安部公房の遺作『飛ぶ男』 死後、フロッピーディスクから見つかった未完の絶筆

安部公房生誕100年に当たる3月を期に、その遺作である『飛ぶ男』が2月28日に新潮文庫より刊行される。

1994年に刊行された『飛ぶ男』(単行本/新潮社)は安部公房の死後、長年寄り添った真知夫人が原稿に手を入れたバージョンだた。今回の文庫版では、フロッピーディスクに遺されていた元原稿(安部公房全集029に収録されているものと同じ)を底本とした、安部公房自身による完全オリジナルバージョンとして刊行される。

新潮社より文庫新刊が発売されるのは、1995年『カンガルー・ノート』以来、約30年ぶり。ノーベル文学賞受賞寸前であったといわれる安部公房の遺作にして未完の絶筆が解禁される。

■内容紹介
ある夏の朝。時速2、3キロで滑空する物体がいた。《飛ぶ男》の出現である。目撃者は3人。暴力団の男、男性不信の女、とある中学教師……。突如発射された2発の銃弾は、飛ぶ男と中学教師を強く結び付け、奇妙な部屋へと女を誘う。世界文学の最先端として存在し続けた作家が、最期に創造した不条理な世界とは――。表題作のほか「新潮」で連載が始まった「さまざまな父」を収録。

■著者略歴
安部公房(1924-1993)
東京生れ。東京大学医学部卒。1951(昭和26)年「壁」で芥川賞を受賞。1962年に発表した『砂の女』は読売文学賞を受賞したほか、フランスでは最優秀外国文学賞を受賞。その他、戯曲「友達」で谷崎潤一郎賞、『緑色のストッキング』で読売文学賞を受賞するなど、受賞多数。1973年より演劇集団「安部公房スタジオ」を結成、独自の演劇活動でも知られる。海外での評価も極めて高く、1992(平成4)年にはアメリカ芸術科学アカデミー名誉会員に。1993年急性心不全で急逝。2012年、読売新聞の取材により、ノーベル文学賞受賞寸前だったことが明らかにされた。

(文=リアルサウンド ブック編集部)

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