『ARGYLLE/アーガイル』北米No.1も大苦戦 Appleの映画への投資はいつまで続く?

無風の1月が終わり、2月2日~2月4日の北米映画興行には久々の話題作が登場した。『キングスマン』シリーズのマシュー・ヴォーン監督による新作スパイアクション映画『ARGYLLE/アーガイル』だ。3日間で1800万ドルを記録し、週末ランキングの第1位を射止めた。

人気スパイ小説シリーズ『アーガイル』の著者であるエリー・コンウェイ(ブライス・ダラス・ハワード)は、ある日突然謎の男たちに襲撃される。自分の書いた小説が、現実のスパイ組織と偶然にも一致してしまったために命を狙われたのだ。小説と現実の境目が曖昧になる中、彼女を助けにやってきた自称スパイのエイダン(サム・ロックウェル)とともに、彼女は追手をかいくぐりながら世界を駆け巡る。

出演者にはブライス・ダラス・ハワード、サム・ロックウェルをはじめ、『アーガイル』の主人公であるスパイのアーガイル役でヘンリー・カヴィル、ジョン・シナ、サミュエル・L・ジャクソン、ブライアン・クランストン、デュア・リパら豪華キャストが集結した。ストライキの影響もあり、話題作不足の感が否めなかったハリウッドにおいてはやや久しぶりのイベントムービーだ。

もっとも、オープニング興行収入としてはいささか厳しい滑り出しであることは否定できない。製作費2億ドルを投じたスター俳優のアンサンブルムービー、3605館での拡大公開という側面を踏まえれば、1800万ドルの初動成績は大苦戦というほかない。競合不在のために首位こそつかんだものの、Rotten Tomatoesの批評家スコア35%、出口調査に基づくCinemaScoreで「C+」という評価を踏まえれば今後の動きも楽観はできない状況だ。海外78市場では1730万ドル、現時点での世界累計興収は3530万ドルである。

一方で忘れてはならないのは、本作がApple製作のオリジナル映画であり、ユニバーサル・ピクチャーズは劇場配給を担当しているのみだということ。Appleは『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(2023年)と『ナポレオン』(2023年)を手がけ、同じく大規模な劇場公開に踏み切ったが、いずれも劇場興行での黒字化には至っていない。どちらも製作費2億ドル級とあって、従来の映画ビジネスであれば大惨事だが、そもそも映画会社でないAppleのビジネスを同じ枠組みで理解すべきではないのだ。

現在、Appleはオリジナル映画の劇場公開を、自社のストリーミングサービス「Apple TV+」の宣伝費として見ているという。劇場興行で黒字が出なくとも、結果的に自社商品やサービスの利用者が増えればよいという考え方だ。現に『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』はアカデミー賞で10部門にノミネートされており、これは絶対に代えの利かないプロモーションだとも言える。

すなわち、Appleは『ARGYLLE/アーガイル』の初動成績には一喜一憂していないと思われるが、問題はこの宣伝戦略=オリジナル映画の大規模公開がいつまで続くかということだ。同じ戦略のAmazonと同じく、現時点では投資を続けている状態だが、これが本当に宣伝戦略にすぎないのであれば、いずれ成果の検証が行われることになる。

第2位に初登場したのは、聖書をドラマ化した『The Chosen(原題)』シーズン4の第1話~第3話の先行上映だ。2263館で公開され、週末3日間で603万ドルを記録。第4話~第6話も2月中に上映が実施され、劇場公開後に配信リリースとなる予定だ。

第3位はジェイソン・ステイサム主演『The Beekeeper(原題)』で、北米興収はまもなく5000万ドルを突破する。第4位の『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は公開8週目も変わらぬ人気を誇り、北米興収2億ドル、世界興収5.7億ドルを突破した。前週の第1位だった『Mean Girls(原題)』は公開4週目で第6位まで急落したが、製作費を鑑みれば上々の成績だ。

『The Beekeeper』と『Mean Girls』が興行を引っ張った1月は、月間興収が前年比-15%という数字に終わった。ホリデーシーズン後の無風とストライキ後の話題作不足が重なった結果だが、これを健闘と見るか、あるいは敗北と見るかは意見が分かれるだろう。残酷な現実として、興行成績はコロナ禍以前の約半分にとどまったままなのだ。

2月1週目の累計興収は6340万ドルで、前年比-22%。『ARGYLLE/アーガイル』の思わぬ不発にはじまり、引き続き話題作が少なめの今月も映画興行は苦戦を強いられることになりそうだ。

■北米映画興行ランキング(2月2日~2月4日)

1.『ARGYLLE/アーガイル』(初登場)
1800万ドル/3605館/累計1800万ドル/1週/ユニバーサル

2.『The Chosen: S4 Episodes 1-3』(初登場)
603万ドル/2263館/累計746万ドル/1週/Fathom Events

3.『The Beekeeper(原題)』(↓前週2位)
528万ドル(-20.9%)/3277館(-60館)/累計4942万ドル/4週/Amazon・MGM

4.『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(↓前週3位)
476万ドル(-15.8%)/2901館(-113館)/累計2億112万ドル/8週/ワーナー

5.『FLY!/フライ!』(↓前週4位)
411万ドル(-16.1%)/2830館(-132館)/累計1億617万ドル/6週/ユニバーサル

6.『Mean Girls(原題)』(↓前週1位)
400万ドル(-42%)/3107館(-437館)/累計6639万ドル/4週/パラマウント

7.『Anyone But You(原題)』(↓前週5位)
350万ドル(-24.3%)/2619館(-266館)/累計7628万ドル/7週/ソニー

8.『American Fiction(原題)』(↑前週9位)
230万ドル(-11.4%)/1902館(+200館)/累計1501万ドル/8週/Amazon・MGM

9.『哀れなるものたち』(↓前週6位)
212万ドル(-26.9%)/1950館(-350館)/累計2818万ドル/9週/サーチライト・ピクチャーズ

10.『アクアマン/失われた王国』(↓前週7位)
201万ドル(-26%)/1742館(-376館)/累計1億2078万ドル/7週/ワーナー

(※Box Office Mojo、Deadline調べ。データは2024年2月5日未明時点の速報値であり、最終確定値とは誤差が生じることがあります)

参照

https://www.boxofficemojo.com/weekend/2024W05/
https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/argylle-bombs-box-office-1235814232/
https://deadline.com/2024/02/box-office-argylle-1235812281/
https://variety.com/2024/film/news/box-office-argylle-bombs-18-million-debut-1235896784/

(文=稲垣貴俊)

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