岩礁がむき出しになった輪島市沿岸。変わり果てた港を見つめて漁協職員は言った。「何もできないけど前を向くしかない。また漁師とばか話できたらいいな」

海底が隆起し、座礁した漁船=1月25日、石川県輪島市門前町の鹿磯漁港

 ごつごつした海底があらわになった港に漁船が数隻、無残に打ち上げられていた。石川県輪島市の沿岸は広範囲で地盤が隆起。鹿磯漁港は海岸線が約50メートル先の防波堤付近まで後退し、岩礁がむき出しになっていた。

 船着き場は降りしきる雪も相まって、閑散としていた。人の声や波音は聞こえず、磯の香りもしない。

 船揚げ場から海底に降り、岸壁沿いを歩く。コンクリートの壁に海藻や貝類がこびりついていた。見上げると、本来の海面の高さを示す潮の跡が手の届かない高さにあった。

 漁港脇の県漁協門前支所に、静かな港を窓越しに見つめる職員がいた。「春の最盛期は県外から来るイカ釣り船であふれるんですよ」。約15年漁港を見守ってきたという山本繁さん(65)が写真を見せてくれた。

 専門家が次々と訪れ、地盤が約4メートル上がったと説明する。地盤を修復しないと船の出入りは難しい。「私たちは何もできないけど、前を向くしかないよ」と笑う。「また漁師とばか話できたらいいな」と話す姿は明るく、たくましかった。

 沿岸だからか、漁港周辺は天候がめまぐるしく変わる。話している間も時折晴れ間がのぞいた。窓から差し込む日差しに照らされた山本さんは、漁港修復に向けた一筋の光のように思えた。

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