon prime ビデオに並び、認知率も7割に伸長している。

民放テレビ局の番組コンテンツ配信がメインのTVerだが、2023年からはオリジナルコンテンツにもトライ。俳優の松下洸平が各局のバラエティ番組に “潜入”し、その模様をドラマ仕立てで配信する『潜入捜査官 松下洸平』が話題を集めるほか、「サウナ番組特集」「キャンプ番組特集」「旅行・街ブラ特集」など、特定カテゴリで各局の番組をピックアップする企画も人気。今年後半からはローカル局のコンテンツ配信にも積極的に取り組んでいる。

そんなTVerは、2023年時点で全体の3割超がCTV経由で視聴。PC・スマートフォンにおける番組の完再生率は6割超と高い水準だが、さらにCTV経由での番組完再生率は71.1%、広告の完再生率は97.1%を記録。

「CTVは複数人で同時に楽しむ『共視聴』の割合が高く、1番組あたりの平均視聴人数は1.5人に達している」と蜷川氏。

「テレビ画面への注視度もM1・F1層において大手配信メディア中2位という水準であり、コンテンツへの高いエンゲージメントを提供できている」と語る。

■フジ系FOD、「地上波・AVODで集客→TVOD・SVODへ誘導」のモデルを確立

フジテレビジョン 野村和生氏

続いてフジテレビ・野村氏が自社の配信プラットフォーム・FODをプレゼン。複数のアプリにわたってAVODから電子書籍、ライブ配信までを幅広くカバーし、2022年度にはAVOD利用ユーザー数三冠を達成。再生数、UB(ユニークブラウザ数)、視聴時間においてTVer・FOD・GYAO!(2023年3月終了)を含めた民放系サービス中1位を達成した。

現在は「フジドラWINTER」と題したキャンペーンを展開し、新旧のTVドラマ50タイトル以上を無料配信。2022年10月クールからは、地上波で放送中のドラマを複数話無料配信する取り組みも始まっている。

「これまでも1〜3話を放送期間中TVerで見逃し配信していたが、4話以降は視聴者が減らずに安定するというデータが得られたため、常時複数話の配信に踏み切った」と野村氏。2022年10〜12月クール放送のドラマ『silent』では、FOD/TVerでの再生数が毎回400〜500万で推移。好循環が続いたという。

CTV施策においては、実際にCTV広告効果の実証実験を実施。自社が出資するアプリ「大江戸今昔めぐり」のCMでは「画面中にアプリダウンロードのQRコードをL字などさまざまな形態で表示」し、QRコード経由のダウンロードにつなげた。さらにQRコード経由以外のアプリインストール数を計測し、コンバージョンレートを測定。その結果を野村氏は次のように語る。

「スマートフォン視聴でのミッドロール(本編中CM枠)でのコンバージョンレートを1とすると、CTV視聴のポストロール(本編後CM枠)では3.5、CTV視聴でのミッドロールでは5.5と高い結果になった。CTV広告は値付けの基準が難しかったが、これらのデータをもとに地上波も同等の値付けが可能と感じた」(野村氏)

オリジナルコンテンツについては、お笑いコンビ・ナインティナインらが出演していた人気バラエティ『めちゃ✕2イケてるッ!(めちゃイケ)』のスピンオフ番組で、これまでYouTube等で生配信されていた『めちゃ×2ユルんでるッ!(めちゃユル)』を8年ぶりにFOD上でリバイバル。さらに電子書籍においては人気小説シリーズ『ナルニア王国物語』の独占読み放題を実施するなど、精力的な取り組みを行っている。

野村氏はFODの基本戦略について「地上波やAVOD配信で興味を引き、SVOD、TVODといった課金コンテンツに誘導する」と説明。コンテンツの垂直統合と同時に原作部分からのプロデュースを並行させ、「原作を市場に打ち、反響の良いものをコンテンツ化する」という話に、モデレーターの境氏は「SVOD+AVOD=“UVOD”の時代が来るのでは」と強い興味を示した。

■日本でのFAST参入、各社の考えは? 慎重姿勢の U-NEXT・FOD、積極姿勢のTVer

メディアコンサルタント・境 治氏

セッション後半は、境氏がパネリスト3人にさまざまな切り口で質問を投げかけていくディスカッション。特にFASTに対する質問には三者三様のスタンスが現れた。

「現在もTVerではGP帯にリアルタイムを配信を実施しているが、前日放送したものをまるごと再放送するチャンネルなど、『1日中なにか流れている』ものを作りたい」と蜷川氏。「TikTokやYouTubeのショート動画のような『偶然コンテンツに出会える』仕組みに関心がある」と語る。

「現在のTVerはコンテンツへたどり着くまでに3ステップほどあるため、『とりあえず流れてきたものを見てみよう』と思っていただける仕掛けを作りたい」(蜷川氏)

一方、本多氏は「FASTはリニア的なものとAVODの両輪が揃ったときに完成する」とし、「システムとコンテンツと広告主の軸が大事」とコメント。「U-NEXTとしては現在のSVOD、TVOD、ライブ配信という素地の上でコンテンツを拡充することに重きをおいている」とし、FASTへの参入には慎重な見方を示す。

野村氏も「純粋な完全無料型のFASTは地上波を壊しかねない」と慎重な姿勢。「現在米国で人気に火がついていることは把握している」としながらも、「市場規模として大きいとまでは言えない」と語る。

「米国のFASTは、少人数がAIを用いて効率的に編成しているということで利益を生み出している構造ではないか。薄利多売とまではいかないが、収益モデルの確立にはまだ課題が多いと感じる。現状のサービスとの兼ね合いも考え、ちょうどよいバランスを見極めていきたい」(野村氏)

これに対し、「放送コンテンツは『途中から見ても乗っかれる』という点が大きな特長」と蜷川氏。「オンデマンドの場合は頭から見ることが原則だが、テレビの場合は途中でチャンネルを変えても楽しめる」とし、「コンテンツに出会う場としてのFASTは、テレビコンテンツにこそ勝機があるのではないか」と大きな期待を述べた。

3者のサービスの出自の違いが興味深かった一方で、パネリスト3人の語りの熱さにVODサービスの今後の伸びしろも感じられるセッションとなった。U-NEXT、TVer、FODそれぞれの、ますますの成長と充実を期待したい。

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