焦点:米利下げ期待に基づく株価上昇、強い雇用統計で疑問も

Lewis Krauskopf

[ニューヨーク 2日 ロイター] - 強い米経済統計の発表を受け、投資家は予想外の問いを突きつけられている。米連邦準備理事会(FRB)が市場の期待よりも小規模な金融緩和しか実施しなくても、力強い経済成長を支えに株価は上昇し続けられるだろうか――。

昨年末には、FRBが間もなく利下げに転換するとの期待から株価が急上昇し、S&P500種総合株価指数は今年1月に過去最高値を更新した。昨年1年間で24%上昇した同指数は、今年に入ってさらに4%上昇している。

しかしここにきて、FRBが利下げするとインフレを再燃させる可能性が示され、株価上昇のストーリーが揺らいでいる。2日に発表された1月の雇用統計でも、景気は予想以上に強いことが裏付けられた。その数日前には、パウエルFRB議長の発言によって3月の利下げ開始期待がしぼんでいた

ジョン・ハンコック・インベストメント・マネジメントの共同最高投資ストラテジスト、マシュー・ミスキン氏は「第4・四半期と足元の株価上昇は、FRBのピボット(利下げ転換)期待を大きな原動力としていた。そのピボットがわれわれの目の前で消え去りつつある」と語る。

1月雇用統計の発表後に市場の早期利下げ予想は後退し、CMEのフェドフォッチ・ツールによると、フェデラルファンド(FF)金利先物が織り込む5月1日の利下げ確率は、1日時点の90%から発表後には70%に低下した。3月の利下げ確率は、1週間前の50%弱から約20%に下がっている。

プリシパル・アセット・マネジメントのチーフ・グローバル・ストラテジスト、シーマ・シャー氏は、雇用統計により「市場が織り込んでいた6、7回の利下げは、かなり的外れになったようだ」と記した。

1月の非農業部門就業者数は35万3000人増と、ロイター調査の予想平均18万人増を大幅に上回る伸びを示した。昨年の11月と12月の増加幅も12万6000人上方改定された。

多くの投資家は力強い成長を好感し、特に企業収益の上振れを伴うなら、株価の好材料だと受け止めた。S&P500は2日の雇用統計発表後に最高値を更新。決算発表を好感してメタ・プラットフォームズは20%、アマゾン・ドット・コムは8%、それぞれ上昇した。

LSEGのデータによると、S&P500社の利益は昨年の3.6%増に対し、今年は約10%の増加が予想されている。5日からの週も医薬品大手イーライ・リリー、ウォルト・ディズニー、石油大手コノコフィリップスなど決算発表が目白押しで、こうした予想が試されるだろう。

トゥルイスト・アドバイザリー・サービシズの共同最高投資責任者(CIO)、キース・ラーナー氏は「景気がより強く、利下げ回数がより少ない方が、景気が弱くて利下げ回数が多いよりも好材料だ」と言う。

キャピタル・エコノミクスは、S&P500種指数が現水準より10%余り高い5500で今年を終えるという強気の見通しを示している。昨年に続き、人工知能(AI)関連ビジネスの潜在性を巡る楽観論が株価上昇の原動力になりそうだという。

しかし潜在成長率を上回る成長が続けば、インフレ再燃の懸念が持ち上がる。

アメリプライズのチーフエコノミスト、ラッセル・プライス氏は2日のノートで「1月の就業者数の伸びは強く、強すぎる可能性がある」と指摘。「力強い賃金の伸びが続いた場合、インフレ圧力の再燃につながる可能性を示す兆しが複数存在する」としている。

一方で、高金利が長期化することで、商業用不動産(CRE)などのセクターでは重圧がさらに高まりかねない。

ニューヨークの主要なCRE向け金融機関、ニューヨーク・コミュニティ・バンコープの株価はここ数日急落し、地銀全体に懸念を広げている。同行は減配を発表するとともに、予想外の赤字を計上した。

成長が強まって高金利が長期化するとの予想が広がれば、米国債利回りが上昇して株価を圧迫する可能性がある。

10年物米国債利回りは2日に4.05%を付けた。

LSGEのデータによると、投資家は依然として年内に125ベーシスポイント(bp)程度の利下げを織り込んでいる。約1週間前の150bpからは縮小したが、FRB自体が予想する75bpに比べればなお大幅だ。

© ロイター