光源氏が恋した無邪気な女性「夕顔」が光源氏に詠んだ歌とは?【図解 源氏物語】

無邪気なかわいさの虜に

源氏は六条(ろくじょう)のあたりに住む高貴な女性のところにお忍びで通っており、途中、五条(ごじょう)に住む乳母の見舞いに寄りました。この乳母は、源氏の腹心の従者である惟光(これみつ)の母です。ふと隣家を見ると、粗末な板塀に蔓(つる)が這い、白い花が笑うように咲いています。源氏が興味を抱くと、随身(ずいじん おつきの警護人)が、その花は、「夕顔」だと教えてくれます。一輪手折らせると、その家の使用人の童女が現れ、「これに載せて差し上げてください」と扇を差し出します。その家に住む女性(夕顔)が歌をしたためた扇でした。

源氏は、惟光にその女性のことを探らせました。なかなか素性がわかりませんでしたが、チラリと見えた顔がとてもかわいかったこと、ひどく人目を気にして暮らしていること、付近で頭中将の牛車(ぎっしゃ)が目撃されていることなどを報告します。源氏は、「天世の品定め」で頭中将が話していた失踪した女ではないかと疑います。

互いに素性を明かさず逢瀬を重ね、源氏は夕顔の無邪気さに夢中になります。その住居が騒がしいので、静かな所で会いたいと、ある日、近くの廃院(なにがしの院)に夕顔を誘いました。すると、夕闇の中、美しい女の物の怪(もののけ)が現れ、あろうことか夕顔は事切れてしまいます。激しく消沈する源氏は、やはり夕顔が頭中将の元恋人で、二人の間には女の子がいると伝え聞きます。折しも秋。軒端荻は蔵人(くろうど)の少将(しょうしょう)と結婚し、空蝉は夫ともに伊予国(現・愛媛県)に下ったと知り、源氏は女性たちとの別れを惜しむのでした。

なにがしの院・・・「何とかいう院」の意味。近くの河原院(かわらのいん)がモデルとされる。河原院は源融(みなもとのとおる)の別院で、死後、その亡霊が現れたとされる。『源氏物語』が書かれたころには荒廃していた。

夕顔が源氏に詠んだ歌

心あてに それかとぞ見る 白露の 光そへたる 夕顔の花

訳:当て推量であの方かしらと思っております。白露のような輝きが加わった夕顔の花ですよ(「白露の光」が光源氏、「夕顔の花」が夕顔を指すとも解釈できるが、あくまで「露」と「夕顔」を詠んだとする説も有力)。

ポイント:当時、歌は男性から女性に詠みかけるのが通例であった。夕顔が自ら詠んだのは、「愛人である頭中将と間違えた」「花を所望する高貴な人への挨拶の意味」「女房達の合作だった」など、諸説ある。

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 源氏物語』高木 和子 監

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 源氏物語』
高木 和子 監修

平安時代に紫式部によって著された長編小説、日本古典文学の最高傑作といわれる『源氏物語』は、千年の時を超え、今でも読み継がれる大ベストセラー。光源氏、紫の上、桐壺、末摘花、薫の君、匂宮————古文の授業で興味を持った人も、慣れない古文と全54巻という大長編に途中挫折した人も多いはず。本書は、登場人物、巻ごとのあらすじ、ストーリーと名場面を中心に解説。平安時代当時の風俗や暮らし、衣装やアイテム、ものの考え方も紹介。また、理解を助けるための名シーンの原文と現代語訳も解説。『源氏物語』の魅力をまるごと図解した、初心者でもその内容と全体がすっきり楽しくわかる便利でお得な一冊!2024年NHK大河ドラマも作者・紫式部を描くことに決まり、話題、人気必至の名作を先取りして楽しめる。

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