舞台『中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~』藤原竜也合同取材会レポ

舞台『中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~』が2月に開幕する。
歌舞伎全盛であった江戸時代中期に実在した破天荒な歌舞伎役者 中村仲蔵。梨園の血縁ではない彼は、市川團十郎に見出されて異例の出世を遂げた。その波乱万丈な人生は落語や講談でも語り継がれ人気演目。ドラマ化もされ2022年度文化庁芸術祭テレビドラマ部門の大賞を獲得。
唯一無二の中村仲蔵の物語を、ドラマ版の脚本監督 源孝志が舞台戯曲として書きおろし、蓬莱竜太が演出。中村仲蔵役を務めるのは藤原竜也。そして市原隼人、浅香航大、尾上紫、廣田高志、植本純米、古河耕史、深澤嵐、斉藤莉生、今井朋彦、池田成志、髙嶋政宏ら、実力派が出演。しかも大阪の「Sky シアターMBS」の柿落とし公演でもある。
昨年、中村仲蔵役の藤原竜也の合同取材会が行われた。

ーー今回大阪の「SkyシアターMBS」杮落とし公演ということですが、意気込みをお願いします。

藤原:杮落とし公演というのは自分のキャリアとしては初めてなんじゃないかと思います。非常にありがたいこと、名誉なことですよね。そもそも本が、完成度の高い戯曲になっています。演出の蓬莱さん含め、我々がしっかりとした稽古を積んで、いい結果を残して、満を持してとは言いませんが大阪の方へいい杮落としの印象を持っていただけたらなと思いますね。まだ、まったくもってどういう劇場が完成するのかは想像つかないですけど、東京でのキャパシティより多少大きいとお伺いしているので。杮落としにふさわしい公演として、『中村仲蔵』が残ればいいなというイメージは今、あります。

ーーもともと歌舞伎についてはどう考えていたのでしょうか。また、役作りのうえで参考にされた方はいらっしゃいましたか?

藤原:今、六代目の勘九郎さんのイメージがやはり強いですね。勘九郎さんと七之助さん、中村兄弟のような魅せる歌舞伎、芝居に対する熱い情熱は他にないと思っているんですね。お父様の想いを踏襲しているのがわかりますし。勘九郎さんがやられた『中村仲蔵』という熱い強いイメージを常に心のうちにとどめて演じていきたいなと思っています。ちなみに、歌舞伎はもともと中村屋さんのファンで。昨年小倉の公演にも伺いました。わりと、歌舞伎は観て楽しむほうでしたけど、いざ自分が中に入ってみると知らないことだらけで。踊りひとつ、小道具ひとつとっても、ここまで意味があってこういう振り付けなのかとか。すべてが計算されたストーリーになっていて。それを勘九郎さんたちは2歳、3歳からやられているんだなと思うとそれはもう、簡単に真似はできないですし、簡単に「教えてくれ」とも言えないです。なら我々はどうするのかといえば、演劇として作品を成立させることなんじゃないかと思っているんです。

ーー改めて、中村仲蔵の魅力、舞台ならではのおもしろさについては?

藤原:本は本当に、おもしろいですよ。今どうやろうこうやろう、というのは僕は演出家ではないので、まだなんとも言えないんですけれども。源さん、作家さんがすべて答えを持っているわけですから、なかなか試されてるように感じて。それに勘九郎さんがドラマで素晴らしいものを残してしまったばっかりに、大きなプレッシャーがありますけども(笑)。今回、源さんと協力しあいながらやっていければいいんじゃないかと。できることは事前に準備しておいて、来年2月とはいえ時間があるようでない世界なので早め早めに一つひとつを細かいことをクリアして、余計なことを削ぎ落として芝居一本、稽古に集中していけるような状況に持っていきたい。

ーー本のおもしろさとはどんなところ?

藤原:うまいんですよね。お客様を瞬間的に歌舞伎の世界、江戸の世界に引き込む手法というか。その力は源さん、さすがだなと思います。お客様にわかりやすく歌舞伎の、役者の構造を伝えていき、そして井上ひさしさん的な人間模様でね、喜劇から悲劇に一瞬で変わっていく。よくこの長い時代の話をこれだけ削ぎ落として完成させたなと。源さん、壮大なストーリーを演劇的に、今まであったようでない世界を構築してくれています。

ーー『中村仲蔵』、現代の私たちにも、元気や力をくれる作品になりそうでしょうか。

藤原:そうですね。僕らっておもしろいのが、結果がすべてで。他者とのコミュニケーションって表現しかない。すなわち、僕らが演じることで、お客様と会話するようなところがある。仲蔵は一度死ぬわけですよね。一度死んでそこから見えなかったものが見えるようになって、もう一歩踏み出してみようというのは、学校でも会社でも通じるものがありますよね。僕は大きなことを言うより、観てもらえればありがたいというタイプなんですけど、あえて言葉にするならば「演劇の持つ力」を存分に発揮できる作品なのではないかと思います。

ーー会見で、「この年齢になって手も足も出ないということがうれしい」とおっしゃっていました。

藤原:集中して中村梅彌先生にずっと踊りを教えてもらっているんです。先生の家に行くときに毎回思うのが、僕はいつも、汚ねぇジャージとTシャツ着て、リュック1つで通っているのがなんか懐かしくて。それはなぜかというと、15、16歳のときとまったく同じような服装だったんです。当時はそれで稽古してて「演技って難しくておっくうだなあ」って思いつつ、稽古が終わると「近所でラーメンでも食べて帰ろう」とか。そういう何も知らなかった思春期の自分と重なるんですよね。なにも知らなかったことを学ぶのって大事だし、知らなかったことを知らないって誇るのも恥ずかしいよなと。40歳、50歳で自分のやりたくないことを全部断るのは簡単だけれど、でもそれじゃだめだなと思う。わからない、難しいこと、嫌々やってたとしても積み重ねれば結果として返ってきますからね。それが心地いい。ちなみに、僕が悪戦苦闘してるのを見て勘九郎さんが「そろそろ教えようか?」とか茶化してくるんですけど。それはしっかりお断りしてます(笑)。歌舞伎って僕が簡単に踏み込める領域ではないと、そこはよくわかっているつもりだから。勘九郎さんとは『新選組!』のとき以来、ずっと家族ぐるみでお付き合いしています。ともに同じ世代で、演劇の世界で関わることができて本当によかったと思える方ですね。素晴らしい役者だと思います。

ーー藤原さんは、演劇の第一線で活躍されています。舞台がほかの映像作品などと違った魅力があるとしたら?

藤原:シェイクスピアの時代からある、一人の人生を最初から最後まで演じるというのはたいへんな労力がいる作業。なかなか難しいんですけど、心や記憶に残るという点、自分の経験値としても残るという点では圧倒的に演劇が勝っているかと。一方で映画やドラマがダメなのかといえば、決してそうではない。それぞれのよさがありますよね。舞台ならではの難しさ、怖さは本番中ではもちろんあります。でもだいたい時間が経つと忘れちゃう。役者って適当なんですね(笑)。舞台に上がっているときは「あ、ここ反応よくないな」とか繊細なのにね。そこまで繊細だとパニックになりそうなものですが、微妙に軌道修正したり、手法を変えていったり、冷静なんです。それを全員が持っていないといけない意識があるので、そこはおもしろいですね。

ーー改めて源さんの脚本のおもしろさとは?

藤原:他者に有無を言わせないほど詳しいことを書くでしょう。「あなたたち、これ以上のこと学んだことありますか」と挑戦状を叩きつけられているような感じ。僕は、そこが役者としてスッキリしていて魅力的だなと思っています。これが源さん自身の人間性というか。これだけの堅苦しいものを書いたり、社会性のあるものを書いたとしても、実際あってみるとおもしろくて。お芝居も好きだし。馬鹿な話もするし。そんなところがすごく魅力に感じますね。

ーーありがとうございました。公演を楽しみにしています。

<製作発表会レポ>

ストーリー
時は江戸時代中期、舞台は歌舞伎の黄金期を迎えようとする芝居街・日本橋堺町。江戸三座と称される劇場や芝居茶屋がひしめくこの芸能の町に、一人の孤児が運命的に流れ着く。
中村座で唄方をつとめる男と、振り付けを教える女の夫婦に養子に貰われたこの孤児こそ、歌舞伎史上不世出の天才役者と呼ばれるようになる初代中村仲蔵(藤原竜也)である。養母の厳しい稽古で踊りの才能を開花させた仲蔵は、役者として舞台に立つ夢を膨らませるが、血筋がものをいう歌舞伎界の高い壁が立ちはだかる。しかし芝居に取り憑かれた若者は、無謀にも最下層の大部屋役者から成り上がる下剋上の道を選んだ。歌舞伎界の頂点を巡って裏切りや策謀が渦巻く舞台裏の抗争に巻き込まれつつも、ひたすら芸の道を疾走する仲蔵。しかし彼を待っていたのは苛烈な“楽屋なぶり”だった。

概要
舞台『中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~』
キャスト
藤原竜也
市原隼人
浅香航大
尾上紫
廣田高志
植本純米
古河耕史
深澤嵐
斉藤莉生
今井朋彦
池田成志
髙嶋政宏 ほか
スタッフ
脚本:源 孝志
演出:蓬莱竜太
主催・企画制作:ホリプロ
期間会場:
東京:2024年2月6日(火)~2月25日(日) 東京建物Brillia HALL
広島:2024年2月29日(木)~3月1日(金) 広島文化学園HBGホール
名古屋:2024年3月7日(木)~3月10日(日) 御園座
宮城:2024年3月15日(金)~17日(日) 東京エレクトロンホール宮城
福岡:2024年3月22日(金)~24日(日) キャナルシティ劇場
大阪:2024年3月27日(水)~3月31日(日) SkyシアターMBS

公式HP:https://horipro-stage.jp/stage/nakamuranakazo2024/

取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし
収録日:2023年11月8日

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