【特集「やっぱりドイツ車が好き!」①】 ハイエンドサルーンの確固たる矜持を見た【BMW 7シリーズ × アウディ A8】

スポーツモデルや電動車づくりに長けたイメージが強いアウディとBMW。そのフラッグシップサルーンであるA8と7シリーズは、運転する楽しさ、至高の乗り心地と快適性、電動化など現代のラグジュアリーサルーンに求められるすべての要素を備えた稀有な存在である。(モーターマガジン2024年3月号より)

バックミラーに映る、かつてないプレッシャー

2023年の日本市場では、Lセグメントを取り巻く環境に大きな変化があった。22年末に上陸したメルセデス・ベンツ EQSが初のフルイヤー販売となる中、ほぼ変わらぬタイミングでBMWの7シリーズも上陸、G70系となる第7世代はBEVのi7と内燃機の740系がワンボディで併売されるBMW的戦略もさておき、その強烈な意匠に注目が集まった。

排気量はほぼ同じ3Lながら、かたや「代名詞」ともいえる直列6気筒ツインターボ、こなた熟成が重ねられてきたV型6気筒ターボ。MHEVとPHEVという違いもあった。

デザインはトップダウンで攻める……といえば、クリス・バングル時代の4代目7シリーズを思い出すが、彼からその任を継承したアドリアン・ファン・ホーイドンクも、ここ数年は業師の頭角をメキメキと表している。

SUVであれセダンであれ、トップレンジのモデルに共通するのは「4アイズ」と呼ばれるフロントライト周りだ。BEV化も想定したアーキテクチャーによって車体の厚みが増す運命にあるBMWとしては、LED化によって意匠自由度の高くなった灯火を上下に伸ばしたキドニーグリルとともに合わせるならば、デイタイムランニングランプと前照部との二段積みで構成されたデザインにも合点がいく。

奇しくも同門のロールスロイスが03年にファントム7で切り拓いた顔面造作が、そこに重なって見えるのは気のせいだろうか。背後から4つのロービームを灯して迫り来るその圧は、バックミラー越しに見ると今までとは異質なプレッシャーが感じられる。

でも、そういうディテールを意識せず大枠で7シリーズを見ると、それはオーセンティックなBMWだ。3ボックスのノッチも識別でき、ホフマイスターキンクも明瞭で、グリルの見えない真横からの眺めでもはっきりと出自がわかる。

保守と革新の折り合いをどうつけていくのか。どこよりもアグレッシブに試行錯誤を重ねたBMWの行き着いた先が、BEV専用アーキテクチャーを用いた新しいコンセプトカー、ノイエクラッセなのかなと思うことはある。

外観に負けず劣らず「振り切れた」インテリア

エクステリアに目を奪われるが、7シリーズはインテリアの攻めっぷりも相当なものだ。エクステリアにも相通じるマテリアルのテーマのひとつはクリスタルということで、前席はぐるりと透明のオーナメントが張り巡らされる。

多彩なシートアレンジ、オプションの31.3インチの後席用シアタースクリーンを備えるなど、BMW 740i Mスポーツの後席はトップクラスの快適さだった。

テーマごとに異なる滑らかなイルミネーションとなるだけではなく、ADASやハザード操作などとの連動で注意喚起を促すなど、機能面での進化にも滞りはない。

後席に至ってはイルミネーションの必要も感じないほど賑々しい。空調やシートの調整など多岐に及ぶ各種操作系はドアコンソールのタッチスクリーンに一括し、オプションのリアエンターテインメントスクリーンは天井からせり出す31.3インチの一枚物だ。

7シリーズのボディは従来のロングボディに一本化され、その車格は先代のゴースト並みに大きくなっている。昨今のデザインコンセプトに沿ってエッジが丸く面取りされた後席の掛け心地は肌触りが優しく、オットマンも備わるリクライニング機能を用いて眼前の巨大なスクリーンを眺めながらの寛ぎ感は、アルファードあたりよりも全然振り切れている。

洗練されたシャシのセットアップ。旋回性にも優れる

そんなのBMWじゃないという意見もあるだろう。が、7シリーズの真の驚きはこれらを踏まえた上で、走りが真のBMWであることだ。しかもパワートレーンの種別を問わない。BEVのi7でさえそう思わせる。

「オートマチックセルフレベリングコントロール付きアダプティブ2アクスルエアサスペンション」や「電子制御ダンパー付きアダプティブサスペンション」を標準装備する。

個人的には12気筒を搭載した先代のM740iは今でもベストなBMWの1台だが、i7のM70は見事にその後継になり得ている、そんな印象だ。

取材車は逆にもっとも守旧的なパワートレーンの740iだったが、これもまた見事なまでにBMWである。もちろんお約束のストレート6云々もあるものの、巨体を動かすには必要十分なパワーに合わせてすっきり優しく躾けられたシャシのセットアップがまた素晴らしい。

このクラスのご多分に漏れず電子デバイスが山盛りで3200mmオーバーのホイールベースも感じさせないほどの旋回性を誇る一方、そういった調味料に依った味付けとはまったく思わせないノド越しの良さがある。

元来、BMWの乗り味は高い解像度や緻密な応答性に裏付けられた繊細さこそが軸だったように思う。だが昨今はダイナミクスの幅が広すぎるあまり、その繊細さが薄れてしまうことも珍しくない。左様にハイテクの塊だが、7シリーズのドライバビリティには旧き佳きBMWの微妙なタッチが宿っているように思う。それが得も言えぬ心地よい肌感を生み出していることは間違いないだろう。

A8のPHEVモデルはシリーズを牽引する存在

アウディは電動化に関して、どちらかといえばメルセデス・ベンツ寄りの戦略を採る。すなわちBEVのトップレンジはタイカンと同じPPEアーキテクチャーを持つeトロン GTシリーズが担いつつ、トラッドなLセグメントニーズの汲み上げはA8の電動化で対応するという方策だ。

PHEVモデルの日本導入が始まったのは、2023年6月から。アウディとしては「A3スポーツバック e-tron」 以来の8年ぶりのPHEVモデルであり、クワトロとの組み合わせは初となる。

但しeトロン GTはスポーツセダン寄りの色合いが強いこともあって、A8の側に担わされた役割は重い。ちなみにシェアの高い中国ではホルヒのブランドでスーパーロングボディも展開されている。

日本ではショートとロング、2つのボディバリエーションを展開するが、今回の取材車両は60TFSI e クワトロとなる。従来の60TFSIは4L V8ツインターボを搭載していたが、電動化が推し進められる中、こちらは3L V6ツインターボを軸に8速ATとの間に136psを発生するモーターを挟み込んだPHEVで、システム総合出力は462ps、トルクは700Nmを発揮。

0→100km/h加速は従来の60TFSIにわずかに劣るが、そのぶんを補えるモーターのトルクとともに60TFSI e クワトロは17.9kWhのバッテリーを搭載、WLTCモードで最大航続距離54kmのBEV走行を可能としている。

要はS8を別とするA8のトップグレードはPHEVになるという、最近の欧州勢にありがちなグレード展開となるわけだ。この良し悪しについては人それぞれの判断になると思う。

だが走りについてはネガティブなことはまるで感じないほど2つの動力源の協調制御も洗練されている。この“そつのなさ”は実にアウディらしい。

A8の駆動システムは緻密に制御されわずかな隙もない

A8はSクラスや7シリーズといったライバルよりやや年配で、現在はモデルライフ後期の世代となる。ゆえにインフォテインメントやアンビエントなどの装備にちょっと事務的なところを感じなくもない。というより、20年以降に登場したSクラスや7シリーズの飛ばしっぷりが想定以上だったという見方もできる。

インパネは平滑な光沢パネルで高級感を演出。センター画面は2分割式で、上は主に表示用、下は主に操作と入力用となる。

中国に代表される主力市場の嗜好がわかりやすい空間価値だったところを、いかに早くキャッチアップするか否かでその盛り方も変わっただろう。顕著に社会的な端境期である中、アウディもそこにちょっと揉まれた感はあるのかもしれない。

でもそのぶん、走りは複雑なメカニズムを丁寧に纏めていて、前述の通り余計なバリもなく精細度は非常に高い。BMWが繊細さであればアウディは四駆を完璧に手なづけた精密さ、そして応答の正確性がドライバビリティの素地にあるわけだが、最上位モデルのA8はそれだけではないむっちりと有機的な乗り心地の味わい深さも魅力として加わってくる。

A8からは7シリーズほどの真新しさは伝わってこないが、そのぶん図らずもアウディにとっては苦手な領域だっただろう、滋味のようなものが感じられるようになった。今となっては6ライトキャビンが特徴的なその佇まいも、ライバルより俄然オーセンティックでもある。

何より様式を重んじる方面のニーズが一番大きいLセグメントにあって、声高に主張せずとも静かないいものというA8の存在感は、世の中で当然求められるべきものだと思う。
(文:渡辺敏史/写真:井上雅行、佐藤正巳)

テスト車両 主要諸元

BMW 740i Mスポーツ 主要諸元

●全長:5390mm
●全幅:1950mm
●全高:1545mm
●ホイールベース:3215mm
●車両重量:2120kg
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●排気量:2997cc
●エンジン最高出力:280kW(381ps)/5500rpm
●エンジン最大トルク:520Nm(53.0kgm)/1850-5000rpm
●モーター種類:交流同期電動機
●モーター最高出力:13kW(18ps)/2000rpm
●モーター最大トルク:200Nm(20.4kgm)/0-500rpm
●システム最高出力:280kW(381ps)
●システム最大トルク:540Nm(55.1kgm)
●WLTCモード燃費:12.8km/L
●駆動方式:RWD
●トランスミッション:8速AT
●タイヤサイズ:フロント 255/45R20・リア 285/40R20
●乗車定員:5名
●車両本体価格:1588万円(税込)

アウディ A8 60 TFSI e クワトロ 主要諸元

●全長:5190mm
●全幅:1945mm
●全高:1470mm
●ホイールベース:3000mm
●車両重量:2350kg
●エンジン:V6DOHCターボ
●排気量:2994cc
●エンジン最高出力:250kW(340ps)/5000-6400rpm
●エンジン最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1370-4500rpm
●モーター種類:交流同期電動機
●モーター最高出力:100kW(136ps)/2390-7000rpm
●モーター最大トルク:400Nm(40.8kgm)/0-2390rpm
●システム最高出力:340kW(462ps)
●システム最大トルク:700Nm(71.4kgm)
●WLTCモード燃費:10.6km/L
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:8速AT
●タイヤサイズ:フロント 265/40R20・リア 265/40R20
●乗車定員:5名
●車両本体価格:1320万円(税込)

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