「ケチ上手とは、できるだけ無駄を省いてお金からも物からも自由になり、その代わりに心が豊かになるような工夫を重ねること」と話すのはエッセイストの小笠原洋子さん。ひとり暮らしの年金生活で、小笠原さんはそれを実践しています。毎日の暮らしぶりと取材当時の住まいの様子を教えていただきました。
前編はこちら。
お話を伺ったのは
エッセイスト 小笠原洋子さん
おがさわら・ようこ●1949年東京都生まれ。東洋大学卒業。京都の画廊勤務後、東京で美術館の学芸員や大学の非常勤講師を務める。退職後、フリー・キュレーター、美術エッセイストとして活動。著書に『フリードリヒへの旅』(角川学芸出版)、『おひとりさまのケチじょうず』『ケチじょうずは捨てじょうず』(ともにビジネス社)などがある。2月には新刊が発売予定。
ごみを出さない節約生活と健康でいることが仕事です
節約(ケチ)して環境に優しい(エコロジー)生活を、ケチカロジーと名づけた小笠原洋子さん。物を少なくし、すっきりしたいという住まいには食器棚も食事用のテーブルもない。
「食器はシンクの棚に入るだけに減らしました。朝食と昼食はキッチンからベランダに出るためのガラス戸の前に、キャスターつきワゴンの天板を広げてテーブル代わりにしています。ガラスの向こうの雑木林を借景にした食事は至福のときです。
夕食はリビングの窓辺で。籐椅子にお盆を置き、切り干し大根やひじき煮などの総菜を盛った豆皿を一品ずつキッチンから運んでゆっくりといただきます。
朝食と昼食は絶景レストラン、夕食は居酒屋さんのイメージです(笑)。自分の好きなように食事を演出できるのもまたひとり暮らしの醍醐味ですね」
食材は、大根もにんじんもりんごも柿も、皮までいただく。そこに滋養があると思うからだ。キャベツの芯も必ず食べる。魚もなるべく頭と骨まで食べるようにしている。
「お茶は、湯飲み茶わんに茶葉を入れ、お湯を注ぎます。急須を洗う手間も水道代も節約できるからですが、すすり茶といって、蓋つきの茶碗に茶葉とお湯を入れて、蓋をずらしていただく飲み方もありますから」
くだものや食品が入っていたプラスチック容器は、皿に残った総菜を保存するときの蓋にしたり、調理前に洗った野菜をちょっと入れておく容器として再利用している。ただし1回使ったら捨てるのが小笠原流。何度も使おうとすると物がどんどん増えていくから。
食品の袋などに貼られたスーパーのロゴ入りテープや小包に貼られたクラフトテープは、丁寧にはがしてとっておき、再利用したり生ごみの袋を留めるのに使っている。
そういうわけで、小笠原家の生ごみは2週間に一度、5リットルのごみ袋ひとつ分だけだという。
「家での昼食後、お財布とお茶や水を入れた水筒などを持って買い物を兼ねた散歩へ出ます。病気になると医療費がかかるので、病気予防を自分の一番の仕事として、よく歩くように心がけています」
毎日2時間以上歩く。雑木林の中のベンチで休みながらマイペースで散策。丘を越え、往復1時間かけて駅前まで歩くこともある。春夏秋冬、表情を変える自然を愛でながらの散歩が楽しいと笑う。
近くのコミュニケーション施設で持参したお茶を飲んだり本を読んだりするのも楽しみのひとつ。散歩の帰りはスーパーなどで日用品の買い物。途中でお気に入りのベーカリーに立ち寄り、焼きたてパンを購入してベンチで食べることや、居心地のよい蕎麦屋で外食することもある。
お金に余裕ができたときは新しい経験を楽しむ
小笠原さんは50代から60代にかけ9回、ドイツへひとり旅をした。
「ドイツ人画家のカスパー・ダーフィット・フリードリヒが描いた1枚の風景画を見たとき、全身全霊に衝撃を覚えました。その絵に惹かれ、どうしても描かれた場所へ行ってみたくなったんです」
その経験は『フリードリヒへの旅』として1冊の本にまとめられた。
お金に余裕ができたときは、ちょっと贅沢なホテルに泊まったりすることも。最高級ホテルってどんな感じだろう、高級レストランの味は?と興味が湧き、体験がしたいから。
「日常と非日常のメリハリですね。いくつになっても初めての体験はワクワクします」
そんな小笠原さんの目標はフリードリヒの研究を深めることだという。
「74歳になった今もフリードリヒのことを考えると血が沸き立ちます(笑)。彼の美術論をライフワークにしていきたいです」
ケチ生活を実現するために工夫を凝らし、お金に余裕が出たら新しい体験に挑戦。自由な人生のためにケチ道を楽しんでいる人がここにいる。
※この記事は「ゆうゆう」2022年1月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。
撮影/橋本 哲