最先端の中学野球事情に驚きの連続!? 糸井嘉男氏×関メディベースボール学院・井戸伸年総監督

かつてプロ野球の日本ハム、オリックス、阪神でプレーし、SPAIA公式シニアアンバサダーを務める糸井嘉男氏と、元近鉄、オリックスで、現関メディベースボール学院の総監督を務める井戸伸年氏が対談しました。関メディ中等部は2023年夏のポニーリーグ全日本選手権で優勝。最先端の中学野球事情を知った糸井氏は驚きの連続でした。動画も合わせてご覧ください。

【ゲスト】

SPAIA公式シニアアンバサダー

糸井嘉男

1981年7月31日、京都府出身。京都府立宮津高から近畿大に進み、投手として関西学生リーグで通算9勝をマーク。2003年ドラフト自由獲得枠で日本ハムに入団後、野手転向。2013年にトレードでオリックスに移籍、2017年からFAで阪神に移籍し、2022年に現役引退した。通算1727試合出場、打率.297、1755安打、171本塁打、765打点、300盗塁。

【ゲスト】

関メディベースボール学院総監督

井戸伸年

1976年12月28日、大阪府出身。兵庫・育英高、徳山大、住友金属、住友金属鹿島、ホワイトソックスマイナーを経て2002年ドラフト9位で近鉄に入団。球団合併に伴う分配ドラフトでオリックスに移籍し、一軍出場は果たせないまま2005年に引退。2006年から関西メディカルスポーツ学院(現関メディベースボール学院)で指導者としてスタート。Honda鈴鹿でもコーチ経験がある。

■佐藤義則コーチに「ヨシボールを教えてください」

糸井:始まりました、SPAIAチャンネル。今日は関メディベースボール学院の井戸総監督に来ていただきました。

井戸:よろしくお願いします。

糸井:元近鉄バファローズ。僕もよく知っている坂口智隆が関メディのコーチとして教えてるので、気になってたんです。どういうとこなんだろうと。中等部は何リーグですか?

井戸:3月まではヤングリーグ。4月からポニーリーグに移籍しました。

糸井:メチャクチャ強くて優勝したんですよね。

井戸:春に優勝。移籍して夏にまた優勝です。

糸井:僕は中学時代、田舎で硬式チームもなかったんで、中学の軟式野球部に入りました。走ったり、泳いだり、基礎体力の練習がメインで、バッティングするスペースもなかったんで、段ボールを丸めて打ったりしていましたが、坂口とか元プロの話も聞けるのは、子供たちにとってはプラスになりますよね。

井戸:僕らの頃は誰も教えてくれませんでしたからね。

糸井:元プロに教わる方が伸びるスピードが早いんじゃないですか?

井戸:動画とかで説明してくれる環境はすごく羨ましいです。子供たちは素直なんで。

糸井:子供は素直ですね。プロ野球選手に教えても、こいつ聞いてんかなというくらい我が強いけど、子供たちは素直で聞く耳を持ってるんで教え甲斐もあります。たまに野球教室とかやりますけど、小中学生に教える方が楽しいです。

井戸:野球教室で打つでしょ。その絵が欲しいんです。子供たちが見て学ぶことは大きいですよ。

糸井:だから失敗できない。チョロみたいなのはできないんです(笑)。

井戸:坂口も来てくれますけど、外野の守備指導でも実際に動いて指導してくれます。見せて吸収させる環境ですね。

糸井:外野守備って見ることないですもんね。最初に立ち上げた目的は?

井戸:僕は中学時代、硬式をやってたんですが全然面白くなくて、ずっとサボることばかり考えてたんです。そうじゃなくて、もっと行きたくなる環境を作ろうと思ったんです。

糸井:素晴らしいですね。

井戸:そうすれば野球がもっとうまくなるし、やりたい子も増えるし、もっと野球を好きになるかなと。

糸井:今、何人ですか?

井戸:150人。西日本では一番多いと思います。

糸井:大丈夫ですか、坂口だけで。

井戸:いっぱいいますよ。伊藤敦規コーチとか、佐藤義則さんとか、スタッフは35人います。

糸井:佐藤義則さんは僕が日ハムの時の投手コーチです。僕も「よしお」なんで「ヨシボールを教えてください」と言ったら「バカ言え」って言われました。

井戸:子供も「ヨシボールを教えてください」と言うんですけど「ヨシボール見たことないやろ」と。

糸井:ダルビッシュも佐藤コーチを尊敬してますよ。マー君もそうやし。40歳でノーヒットノーランでしたっけ。凄くないですか。

井戸:そういう人が普通に教えてくれる環境なんです。

糸井:忘れもしない、鎌ヶ谷で「野手転向を勧められてるんですけどどう思いますか?」と聞いたら、すぐに「野手やれ」と言われました。止めてくれよと内心思ったけど、見る人が見たら、投手では大成しないと思われてたんでしょうね。

井戸:佐藤さん、推してたって言ってましたよ。

糸井:最初、ストッパーで芽が出るかもと期待されて二軍でストッパーをやってた時期もあったんですけど、GMからそういう話があったと話したら、すぐに「野手やれ」と言われました。さすが、見る目がある方なんで。

井戸:今は投手で4番という選手が減っています。野手が投手をやると中学のゲーム勘だけの投手になるんです。その点、投手コーチを揃えて、投手は投手でやっていった方が希望が見えます。

糸井:僕らの中学時代はメチャクチャ走ったりしてましたけど、今は技術的な練習が多いんですか?

井戸:技術とトレーニングが多いです。トレーナーを各学年につけてるんで。

糸井:それ、興味あるなあ。凄いですね、中学からそんなことを教えてもらって。僕は野球につなげないと意味がないということを辞めてから分かりました。

井戸:専門性が大事ですね。

糸井:吉田正尚選手なんかはすごく考えてやっています。体が小さいんで、連動性だったり、柔軟性だったり、いかに打球に力を伝えられるかを考えてやってますね。室伏広治さんに弟子入りしましたからね。

井戸:それくらいトレーニングが大事ということですね。

■一番打つのが難しい球は速い真っすぐ

井戸:小中学生の野球人口減少が叫ばれてますね。子供たちが減ってるし、いろいろなスポーツで活躍の場が増えています。

糸井:バスケもそうだし、世界で通用する日本人が増えてきてますからね。

井戸:野球って魅力的じゃないですか。あれだけの観客の前でできるなんて。

糸井:僕は生まれ変わっても野球をやりたいです。

井戸:ですよね。今の環境で小中学校からしたら…。

糸井:1000億円です(笑)。一人で万博開けるで。世界を目指す子供たちが増えてくるでしょうね。

井戸:ポニーリーグは国際大会が多いんですよ。各国から来てワールドシリーズをやったり、中学生のうちに海外と交流するのはいいですよ。

糸井:凄いなあ。今、投手のレベルが急激に上がってますよね。今の小中学生のレベルも上がってるんですか?

井戸:中学生でも140キロ出ますからね。僕らの頃は高校で140キロ出たらドラフト候補でした。

糸井:ですよね。130キロ台後半からドラフト候補でした。今、プロ野球で異変が起きてて、投手のレベルが上がりすぎて3割打者も本塁打数も激減。パ・リーグなんて本塁打王で26本です。異常なくらい投高打低なんです。

井戸:球場を狭くしてるじゃないですか。

糸井:関係なしに、160キロ、100マイルの世界に入ってきてるんで、バッターは苦労しますよね。僕も150キロ台後半とか160キロを体感したけど、本当に速く感じました。40歳になって100マイル打つんかい!と。

井戸:ストレートを打つのが大事ですよね。

糸井:絶対に大事。真っすぐを弾けないやつが多いです。拾うのはうまいけど、弾けない。一番難しい球は速い真っすぐなんですよ。そういう練習はするんですか?

井戸:基本的には真っすぐを打ちなさいと言います。変化球じゃなくて真っすぐから。上にいくにはそれが一番。

糸井:上にいくほど真っすぐが速くなるし、真っすぐを弾けないと弱点になりますからね。インコースに投げられたら終わりなんで。

井戸:真っすぐを引っ張るなという指導者も結構いるんですよ。引っ張れないといけないのに。

糸井:王さんなんてライトポールを狙って打てと言いますからね。フリー打撃で思い切り打てと。それが原点かも知れなません。

井戸:ジュニア層には真っすぐを引っ張れと言いますか?

糸井:言います。特に左打者は大事。ランナー一塁なら引っ張れないといけない。大谷君はインコースをセンターにホームラン打ったりするんで、正解はないのかも知れないけど、引っ張れないとダメです。

井戸:糸井さんが教えるとしたらジュニア期に大事にしてもらいたいことは何ですか?

糸井:真っすぐを自分のポイントで捉えるのは必須ですね。あとはタイミングの取り方。最近ちょっと遅いなと感じてます。100マイルを打てと言われたらファウルか空振りになるんで、タイミングを早めに取ってどうしたらいいかを考えます。

井戸:タイミングは教えられないと言われますが?

糸井:感覚的なものもあるんで難しいですが、タイミングを取れてないということは打ちに行ける態勢になっていないということなんで、早めに始動していつでもいけるタイミングを探るのが大事。打てるポイントを見つけるのが大事です。今、ちょっと遅いなと感じますね。

井戸:プロ野球でも遅いですか?

糸井:態勢ができてなくてファウルになったりしてますね。真っすぐを捉える率が落ちています。

井戸:アマチュアは基本的に遅いです。

糸井:それでも間に合うんで、アマチュアは。

井戸:それをジュニア期から習得していくのが大事。打てないと面白くないんで、みんなが打てるように変えていってあげてます。

ⒸSPAIA

■「練習量をやってこそ、何が効率がいいのか分かる」

司会:関メディは勝つことが一番ではないですよね?

井戸:全然そんなことなくて、基礎をやって、正しい考え方を身に付ければ勝手に勝つという考え方です。

糸井:それを体現してるってことですよね。

井戸:基本的には大人が楽しんでたら子供も楽しむと思うんで、大人が一番ふざけてます(笑)。昔は大人と喋るのが嫌でしたけど、大人と子供が話しやすい環境を作っています。マイナス発言は禁止とか、規則には厳しいですけどね。メンタルトレーニングも入れてるんです。

糸井:プロ野球もそうですけどメンタルは大事ですから。毎日試合があるし、いかに切り替えるかが大切です。

井戸:糸井さんの切り替え方法は?

糸井:寝たら次の日までは引きずりませんでした。例えば、ホームラン性の打球を打って浜風に押し戻されてライトフライになったら引きずるで。完璧に打って凡打になるんですよ。せめてフェン直になれよと。

井戸:甲子園は難しいですか?

糸井:左バッターはホンマにヤバいですね。年に何本か絶対にあります。ノーヒットが続いてシュンとなる選手もいるし。早く行って打ち込んでというのを僕は繰り返しました。

井戸:中学生もそうだけど、準備してるのを知らないんです。プロ野球選手が早く来てるのを知らない。

糸井:ナイターだったら早く来て自分で調整して、また練習して試合に挑むんです。

井戸:アメリカでは練習が楽という認識があったり、子供たちは努力の時間が見えてないんです。スター選手たちの努力は凄いんですけどね。

糸井:野手転向でゼロからの出発だったので、かなりやりました。手の皮が100回くらい脱皮しましたよ。大卒でドラ1で入ってわずか2年でGMに呼び出されて「使えないよ」って笑顔で言われたんです。ホンマに厳しい世界やなと思って、そこから危機感を持ってずっとやってました。

井戸:その中でコーチに救われた言葉とかあるんですか?

糸井:ありますね。元ロッテの大村巌さんがコーチ1年目で、いろんな練習方法で1日1000、2000と打ってました。「お前はみんなから何億スイングも遅れてるんや。やるしかない。やったやつが勝つ世界やから」と言われました。投手の時はパチンコもスロットもしてたし、どっかでサボってたんです。それから一切なくなって打ち込みました。

井戸:効率も大事だけど量も大事ですよね。

糸井:量をやって、何が効率がいいのか分かる。イチローさんと自主トレしたことがあって、「近道はないぞ」と言ってました。遠回りした方がいいと。

■女性監督誕生で女子野球選手に指導者の道を開拓

司会:ポニーリーグは補欠を作らず、1大会に何チームも出せるのが特長です。

井戸:春の全国大会に5チーム出して100人エントリーしました。20人の5チームで100人。プラス、リエントリーという制度があって、退いた子がもう一回戻れる。ソフトボールの制度を野球に入れてるんです。

糸井:みんな試合に出れるのはいいことですよね。

井戸:試合に出ないとうまくならないですからね。みんなに出場機会を与えられるリーグなんです。底辺拡大という意味ではうまくなるのが一番。そういう考えを浸透していきたいです。うちの1年生のチームには女性監督もいるんですよ。

糸井:革命ですね。阪神や巨人が女子チームを作って目標ができたのもあって今、女子の数が増えてます。その女子選手が辞めた後、監督への道を作ると。素晴らしいですね。

井戸:女性の活躍の場ができますからね。オッサンより女性の方が喋りやすいでしょ。

糸井:お母さんみたいな。

井戸:そうです。大体、男性指導者って構えてるじゃないですか。子供のコミュニケーション能力を高める意味でも女性指導者は大事かなと思います。

糸井:女子選手にも生徒にもプラス。ウィンウィンですね。

井戸:女子野球が増えてるからこそ、その先の指導者を作って活躍の場を増やしてあげたいんです。ジュニア層に良いものを提供して。

糸井:こんないい学校が甲子園にあったんですね。選手が帰る道があるんですけど、そこに「関メディ」と書いてある、あそこですよね。そんないい学校だったとは。阪神の選手も通えよ(笑)。

■引退してからさらに感じる野球の素晴らしさ

司会:糸井さんは中学時代、強豪私立高校から声はかかったんですか?

糸井:ないです。来てたら行きたかったですよ。地元ではそれなりには有名というか、球速いピッチャーがいると言われてましたけど。

司会:今は親の方が熱心ですね。

糸井:親が必死になるのは分かりますよ。

井戸:うちは保護者のお茶当番は取り除きました。保護者会でもめたり、親同士がうまくいかなくてチームを去ってしまったり、よくある話です。そういう不必要なものを全て撤廃したのがうちのチームです。

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司会:関メディの今後の野望はあるんですか?

井戸:今は関西でやってますけど、いろんな地域で考えが浸透して真似するチームが増えてくれたらいいですね。野球の素晴らしさを糸井さんに伝えてもらって、我々は底辺で頑張ります。

糸井:野球は本当に素晴らしい。辞めてからもっと思います。スタンドから観てると、あんな声援を受けてやれるなんて幸せでしたね。辞めたら歌手とかにならない限り、まずない。

井戸:夏の甲子園で慶応の応援がクローズアップされましたけど最高だと思います。賛否両論ありましたが、相手チームもあの歓声の中でやるだけで幸せですよ。見られる大事さというか、見られる環境を作った方が子供たちにもいいんです。

司会:じゃあ、いずれは九メディとかもできるんですか?

井戸:うちがというより、同じ考えで子供たちをもっと楽しく上手にできる環境を増やしたいですね。増えるには増える理由があるんで、肯定的に考えます。

糸井:メンタルも教えてるのが凄いです。

井戸:慶応と同じメンタルトレーニングを入れてます。今回、慶応高校が優勝。慶応大学も明治神宮で優勝。中学はうちが優勝。メンタルトレーニングを入れてるところが中高大で優勝してるんです。

糸井:やっぱ大事なんですよ。してもらおかな。

井戸:それくらい思考力は大事です。マイナスに考えると全部マイナスになりますからね、失敗したらどうしよとか。

糸井:脳が体を動かすんで。

井戸:大人の声かけや言葉ひとつで子供たちは変わってきます。

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