写真家ナン・ゴールディンの戦いの一端が 『美と殺戮のすべて』予告編公開

3月29日より新宿ピカデリーほかにて全国公開される『美と殺戮のすべて』の日本版予告編が公開された。

1970年代から80年代のドラッグカルチャー、ゲイサブカルチャー、ポストパンク、ニューウェーブシーンなど当時過激とも言われた題材を撮影した経験を持ち、2023年にはイギリスの現代美術雑誌ArtReviewが発表するアート界で最も影響力のある人物の1位にも選出された写真家ナン・ゴールディン。本作は、ゴールディンとオピオイドの普及のきっかけをつくった製薬会社を営む大富豪サックラー家との闘いを描いたドキュメンタリー。『シチズンフォー スノーデンの暴露』で第87回アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞したローラ・ポイトラスが監督を務めた。

オピオイドとは、ケシから抽出した成分やその化合物から生成された医療用鎮痛剤(医療用麻薬)で、優れた鎮痛効果のほか多幸感や抗不安作用をもたらす。1995年、米国では製薬会社パーデュー・ファーマがオピオイド系処方鎮痛剤「オキシコンチン」の承認を受け、常習性が低く安全と謳って積極的に販売。主に疼痛治療に大量に処方されるようになり、2000年頃から依存症や過剰摂取による中毒死が急増。全米で過去20年間に50万人以上が死亡し、大きな社会問題となっている。

2018年3月10日のその日、ゴールディンは多くの仲間たちと共にニューヨークのメトロポリタン美術館を訪れていた。自身の作品の展示が行われるからでも、同館の展示作品を鑑賞しにやってきたわけでもない。目的の場所は「サックラー・ウィング」。製薬会社を営む大富豪が多額の寄付をしたことでその名を冠された展示スペースだ。到着した彼女たちは、ほどなくして「オキシコンチン」という鎮痛剤のラベルが貼られた薬品の容器を一斉に放り始めた。「サックラー家は人殺しの一族だ!」と口々に声を上げながら。彼女はなぜ、巨大な資本を相手に声を上げ戦うことを決意したのか。大切な人たちとの出会いと別れ、アーティストである前に一人の人間としてゴールディンが歩んできた道のりが今明かされる。

公開された日本版予告編では、ゴールディンの途方もない戦いの道のりの一端が収められている。映像は、ノーウェイブバンド「Bush Tetras」の“You Can’ be Funky”をバックに、ゴールディンが、斬新で生々しい題材を被写体にして時代の寵児となり、今や「どこの美術館も彼女の作品を欲しがる」という、輝かしい経歴から始まる。場面が変わり、ゴールディンが多くの仲間とともにメトロポリタン美術館で「サックラー家はウソつき! 人殺し!」と叫んでいる様子も映し出されている。

また、上映劇場ではゴールディンが撮影した写真のポストカード3枚がついたムビチケカードが販売されている。

(文=リアルサウンド編集部)

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