焦点:トランプ氏を支えるキープレーヤーたち、陣営新幹部は表舞台に出ず

Alexandra Ulmer Nathan Layne Steve Holland

[1日 ロイター] - レーガン元大統領の選挙陣営で働いたベテラン選挙参謀。中東で負傷した元海兵隊員。総合格闘技UFCの広報担当者。ソーシャルメディア対策を仕切る元キャディー。これがドナルド・トランプ陣営の主力だ。

緊密で統制の取れた側近としてホワイトハウス奪還をめざす前大統領の周囲を固めるのは、こうした少数の特色ある顔ぶれだ。現・元官僚や献金者、ストラテジストを含め、トランプ陣営に近い十数人へのインタビューから明らかになった。

取材に応じた人々によれば、トランプ陣営の中枢は6人ほどの側近で固められている。ボスであるトランプ氏に揺るがぬ忠誠を捧げ、ほぼ黒子役に徹している。勝手放題のアドバイザーたちが内紛やメディアへのリーク、解任騒ぎを繰り返していた過去のトランプ陣営とは好対照だ。

トランプ陣営の共同選対本部長を務めるクリス・ラシビータ氏(57)は、「戦場に一緒に行くなら、信頼できる人間でなければ」と語る。元海兵隊員で1991年の湾岸戦争で負傷し、政治コンサルタントに転じた。

「指揮系統はきわめて明確だ」とラシビータ氏。「そのトップにあの人がいる」

あまり表に出てこないラシビータ氏と、ともに選挙運動を仕切るスージー・ワイルズ氏の姿を人々が目にしたのは、トランプ氏が1月、アイオワ州の共和党党員集会で51%の支持を得て勝利し、ステージに上がって勝利宣言を行った時だった。

トランプ氏の背後には、赤いブレザーを着てステージの端に立ち、身体の前で両手を重ねるワイルズ氏の姿があった。さらにその後ろには、ラシビータ氏のつるっとした頭も見えた。

トランプ氏は2人の方を向いて、「彼らは何の称賛も求めていない。ただ勝利をめざし、米国を再び偉大にしたいと願っているだけだ」と語った。「何か話すことや写真に映ることは望んでいない。ただ任務を果たしたい、それだけだ」

2人の経験豊富な選挙参謀とその周囲の小規模なチームのおかげで、トランプ氏は共和党の大統領候補指名レースで大きなリードを築いている。大物の支持を獲得し、各州の共和党に働きかけて有利なルール変更を実現し、ライバルへの口撃を絶やさず、複数の刑事訴訟を逆手に取り巧みな選挙戦略を企て、イベントには赤い帽子をかぶった支持者が詰めかけるように準備する。

2016年大統領選挙でトランプ陣営の選対本部長を務め、今もトランプ氏と親密なコーリー・ルワンドウスキー氏は、あるインタビューの中で、「たいていの人はスージー・ワイルズとは誰なのか、クリス・ラシビータとは何者なのかを知らない。それは悪いことではない」と語る。

「2人は毎日任務を果たしている。飛行機の機体に書かれている名前は1つだけ、『ドナルド・トランプ』だ。トランプ氏はこのやり方が気に入っている」

トランプ陣営のここまでの成功を見ると、11月に直接対決する可能性の高い民主党のジョー・バイデン現大統領にとっては、4年前に比べてはるかに厳しい戦いになりそうだ。

共和党で長年コンサルタントを務め、大統領選挙や上院議員選挙にも関与するスコット・リード氏は、「バイデン氏は今回、俊英ぞろいのトランプ陣営と対峙(たいじ)することになる」と語る。「腰巾着の類いはほとんど追い出された」

だが、参謀がどれほど優秀であろうと、成功・失敗の双方を決定づけるのはトランプ氏自身だというのが一般的な見解だ。本番の選挙の成否を決定づける穏健派・無党派の有権者を離反させてしまいそうな、シナリオから外れた失言も多い。

トランプ氏は、米国史上最大規模の移民送還措置、「腐敗している」と決めつける国家安全保障当局者の更迭、政敵の「一掃」など、分断を深める計画を口にするが、新たな側近たちがこれを抑止しようとする兆候は表面化していない。

バイデン陣営の広報担当、アマール・ムーサ氏は、より統制のとれたトランプ陣営と対決する見通しについて聞かれると、選挙陣営がどうであれトランプ氏を打ち負かすと述べた。バイデン氏は、トランプ氏が米国の民主主義に対する脅威だと非難している。

ムーサ氏は「トランプ氏が大統領執務室に戻ることがいかに危険かを、有権者は認識しつつある」と語った。

<格闘技とゴルフ>

2024年版のトランプ陣営は、2020年にバイデン現大統領と対決したときに比べて規模を縮小している、当時は多くの有力者がトランプ氏に意見を伝えていた。当時のトランプ陣営ではブラッド・パースケール選対本部長が10部門からなる構造を指揮していたが、トランプ氏の息子であるドナルド・ジュニア氏やエリック氏、娘のイバンカ氏、娘婿のクシュナー氏、共和党全国委員会のロナ・マクダニエル氏など、口を出す人物は他にもたくさんいた。

こうした顔ぶれに加えて、ホワイトハウスの大規模な組織があった。マーク・メドウズ大統領首席補佐官、ケリーアン・コンウェイ大統領顧問、マイク・ペンス副大統領、その他多くの人々だ。

だが今回のトランプ候補の選挙運動は、ワイルズ氏に依存する部分が大きい。同氏は1980年にレーガン氏の選挙運動に携わり、2016年、2020年には上級顧問としてトランプ氏のフロリダ州での勝利に貢献した。

実情を知る選挙陣営関係者によれば、ワイルズ氏は活動予算から移動の予定に至るまで、あらゆることに目配りしているという。この関係者は、取材に応じた他の多くの人々と同様、自由に話すために匿名を希望している。

ワイルズ氏はもう1つ重要な手土産をトランプ陣営にもたらした。当初トランプ氏の主なライバルであったロン・デサンティス候補をよく知っていたからだ。

ワイルズ氏は、2018年フロリダ州知事選におけるデサンティス氏の勝利に貢献したが、その後、関係が悪化して同氏と決別した。トランプ陣営の戦略を知る複数の情報提供者によれば、ワイルズ氏が加入したことで、デサンティス氏が出馬を表明する前から、トランプ陣営では早々に同氏の弱点を見極めることができたという。

両者を知る人々はラシビータ氏とワイルズ氏の性格は異なると語るが、ロイターが取材した選挙戦の様相からもそれはうかがわれる。ラシビータ氏は社交的で記者団とのおしゃべりが好きだが、ワイルズ氏は物静かで、たまにジャーナリストと顔を合わせるときでも、手短な回答に終始するのが普通だ。

トランプ陣営の内部の動きに詳しい別の情報提供者によれば、2人は常に連名でトランプ候補に進言しているという。

一方、メディア戦略を担当するのは選対ストラテジストを務めるジェイソン・ミラー氏と、スティーブン・チュン氏。チュン氏は、ケージファイト形式の総合格闘技アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ(UFC)の広報担当チーフという経歴を持つ。

やはり側近として名を連ねるのが、トランプ政権下のホワイトハウスで政務局長を務めたブライアン・ジャック氏だ。他の政治家に対する働きかけを取り仕切り、支持を確保する役割だ。またソーシャルメディア対応はダン・スカビノ氏が担当する。

スカビノ氏は、トランプ氏にとって最古参の側近の1人だ。その縁は、不動産業界の大物だったトランプ氏のゴルフにキャディーとして付き添った1990年代にさかのぼる。3回の大統領選挙全て、そしてホワイトハウスでの4年間、トランプ氏の脇を固めた。

ラシビータ氏はロイターの取材に対し、トランプ氏は多種多様な人々にアドバイスを求める習慣があるが、それを止めようとはしていない、と語った。

アイオワ州でのトランプ支持者の集会の舞台裏で、ラシビータ氏は「ただし構造として見れば、私たちのグループは密にまとまっている」と語った。

またこれとは別に、ラシビータ氏は昨年8月のインタビューでトランプ陣営の戦闘的な姿勢に触れている。「アグレッシブなキャンペーンを張ることは私たちにとっては簡単なことだ。候補者が気にせずに任せてくれる場合には、非常にアグレッシブになる」

トランプ氏の息子であるドナルド・ジュニア氏、エリック氏は、2024年の選挙運動にも積極的に参加しており、アイオワ州とニューハンプシャー州の党員集会では現地でかなりの時間を過ごし、父親のために頻繁にテレビに出演した。

<パームビーチで朝のミーティング>

35人前後のトランプ陣営スタッフは、フロリダ州パームビーチにある、トランプ氏の邸宅「マールアラーゴ」に近い地味なビルを拠点として活動している。同陣営の動きを知る選対関係者の1人が明らかにした。

同じ選対関係者によれば、ワイルズ、ラシビータ氏などのメンバーで構成される選対中枢は、毎朝9時からのミーティングで始動し、計画を立て、問題を精査する。重要なのは、情報漏えいや内紛を防ぐために、全員の意見をよく聞くことだ。

この選対関係者は、「全員が納得するまでは解散しないという点にこだわっている」と語る。

その後、何か面倒な案件をトランプ氏に伝えに行くのは、ふだんはワイルズ氏の役目だ。ワイルズ氏は通常は週に複数回トランプ氏との打ち合わせをしている。

トランプ前大統領の陣営に近い6人の関係者によれば、こうした側近たちを取り巻く顔ぶれとして、トランプ政権下のホワイトハウスで働き、今も主要スピーチライターを務めているロス・ワーシントン氏とビンス・ヘイリー氏がいる。

トランプ氏の演説はここ数週間、厳しい視線にさらされている。同氏が支持者に対し「我が国の血は移民によって汚されている」と述べ、政敵を「寄生虫」と表現したことで、ナチスの言説を思い起こさせる排外主義的な発言として批判を浴びているからだ。

こうしたコメントが、ワーシントン、ヘイリー両氏に由来するのか、トランプ氏のアドリブによるものかは不明だ。12月6日のニューハンプシャーでの演説に先立ってメディアに配布された予定稿には「血を汚す」という表現は見当たらない。ワイルズ氏などの側近は、メールや声明などでその点を説明する努力をしていない。

チュン氏は、トランプ前大統領の発言に対する批判を「的外れだ」と切り捨て、同様の言葉は書籍やニュース記事、テレビでも広く見られるとしている。ロイターではヘイリー、ワーシントン氏にコメントを求めようとしたが、連絡は取れなかった。

また、トランプ氏のための政策提言を誰が作成しているのか、正確に把握することも困難だ。

2人の情報提供者によれば、ホワイトハウスの元上級顧問で強硬な反移民政策を掲げるスティーブン・ミラー氏が、対メキシコ国境に関する政策提言の主役だという。また、かつてのトランプ選対本部長だったルワンドウスキー氏の話では、国家安全保障分野の顧問を務めるのは、トランプ政権時代の国家安全保障会議(NSC)で事務局長を務めたキース・ケロッグ元陸軍中将だ。

ミラー、ケロッグ両氏はコメントを控えるとしている。

チュン氏は、「(トランプ氏は)適任と見られる多くの個人、さまざまな分野の専門家と話をしている」と語るが、詳細については触れなかった。

複数の内部関係者は、トランプ氏の子どもたちは実際にはあまり口をはさんでおらず、複数の派閥が競い合う状況は生まれていない、と語る。

とはいえ、アイオワ州での勝利宣言の際に、ステージ上でトランプ氏に寄り添っていたのは年長の息子2人であり、ワイルズ、ラシビータ両氏はカメラに映らない場所に控えていた。

(翻訳:エァクレーレン)

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