アングル:頻発する異常気象、コンサートへの影響拡大 暑さで死者も

Diana Baptista

[メキシコ市 24日 トムソン・ロイター財団] - ゴルフボール大のひょうが降るかと思えば、命に関わる酷暑もある。世界が観測史上最も暑い年となった2023年、屋外コンサートの観客は異常気象への対処を迫られた。だが、2024年にはさらなる気温上昇が予想される。

群衆安全の専門家と野外イベントの主催者らは、異常気象による脅威の増大から出演者とファンを守る方法を模索している。昨年には「1.5度」という国際的に合意された地球温暖化の上限が間近に迫った。

「2023年を通じて、異常気象絡みの事故が複数発生しなかった月はない」と語るのは、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)で公衆安全・災害研究を専門とするミラド・ハガニ上級講師。「音楽産業にとってはあまりにも悲惨な1年だった」

ハガニ氏がまとめたリストで完全に網羅されているわけではないが、2023年には世界各国で少なくとも29のコンサートや音楽フェスティバルが天候の影響を受け、結果として2人の観客が死亡した。

犠牲者の1人がアナ・クララ・ベネビデスさん(23)。昨年11月、ブラジル・リオデジャネイロで開かれたテイラー・スウィフトさんのコンサートで暑さのために体調を崩して亡くなった。このときの気温は過去最高の摂氏59度に達していた。

ベネビデスさんの死去を受けたブラジル文化省の声明は、地球全体で「気候変動の影響が現われつつある」としている。

「人々が気候変動の影響にさらされるときには、こうした要因を考慮する必要が高まっている」と同省は指摘した。

このほか、昨年行われたイベントで天候の影響を受けたものとして、米ピッツバーグで行われたエド・シーランさんのコンサートで17人が熱中症により入院、ニュージーランドでのエルトン・ジョンさんの公演が豪雨のために中止、といった例がある。

<「懸念の的」>

政治集会からスポーツ大会に至るまで、屋外で開催される全ての公共活動において、気候変動を背景とする異常気象の問題が拡大しつつある。

昨年8月に韓国で開催された世界ボーイスカウト・ガールスカウト大会では、38度を超える熱波の中、600人の参加者が体調不良を訴え、救助のために韓国軍の医師・看護師数十人が動員された。

さらに大会8日目には、台風の接近を受けて10代のスカウト約4万人が避難した。

世界スカウト機構の広報担当者は、以前からこうしたイベントの開催時には天候がリスク要因になっていたとした上で、しかし現在では「気候変動により環境面で極端かつ予測困難な影響があり、懸念の的になっている」とメールで述べている。

世界スカウト機構は今後のイベントに向けて、健康・安全対策をどのように強化し、想定される気候変動と異常気象の影響への備えを改善するか、検討を進めている。

<準備と緊急対応計画>

ベネビデスさんが亡くなったブラジルでのテイラー・スウィフトさんのコンサートに関して、観客がソーシャルメディアに投稿した内容によれば、入場ゲートでボトル入りの水が没収される一方で、場内で販売される水は高額だったという。世界各国での商業音楽イベントではよくあるパターンだ。

このコンサートを主催したイベント会社T4Fのセラフィム・アブレウ最高経営責任者(CEO)は、ソーシャルメディアに投稿した動画の中で、「開演時刻の変更や、日陰エリアの増加は可能だった」と認めている。

アブレウCEOは、「私たちは気候変動の時代を生きており、こうした出来事はもっと頻繁に起きるだろう。あらゆるセクターが、この新しい現実を考慮して行動を見直さなければならないことも分かっている」と語る。

オクラホマ大学でイベント安全気象学を研究するケビン・クローゼル氏は、イベント主催者に対して、気象対策を優先課題とし、テロ攻撃や銃乱射など他のリスク要因と同じ比重で扱うよう呼びかけている。

クローゼル氏はトムソン・ロイター財団に対し、「そういった他のあらゆるリスクと比較して、天候は日常ベースで最も頻繁に起き得る脅威になりつつあることが判明している」と語った。

クローゼル氏は、イベント主催者は、専門的な気象学者と契約して脅威をチェックしてもらい、負傷や死亡を防ぐために公演を中止するなど難しい判断の材料とするべきだとの見解を示した。

「エアコンの効いた休憩所や用意する飲料水の量、会場内で極端に暑くなる可能性の高いスポットなどについて、イベントスタッフに助言できるような気象学者が求められている」とクローゼル氏は続けた。

群衆安全の専門家は、気象要因によりイベントが延期、中止、中断、避難を余儀なくされた場合に備えて、しっかりした緊急対応計画が必要だと語る。

クローゼル氏によれば、そうした計画には、会場の調整による十分な日陰エリアの確保、エアコンの効いた休憩所や緊急時に観客が避難できるスペースなどが含まれるという。

昨年8月、米首都ワシントンで行われたビヨンセさんのコンサートでは、激しい雷雨のために開演が2時間遅れ、観客は混雑した通路に避難した。

「落雷からの避難という点では見事な対応だった。だが、観客を狭い空間に詰め込みすぎたため空気がよどんでしまい、熱中症で倒れる人が出てきた」とクローゼル氏は説明する。

昨年は異常気象からの避難スペースが不足したことで、多くのコンサートに影響が出た。昨年6月にコロラド州で開催されたルイ・トムリンソンさんの公演もその1つだ。地元の消防署によれば、激しいひょうのために80─90人が負傷し、公演を中止せざるを得なかったという。

<イベント産業の存続も危うく>

UNSWのハガニ氏は、野外イベントの参加者側でも、想定される天候リスクを意識しておくことで負傷や死亡を免れる可能性があると言う。

天気予報をチェックしておくといった簡単なことでも、日傘や帽子、水を持っていくか、何を着ていくか、そもそもイベントに参加する意味があるかどうかという判断の材料になる。

「リスク評価は主として会場運営者の責任だが、参加者自身も利害当事者だし、実際のところ、命がかかっているという意味では参加者の利害の方が大きい」とハガニ氏は言い、危険が迫ったら会場を離れるべきだと続ける。

ハガニ氏は、会場側では、予想される天候の変化についてメッセージを送り、イベント実施中も情報提供するなど、観客に対して分かりやすく迅速なコミュニケーションを維持するべきだと語る。

英国の公共イベントで救急医療を提供している慈善団体セント・ジョン・アンビュランスで医療ディレクターを務めるリン・トーマス氏は、特に高温多湿の気候に馴染みのない国では、フェスティバルに向かう観客が、陽光の下で長時間過ごすことが熱中症につながる可能性があることを意識しておく必要がある、と話す。

ハガニ氏によれば、出演者の側でも、悲劇を防ぐためにできることがある。

「アナリストと契約して群衆行動についての知見を提供してもらい、観客の行動を把握し、脅威を特定し、状況に働きかける手法を教えてもらうこともできる」とハガニ氏は言う。

スポーツ大会など他の野外イベントでは、開催時期の変更や、異常気象に関する警報システムを開発する動きがある。

たとえばニューヨークシティマラソンなどを主催するニューヨーク・ロード・ランナーズでは、当日のコース状況について色別コードによる警報システムを導入し、危険すぎるときにはレース参加者が参加を中止できるようにしている。

豪メルボルンのサリー・キャップ市長によれば、同市では反射塗装を用いることによりテニスコートなどの施設で気温抑制を図っているという。また、街頭での表示やソーシャルメディア、テキストメッセージを利用した猛暑に関する警報システムも用意している。

だが、しっかりした緊急対応計画や緩和対策があるとしても、気候変動により、野外イベントが中止される頻度は上昇するだろう、と研究者らは警告する。

「イベント産業が生き残れるかどうかは、計画を立て、それをしっかり守ることができるかどうかにかかっている」とハガニ氏は言う。「たえず天候に振り回されるようになれば、イベント産業の存続そのものが脅かされることになるだろう」

(翻訳:エァクレーレン)

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