【福島県】全村避難の逆境を乗り越えた「いいたてホーム」。その前向きな精神を受け継ぎたい

  • いいたてホームで働きたいと思ったきっかけ
    逆境にも前向きに立ち向かう姿を見て「こういう職場で働きたい」と感じた
  • いいたてホームの魅力
    覚悟とプライドをもって仕事を続けてきた先輩がいて成長できること
  • これからの目標
    いいたてホームが守ってきたものを受け継ぐことと、若いスタッフの育成

飯舘村唯一の特別養護老人ホーム「いいたてホーム」で2014年から介護職員として働く井上 祥行(よしゆき)さんは、福岡県福岡市城南区の出身です。当時の飯舘村は原発事故の影響で全村避難となっていましたが、いいたてホームでは利用者の負担を避けるため、避難することなく全員がホームに残り続けました。そうした状況にもかかわらず、村外から通うスタッフが明るく楽しそうに働く姿に惹かれ、就職を決めたといいます。移住当時の思いや、移住から9年が経った現在の思いについて伺いました。

「行くなら今しかない」その思いが原動力に

――福島県と関わりを持ったきっかけを教えてください。

高校卒業後から福岡市で訪問介護のヘルパーとして働いており、東日本大震災の時は地元の知的障がい者の福祉施設に勤務していました。東日本大震災から1年が経った頃、職場の有志で南相馬市にボランティアに行くことになり、その時に初めて福島県に足を運びました。

その時1週間ほどの滞在期間中に浪江町などを巡り、震災から1年以上が経っても復興が進んでいない現状を目の当たりにしてショックを受けたのです。とにかくまちに人がいない。特に子どもや若者が見当たらない。メディアを通してしか知らなかった福島の厳しい状況をリアルに感じ、自分にできることはないかと本気で考え、「行くなら独身で身軽な今しかない」といった思いが沸き上がったんです。

――働く場所はどのように探しましたか?

ボランティアから戻った後、1年間ほどは自分なりに移住のことを考える期間に充てました。介護福祉士の資格を活かせる職場をインターネットで調べたり、ボランティアで福島に足を運んでいた当時の上司から福島の状況を教えてもらったりもしました。いいたてホームを初めて知ったのもインターネットを通じてでした。当時は原発事故の影響で全村避難を強いられていながらも、利用者さんの負担を避けるために国の許可を得て避難せず、職員が避難先の村外から通って介護を続ける施設として紹介されていて、どんな施設なのか興味が湧いたのを覚えています。そのほかの就職先の候補地もいくつかピックアップした後、実際に職場見学をさせてもらうために福島へ向かいました。

尊敬できる先輩達が自分を成長させてくれた

――職場見学ではどんなことを感じましたか?

見学して回った施設の方からは「今すぐにでも来てほしい」と切望されることもあり、介護現場の働き手不足が深刻であることを肌で感じました。

いいたてホームで印象的だったのは、当時もスタッフは村外から通っていて大変な状況であるはずなのに、明るく楽しそうに介護をしている光景です。案内してくださった当時の事務長(現施設長)に「人手不足や復興の課題がまだ解消されていない状況下で大変じゃないですか?」と聞いてみると、「何とかなるさ」とカラッと答えてくださいました。こちらが想像できないぐらいの苦境の中でもそんな前向きなことをパッと言えてしまうことに衝撃を受け、「こういう職場で仕事をしたい」と強く心を惹かれました。

――移住に迷いはなかったですか?

いいたてホームを訪れて受けた衝撃は福岡に戻った後もずっと頭に残り続け、すっかり忘れられなくなっていました。意を決して面接を申し込んだ時に「人は足りていないけれど、誰でもいいというわけではない。福岡から来てくれたとしても、条件が合わなければ採用しないかもしれない」と覚悟を問われました。私自身も、すぐ地元に戻ってしまうような生半可な気持ちではない、むしろそのように厳しい目で判断してほしいと思いの丈をぶつけました。そして無事に採用が決まり、2014年4月からいいたてホームの職員として働き始めました。

――実際にいいたてホームで働いてみていかがですか?

利用者さんもスタッフもパワフルな方が多いことに魅力を感じています。
現在入所されているのは48人。その多くは飯舘村出身で、生まれ育った土地で過ごしたいと願う、故郷への愛着が強い方々です。また、職員30人のうち半分近くは震災前から勤めています。全村避難により働き手が少なくなっても「利用者さんがいる限り介護の質を落とさずにやっていこう」と、避難先から通いながら覚悟とプライドをもって仕事を続けてきた方々です。そうした尊敬できる先輩方に囲まれて介護に取り組んできたことが、自分自身を成長させてくれたと思っています。

――井上さんが働き始めた頃から、職場に変化はありますか?

入職当時と比べて、職員の高齢化が顕著になっています。職員の3分の1ほどは60歳になってからも再雇用制度を利用し、施設の運営を支えています。しかし、高齢者施設として持続的に運営を続けていくためには次の担い手を集め、育てていかなければなりません。最近は飯舘村やいいたてホームの魅力を一人でも多くの方に届け、新しい職員の採用につなげたいという思いから、若手職員の主導でInstagramを通じた情報発信も始めました。

私のほかにも、いいたてホームには兵庫県など県外出身の職員が在籍しています。これから移住し仲間になってくれるスタッフには、移住者の私たちがそれぞれの経験をもとに働き方や暮らし方のアドバイスをしていきたいです。そうした積み重ねが、移住者や若者が働きやすい職場づくりの一助になればと思います。そして、苦境を乗り越えたいいたてホームならではの前向きな精神を受け継ぎつつ、若い人たちがいきいきと働ける、活気のある職場にしていくことが私の理想です。

最近では仕事以外にも、若手の職員同士でたすきをつなぐ「いいたてナイター駅伝」への参加も始めました。人同士がつながることで、仕事が楽しくて居心地の良い地域づくりに貢献できればと思っています。

職員8人で完走したいいたてナイター駅伝の様子

人がつながり、絆が深まる介護職の魅力は全国どこにいても同じ

――飯舘村の暮らしはいかがですか?

入職当時、飯舘村は原発事故の影響で全域が計画的避難区域に指定されていたため村内には居住できず、隣町の川俣町のアパートで生活をスタートさせました。その後、飯舘村出身の女性と出会って結婚。村では2017年に長泥地区を除き避難指示が解除されたものの、なかなか住まいが見つかりませんでしたが、2人目の子どもが生まれるタイミングで飯舘村の住宅に空きが出て、2020年3月から村で暮らせるようになりました。

子どもたちは村立までいの里のこども園に預けていますが、保育料も給食代もかからないし、制服も無償です。子どもたちと一緒に歩いていると職場関係の人や知り合いが気さくに声をかけてくれて、子どもの面倒を喜んでみてくれる、子育てにやさしい環境が魅力です。いいたてクリニックという病院もあるし、コンビニも最近できて、近いうちにドラッグストアもできると聞いているので、利便性も良くなるでしょう。少しずつですが帰ってくる人も増え、若い人も多くなってきているようです。自然がいっぱいできれいな風景が広がる風土も気に入っています。

――移住後に支えとなったのはどんなことですか。

働き始めた頃は「自分はよそ者」という意識がありました。いいたてホームの介護を習得するために毎日必死だった記憶があります。方言にも慣れず、見知らぬ土地で誰を頼っていいかも分からず、福岡に帰りたいと思ったこともありました。

そんな時に心を支えてくれたのは、スタッフや利用者さん、利用者さんのご家族との関わりです。利用者さんは一緒の時間を重ねるほど心の壁が低くなり、飛び越えることで信頼関係が生まれる。人への思いが強くなるほど、「介護をやってきてよかった」と思える場面に数多く出会えます。つらい時も、利用者さんが待っていてくれることがモチベーションにつながりました。生まれや生活文化が違っても、人同士がつながり絆が深まっていく介護職の魅力は、日本全国どこにいても同じだということを教えてもらいました。

――移住を考える方にどんなことを伝えたいですか?

移住を迷っているのなら、どんな形でもいいので一度足を運んで土地の中身を見てもらうのが一番だと思います。移住者や、村で働く人が増えて人同士のつながりが生まれることを、飯舘村は歓迎してくれますよ。

社会福祉法人いいたて福祉会の求人はこちらをご覧ください。
https://iitate-home.jbplt.jp/


■社会福祉法人いいたて福祉会 特別養護老人ホームいいたてホーム
住所:〒960-1803 飯舘村伊丹沢字伊丹沢571
TEL:0244-42-1700
FAX:0244-42-1710
URL:http://iitate-home.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/iitate_home/

井上 祥行(いのうえ よしゆき) さん

1985年生まれ。福岡県福岡市城南区出身。東日本大震災の時に勤めていた障がい者支援施設を通じて参加したボランティア支援を機に福島県へ移住。介護福祉士の資格を活かし、2014年4月より特別養護老人ホーム「いいたてホーム」に介護職員として勤務。現在は飯舘村で子育てをしながら、地域の若者や移住者とのつながりづくりにも挑戦中。

※所属や内容は取材当時のものです。最新の求人情報は公式ホームページの採用情報をご確認いただくか、いいたて福祉会に直接お問合せ下さい。
取材・写真:片倉菜々 文:橋本華加

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