『ブギウギ』姉や母のようにスズ子を支える麻里 市川実和子が投げかけてきた言葉の数々

NHK連続テレビ小説『ブギウギ』では、スズ子(趣里)がついに出産を果たした。初産だが、こういう時に頼れる母・ツヤ(水川あさみ)とは随分前に死別してしまっているスズ子を姉のように、時には母のように支えてくれているのが、羽鳥善一(草彅剛)の妻・麻里(市川実和子)ではないだろうか。

スズ子は、愛助(水上恒司)と親しくしていること、彼との結婚、そして出産と、人生の節目節目にあるいろいろなことを、きちんと羽鳥夫妻に報告をしてきた。常に音楽のことが頭にある善一は、スズ子が相談事を持ちかけるとすぐに「歌えるのか?」「踊れるのか?」と2人のこれからの仕事に支障がないかを気にしてしまうが、麻里はそんな時にストッパーとなりつつ、いつもスズ子がハッとするような一言を投げかけてくれた。

愛助がスズ子と正式に交際することに迷い、スズ子が彼からの返事を待っているだけなのが辛いことを打ち明けると、麻里は「恋は辛いものよ。自分と同じくらい大切なひとができるってことなんだもの」とアドバイス。さらに愛助との結婚の条件がスズ子の歌手引退だと知った時には、「どうしてスズ子さんだけが(大好きな歌か大好きな人かどちらかだけを選ぶという)残酷な選択を強いられなければならないの?」と、比較的冷静だったスズ子の代わりに腹立たしさを言葉にしてくれた。

スズ子が妊娠を報告した時には、「そんなにお腹も大きくないし、(ステージでのパフォーマンスも)できそうな気がするんだけどねえ」と楽天的なことを言う善一に、「あなたはもう黙ってて」と一喝。信頼できる病院として村西医院も紹介してくれた。ここの看護婦・東(友近)はスズ子の大ファンだったということもあるだろうが、上演を控えていた「ジャズカルメン」の稽古にも帯同してくれ、スズ子が無理をしないようしっかりと気を配ってくれた。スズ子が公演をこなしながら、元気な娘・愛子を産むことができたのは、東や麻里のサポートがあったからといえる。

もちろんスズ子も麻里のことは頼りにしている。出産間近の不安と入院中の愛助への心配で不安定になってしまったスズ子は思い立って善一の家を訪問。麻里は気丈に振る舞おうとするスズ子に「下手な嘘をつかないで」と優しく声をかけ、スズ子の話に耳を傾けてくれた。麻里にもこれからやってくる出産の瞬間や子育てについて不安になった時があるからこそ、スズ子の気持ちが分かるのだ。そして今は「俺はガキの世話か」なんて一丁前に生意気をいう羽鳥家の長男・カツオ(中谷悠希)が、下の子供たちが生まれる前は麻里の支えだったことを明かした。カツオに対して口では「腹立たしいのよ」なんて言っていた麻里だが、そういうところさえ、成長を感じて愛おしく思っていることが分かる。その温かさがスズ子にも伝わり、「ワテがオロオロしてたらこの子まで不安になってしまいますわな!」「やっぱり来てよかったですわ!」と本来の前向きさを取り戻していた。

スズ子は誰よりも家族を大切にしたいと考えていた。しかし、母、弟、そして愛助と家族との別れを経験している。だがそのかわりに、麻里のように親身になってスズ子を支えようとしてくれる人が周りにたくさんいるのだ。そんな人たちに手を引かれながら、スズ子の人生はまた次なるフェーズへと向かっている。私たちもこれからのスズ子に幸あれ、と祈りながら見守っていきたい。

(文=久保田ひかる)

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