過去の銀河合体を物語るダストレーン “おとめ座”のレンズ状銀河「NGC 4753」

こちらは「おとめ座(乙女座)」の方向約6000万光年先のレンズ状銀河「NGC 4753」です。レンズ状銀河は渦巻銀河と楕円銀河の中間にあたる形態の銀河で、中央部分の膨らみや円盤構造はあるものの、渦巻銀河の特徴である渦巻腕(渦状腕)は持たないとされています。

【▲ ジェミニ南望遠鏡で撮影したレンズ状銀河「NGC 4753」(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA; Image processing: J. Miller (International Gemini Observatory/NSF’s NOIRLab), M. Rodriguez (International Gemini Observatory/NSF’s NOIRLab), M. Zamani (NSF’s NOIRLab))】

そんなレンズ状銀河のなかでも、NGC 4753は少し特異な姿をしています。淡い輝きに埋め込まれた暗褐色の網のような構造は、塵が豊富なダストレーンです。NGC 4753のダストレーンは明るい中心核を取り囲みつつ、複雑にねじれながら二手に分かれて広がっているように見えます。

今から30年ほど前の1992年、Tom Steiman-Cameronさんを筆頭とする研究チームは、NGC 4753のねじれたダストレーンは現在観測されている姿から約13億年前に矮小銀河と合体したことで形成されたとする研究成果を発表しました。米国科学財団(NSF)の国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)は、そのプロセスを以下のように解説しています。

かつてのNGC 4753は標準的なレンズ状銀河だったものの、ガスが豊富な矮小銀河と合体したことで爆発的な星形成活動が誘発されたこともあり、大量の塵が注入されました。塵は重力によって円盤状に広がり中心核を周回するようになりましたが、その公転軸の向きは歳差運動によって円を描くように変化します。歳差運動の速度は中心に近いほど速くて中心から離れるほど遅い、言い換えれば中心からの距離が異なる場所では塵の公転軸の向きが変化する速度も異なるために、現在観測されているようなねじれたダストレーンが形成されたのではないかというわけです。歳差運動はNGC 4753と矮小銀河が衝突した時の角度に起因するとみられています。

また、Steiman-Cameronさんたちの研究によれば、NGC 4753のダストレーンも真上から見た形は一般的な渦巻銀河とそう変わらないのではないかと考えられています。NGC 4573がたまたま真横を向けているおかげで私たちはダストレーンのねじれを見ることができていますが、真上からはねじれているようには見えないとすれば“実はねじれている”ダストレーンが他にもあるかもしれず、宇宙全体では珍しくない可能性があるようです。

【▲ 様々な角度から見たNGC 4753のモデル。銀河面に対する視線の角度は10度~90度(上段左~上段右→中段左~中段右→下段左~下段右の順、角度は10度刻み)。真横に近い角度から見ればダストレーンのねじれを観測できるが、真上に近い角度から見るとわからなくなっている。Steiman-Cameronら1992年の論文に掲載された図を再作成したもの(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/Steiman-Cameron et al./P. Marenfeld)】

冒頭の画像はチリのセロ・パチョンにあるジェミニ天文台の「ジェミニ南望遠鏡」を使って撮影されたもので、NOIRLabから2024年1月25日付で公開されました。現在インディアナ大学の上級研究員であるSteiman-Cameronさんは「この銀河をどう捉えるべきか長い間誰にもわかりませんでしたが、蓄積した物質が円盤状に広がるというアイディアからスタートし、三次元形状を分析したことで謎は解けました。30年後の今、ジェミニ南望遠鏡による高精細な画像を見ることができて信じられないほど興奮しています」とコメントを寄せています。

Source

  • NOIRLab \- Gemini South Captures Twisted Dusty Disk of NGC 4753, Showcasing the Aftermath of Past Merger

文/sorae編集部

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