茨城方言、かるた継承 杉本名誉教授ら制作5年 会話や生活 90枚に凝縮

学生や方言の話し手と協力して「茨城方言かるた」を完成させた茨城大名誉教授の杉本妙子さん=水戸市文京

茨城県の言葉と暮らしを90枚の札に凝縮した「茨城方言かるた」が誕生した。方言学が専門で茨城大名誉教授の杉本妙子さんと学生が手がけ、足かけ5年で完成した。方言話者の「ネーティブチェック」や試作版で遊んだ中学生の意見も反映した。杉本さんの最終目標は「茨城方言の継承」で、「子どもたちが楽しく方言に親しむための道具。気軽に遊んでほしい」と期待を寄せる。

読み札は全て茨城方言で、日常会話や「すみつかれ」「わーほい」などの郷土料理、民俗行事を紹介。標準語訳も併記されている。同県茨城町の再話グループ「七絃の会」が読み上げた音声をCD化して、セットで添付。尻上がりのイントネーションなど、発音の特徴も分かるよう工夫した。

杉本さんは方言の普及に取り組み、県内外で聞き取り調査をしてきた。標準語化が進む中、茨城方言のぶっきらぼうな印象から抵抗感を抱く人も多い。「方言はその土地の暮らしが結晶化した文化遺産。ここで手放すのはもったいない」と杉本さん。危機感を募らせ、次世代につなぐ仕掛けとしてかるたを発案した。ゲーム感覚で遊ぶうちに興味が湧き、自然と学びにつながるものを目指した。

2018年に大学の講義を通して学生たちとかるた作りを開始。受講生は文献から素材を集めて原案を練り、ネーティブによる方言指導を受けて手直しした。美術専修の学生が案を基に絵札を作り、20年末に試作版を仕上げた。

方言の話者が披露したエピソードも盛り込んだ。例えば、おやつを意味する方言「こじはん」を取り上げた絵札には、ふかしたサツマイモが描かれた。読み札には、さらに「こじはんには干し芋をよく食べた」という話者の具体的な経験も書き添えた。背景を含めてイメージを膨らませられるよう工夫したという。

水戸市と茨城町の小中学校にかるたの試作版を配布し、子どもの反応も参考にした。実際に使った中学生から「読み札と絵が合っていない」と指摘を受けた札もあった。「し」の札の「しゃあんめ」(仕方ない)の方言が醸すニュアンスと、絵札の人物の表情にずれが感じられたという。杉本さんは生徒の意見を取り入れ、連想が難しいと判断し絵札を差し替えた。検討を重ねた末に、かるたは23年、ようやく完成した。

今後、言葉の地域差を紹介する解説書を添えるなど内容を充実し、市販を目指す。杉本さんは「方言の豊かさ、面白さを知る入り口としてかるた遊びを楽しんでくれたらうれしい」と話している。希望する教育施設などには無料で配布する。問い合わせは、杉本さんの電子メールtaeko.sugimoto.taco@vc.ibaraki.ac.jp

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