佐々木朗希がMLBに挑戦するベストタイミングはいつ? 本人、千葉ロッテ、ファンの誰もが納得し、幸福になるためには――

全選手の“大トリ”で千葉ロッテマリーンズと契約を更改した佐々木朗希。記者会見では改めて将来的にメジャーリーグへ挑戦する意思を示し、球団側も容認する姿勢のようだ。ただし、その時期がいつになるかについては明言を避けている。

ロッテにとって理想的な筋書きは、佐々木が25歳になる26年オフ、つまり3年後にポスティングシステムを利用して移籍するというものだ。今オフ、オリックス・バファローズからロサンゼルス・ドジャースへ移籍した山本由伸は12年3億2500万ドルの高額契約を結び、5060万ドル=約75億円もの譲渡金(契約金額の20%)を古巣にもたらした。素材としては山本以上との評価を得ている佐々木が同じ方法で移籍すれば、ロッテにも巨額の移籍金が転がり込む。

けれども、24年もしくは25年のオフに移籍した場合、MLBの“25歳ルール”の対象となる。25歳未満またはプロ経験6年以下の海外選手の契約金は、総額475万ドル(約7億円)に制限されるというものだ。17年オフに北海道日本ハムファイターズからロサンゼルス・エンジェルスに移籍した大谷翔平も23歳だったため、契約金は231万5000ドル(約3億4000万円)、マイナー契約で年俸はメジャー最低保証の54万5000ドル(約8000万円)にとどまった。
ただしこの時期はポスティングシステムの移行期だったため、譲渡金はルール改定前の最高額である2000万ドルが支払われた。佐々木はそうした恩恵に与れず、ロッテが得られる金額は最大でも100万ドルに満たない。山本の50分の1以下とあっては、到底26年オフ以前にポスティングにかける意味はない。

佐々木にとっても、26年オフにアメリカへ行くほうが段違いの金額を手にできるのだから、条件面だけを考えればそのほうが得策だ。しかしながら、一日も早くメジャーで投げたいとの希望が強ければ話は別。大谷の場合がまさにそうであり、23歳で渡米した結果、6年後の29歳でFAとなった。

そして10年7億ドルの史上最高契約を結べたのは、年齢もその一因だった。仮に同じ成績を収めていたとしても、25歳でメジャー入りし31歳になっていたら、これだけ長期の契約になったかどうかわからない。佐々木についても同じことが言え、今の時点では損に思えても、長い目で見れば早めにメジャーへ行ったほうが得をする可能性もある。
昨年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)でアメリカとメジャーの雰囲気を体験したことにより、佐々木のメジャー志望が一層強まったことは十分想像がつく。とはいえ現時点では、山本と比べて投手としての完成度には差がありすぎる。山本は入団3年目から5年続けて規定投球回に達し、21年から3年連続MVP、チームもリーグ3連覇し22年は日本一になった。誰もが祝福できる形でメジャーへ旅立ったのだ。

対する佐々木は、マウンドに立ちさえすれば支配的なピッチングを見せるものの、22年に129.1回を投げたのが最多。昨年も左脇腹の肉離れなどで15試合に登板したのみだった。「恩返しもしないままアメリカに行くな」と言うのは暴論でも、大谷や山本のようにMVPに輝く活躍をして日本一、最低でもリーグ優勝に導いてくれるなら、25歳前に移籍したとしてもマリーンズ・ファンは納得できるはずだ。

そうした金銭的、感情的な側面を抜きにしても、佐々木にとって渡米する最適なタイミングは、やはりまだ先だと思われる。巷では「体が出来ていない今の状態でメジャーに行けば壊れる」との声をよく耳にするが、実際にはアメリカでは過保護と思えるくらい若い投手を大事に起用するので、その面では心配ないだろう。
しかし、メジャーでも結局最初の数年はフル稼働できないのであれば、日本にいるのと大して変わらず、早期に移籍するメリットはそれほどない。せいぜいアメリカでの生活に、早めに慣れることができるぐらいではないか。

それなら山本と同じように、ロッテで確固たる実績を残し、後顧の憂いを絶った上で、実力にふさわしい条件でメジャーへ行く。そのほうが誰にとっても幸福なのではないだろうか。早ければ今季終了後にも佐々木はポスティングを申し出るのでは、と囁かれている。それが本当にベストの選択なのか、よく考える必要があるだろう。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。

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