相次ぐ閉校で危機…准看護師を目指す学生たちの夢と思い

地域医療を取り巻く看護の世界に今、ある“変化”が訪れていることをご存知ですか?

コロナ禍で浮き彫りになった、医療の現場の過酷さ。そんな中で、広島県内の看護学校が次々と閉校になっているのです。

医療の世界に飛び込み、人の“命”と向き合おうとする学生たちの思いを取材しました。

■准看護師を目指す学生たちの学校生活

厳かな雰囲気で執り行われる、戴帽式(たいぼうしき)。

准看護師を目指す彼らは、これから実習に赴き、病院で初めて患者と向き合います。

取得に3~5年かかる国家資格の看護師に対し、都道府県知事の免許である准看護師は2年で資格取得が可能。管理職など、指導する立場になることはできませんが、業務内容は看護師とほとんど変わりません。

緊張感漂う教室で真剣に机に向かっているのは、来月に資格試験を控えた2年生たち。病院での実習を終え、今は週に1回だけ登校し試験勉強に専念しています。

准看護科2年生の高石愛理さん(30代)。地元・山梨の大学を卒業し、福島で就職しましたが、知人の伝手で広島に移住し、医療の世界に飛び込みました。

高石さん「新しいことに挑戦するのは、とても勇気がいりました。社会人になってから何年か経ってからの学びにはなるんですが、できることをやってみたいという気持ちで入学しました」。

広島市医師会が運営する広島市医師会看護専門学校には、准看護科と看護科があります。2年制の准看護科には、1学年100人程度が在籍していて、10~50代の様々な経歴の生徒が学校生活を送っています。座学や実習を経て、資格試験に合格した約半数の学生は、そのまま看護科に進学する予定なのだそう。高石さんもその一人です。

高石さん「常に笑顔で、常に冷静でいられる看護師になりたい。科目も多いし、一つ一つ丁寧にしっかりと見返しながら合格できるよう頑張っていきたいと思います」

しかし今、看護職員を育てる環境に、ある“変化”が訪れています。

■看護の世界に訪れている“変化” 医療体制を十分に供給できないおそれも

広島県内では2022年以降、江田島市や三原市の看護専門学校など、相次いで3校が閉校に。

かつて8校あった県内の准看護師の養成校の中で現在も募集を続けるのは、3校のみとなりました。

この現状に広島市医師会の長尾光史常任理事はー。

長尾常任理事「これはもう全国的な傾向で、2000年度の准看護師の養成所は500校以上あったんですが、この20年間で半減しています。さらにこの3年間で30校程度減少しているので、広島県に限ったことではないんです」

医師会が運営する県下最大規模の養成校でも学生数は年々減少。10年前、350人だった准看護科の定員数は、去年は半分以下の120人となりました。その要因とは?

長尾常任理事「まず一番の要因は、少子化です。それと現在、広島県下の8つの大学で看護学部が開設されており、どうしても大学の方へ学生が流れてしまう」

県内では1992年に、広島大学に保健学科が開設され、現在、県内8つの大学に看護系の学部が導入されています。しかし、広島市医師会によると、運営する養成校の約9割の卒業生が県内で就職するのに対し、大学では5~6割が県外に出てしまうといいます。

長尾常任理事「まずは看護師を確保するということが非常に困難になると予想されるので、地域の各病院で、医療体制を十分に供給できないおそれが出てくる可能性があると思います」。

■地域医療を支える准看護師 『看護』の道へ進む決意新たに

高齢化が進み、ますます需要が高まるとされる『看護』の世界。その中でも、介護や訪問医療などの分野で活躍している准看護師は、地域医療にとって重要な存在だといいます。

生徒数の減少を受け、この養成校でも定員の見直しや社会人入試の導入など、様々な施策を検討していますが…。

長尾常任理事「医療職や看護職は、きつい・危険というイメージを、最近の若い人たちは持っているのかなという印象はある」。

コロナ禍で、その過酷さが浮き彫りになった医療や看護の世界。そんな中でも夢や希望を持って、学生たちは看護の世界へ足を踏み入れます。

1月18日に行われた戴帽式。学生たちは、“ナイチンゲールの灯(ともしび)”を受け継ぎ、『看護』の道へ進む決意を新たにしました。

戴帽式で誓いの言葉を述べた准看護科1年生の福原樹理さん(47)は、福祉の現場で働き、40代で准看護科に入学しました。

福原さん「もう一歩病気に踏み込んだところ、患者に踏み込んだところでお手伝いできたらいいなと思って看護師を目指しました。自分で動ける、任せられる、命を預けられる、そういう看護師になりたいと思います」。

看護師は子どものころからの夢だったという准看護科1年生の川野瑠衣菜さん(19)。きっかけは自身の入院でした。

川野さん「小さいときに病院に入院したことがあってとても不安だったんですが、看護師さんが優しく声をかけてくれたり近くにいてくれたりして、すごく安心して入院生活を過ごすことができたので、その看護師さんに憧れを持って自分も将来なりたいと思って目指しました。憧れを持った看護師さんのように、優しく声をかけたり、患者さん一人一人にしっかり寄り添える看護師になりたいです」。

記者「今度はご自身が誰かに夢を与えるような存在になるかもしれないですね」。

川野さん「なりたいですね」。

心の支えになった“憧れの看護師さん”。学生たちはそれぞれが思い描く夢に向かって、懸命に歩みを進めていきます。

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