『君が心をくれたから』物語に射し込んだほんのわずかな希望の光 雨が選んだ“幸せな後悔”

帰宅した雨(永野芽郁)は、家のなかで雪乃(余貴美子)が倒れているのを発見。入院することになった雪乃は、ようやくそこで自分ががんであり、余命幾許もないことを話すのだ。ショックを受ける雨を、雪乃は「ちゃんとこうして生きてるよ」と言って抱きしめ、その温もりを雨が実感する。この一連だけで、雨が次に失うことになる感覚が“触覚”であることが前もって示されたといってもいいだろう。2月5日に放送された『君が心をくれたから』(フジテレビ系)は第5話。すでに雨は“味覚”と“嗅覚”を失っている。

2週間後に触覚を失うことになる雨は、日下(斎藤工)の言葉に従って、この先自分が一人で生きていくことができなくなった時のために、司(白洲迅)に頼んで介助施設を紹介してもらうことに。そして雪乃に“五感を失う”ということを告白する。一方、雨に振られた太陽(山田裕貴)は、雨のことを吹っ切るためにかつて彼女に買った指輪を投げ捨てる。そんななか、雪乃に頼まれた太陽の元を訪れる司。本当は付き合っていないということ、雨が五感を失うことを司から聞かされ、手渡された『アラビアンナイト』の本のなかには、雨が高校を卒業する時に太陽に渡そうとしていた手紙が挟まっていた。

前回のエピソードでのハウステンボスの観覧車のシーンで、太陽が目を瞑ったまま黙って聞いていた、雨の考える“司の好きなところ”というていの“太陽の好きなところ”。それがようやく太陽に、自分のこととして届けられる。『アラビアンナイト』の一編である『アラジンと魔法のランプ』に登場する“指輪の精”のように、常に雨の味方でありたいと願っていた太陽。

この手紙を読むシーンをきっかけに、第1話の終盤からずっとこのドラマに流れ続けている不幸すぎる風向きのなかに、ほんのわずかだけでも希望の光が射し込んできたと感じずにはいられない。それはすなわち、雨と太陽の純然としたラブストーリーとしてこの物語を捉えた時に、二人が一緒にいられるという、ただそれだけの幸福な未来だ。

同時に今回のエピソードでは、もうひとつ物語の流れを変えるかもしれない一瞬が訪れる。それは終盤のバスのシーンで、追いかけてくる太陽を見ないようにしてバスを降りずにいる雨に千秋(松本若菜)がかける「本当にいいの?」の言葉。その瞬間に、向かいの席に座っていた日下の頭のなかに一瞬だけ蘇る過去の回想。“あの世”からの案内人として、常にミステリアスな出立ちで、ある種の異物のように物語のなかに佇む彼にも、“後悔”をするただの人間であった時代が確かに存在したということが、ここではっきりと示されたのである。

すでに雨のために何かできることはないかと苦しむ千秋も然り、今回雨に“幸せな後悔”を選択させる日下も然り、彼らのバックグラウンド、あるいはその経験が、もしかしたら雨と太陽の運命を変えてくれるのかもしれない。そんな淡い期待を抱いてしまう。もしそうはならず、このまま雨は五感を失い続ける道しか残っていないのであれば、きっと司と太陽のやり取りのなかであった、「太陽の作った花火を見たい」という雨の願い、それが雨の視覚に残る最後の景色になってしまうのだろう。そうなったとしても、その時に雨の隣に太陽がいれば充分なのかもしれない。

(文=久保田和馬)

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