NTTデータグループ(旧:NTTデータ)の業績が拡大しています。親会社から引き継いだ海外事業の連結で売上高は3兆円を大きく上回りました。翌期も増収を見込んでおり、売上高は4兆円を上回る計画です。しかし利益は伸び悩む予想で、株価も停滞が見られます。
【NTTデータグループの業績】
※2024年3月期(予想)は同第2四半期時点における同社の予想
出所:NTTデータグループ 決算短信
【NTTデータグループの株価(月足、2018年12月~2023年12月)】
出所:Investing.comより著者作成
NTTデータグループは大企業ながら高い成長力を持つ企業です。投資家の評価も高く、市場評価性(PBR基準)から「JPXプライム150指数」のメンバーにも選ばれました。
NTTデータグループは順調に成長してきた企業です。現在は「第4の創業期」と位置付けた変革期にあります。NTTデータグループはどのような企業なのか、概要と足元で進む変革を紹介します。
官民の全方位に強いシステム大手 国内では首位目前
NTTデータグループは日本電信電話(以下NTT)の子会社です。1988年にNTTから分離し誕生しました。NTTはNTTデータグループ株式の57.7%を保有しています(2023年9月)。
NTTデータグループの主な事業はシステムインテグレーション(SI)です。システムインテグレーションとは顧客からシステムの開発を請け負い、その後の運用・保守まで手掛けるビジネスを指します。
主要顧客は公官庁や金融機関です。また2000年以降は顧客企業のシステム子会社を買収する戦略を採ったことから、製造業や流通業といった法人向けでも大きな顧客基盤を持ちます。
さらに顧客のグローバル化を支援する形で海外事業も強化してきました。2008年には独BMWの情報システム子会社を買収し、2016年には米デルからシステム子会社とITサービス事業を取得しています。
拡大を進めてきたNTTデータグループは売上高が大きく増加しています。設立以来の連続増収記録は2022年度で34に到達しました。
2023年度も増収を見込んでおり、売上高は4兆円に達する見込みです。ライバルの富士通の予想売上高が3兆8100億円であり、NTTデータグループは国内最大のシステム会社になるとみられています(出所:NTTデータグループ 決算短信、富士通 決算短信)。
【NTTデータグループの売上高(1988年度~2023年度)】
出所:月刊ビジネスコミュニケーション 第三の創業期を目指して、NTTデータグループ 決算説明会資料および有価証券報告書より著者作成
NTTから海外事業を承継 集約で成長目指す
NTTデータグループは変革の時期を迎えています。2022年10月にNTTの完全子会社であるNTT リミテッド(NTT Ltd)を取得したのです。NTTグループ全体から見ると、孫会社だったNTTデータグループを子会社に引き上げ、その下にNTTリミテッドをぶら下げた格好です。
NTTリミテッドはNTTの海外事業を集約させ2019年に設立された企業です。データセンターやクラウドサービスといったITサービスを世界190ヵ国で展開しています。事業規模は大きく、売上高は2020年度で1兆0590億円に上ります(出所:NTTデータグループ NTT Ltd.事業統合のリリース(2022年5月))。
NTTリミテッドをNTTデータグループへ移管した背景には競争環境の変化があります。ITに対するニーズは高度化し、より多様なサービスが求められるようになりました。競合もサービスラインを拡大しています。
これに対応するためNTTデータグループとNTTリミテッドは統合されました。双方に分かれていたビジネス向けグローバル事業を集約し、シナジー効果で競争力を高める狙いがあります。
統合を受けNTTデータグループは海外売上高が日本を超えました。海外は費用が先行することから、当面の利益は国内がけん引しそうです。
【セグメント業績(2024年3月期第2四半期)】
※海外の補足:EBITAは海外で579億円、うち北米178億円、うちEMEA・中南米151億円、うちNTT Ltd.256億円(EBITA=営業利益+買収に伴うPPA無形固定資産の償却費等)
出所:NTTデータグループ 決算説明会資料
揺らぐ株価 評価に悩む投資家たち
NTTリミテッドの承継でNTTデータグループはさらなる成長が期待されます。
しかし投資家の評価は複雑です。それまで順調に値上がりしていたNTTデータグループ株式は、統合の発表後は調整が続いています。
【NTTデータグループの株価(月足終値、2018年12月~2023年12月)】
出所:Investing.comより著者作成
なぜNTTデータグループ株式は停滞しているのでしょうか。
理由の一つと考えられるのが財務の悪化です。NTTデータグループはNTTリミテッド連結に伴い負債が大きく増加しています。
NTTリミテッドが手掛けるデータセンター事業は構造的に大規模な先行投資が必要となる業態です。投資資金を工面するため有利子負債が増えやすい特性があります。
NTTリミテッド連結でNTTデータグループの負債は大きく増加しました。株主資本比率は前期比で17%ポイント以上悪化しています。
【負債と株主資本比率の推移(2019年3月期~2023年3月期)】
出所:NTTデータグループ 決算短信より著者作成
負債の増加は損益にも影響しています。支払利息の増加から金融費用が増加し、純利益を圧迫しています。
【金融収支の推移(2019年3月期~2024年3月期第2四半期)】
出所:NTTデータグループ 決算短信より著者作成
NTTデータグループはデータセンター事業の拡大を予想しており、今後も積極的な投資を計画しています。2027年度までの投資額は1.5兆円を見込んでいます。投資が続くことから財務の劇的な改善は見込みづらい状況です。
当面は固定金利の借り換えや円活用の借り換えを用い、支払利息の抑制を目指すとしています。また中長期的には利益創出力の向上と回収機関の短縮を目指し、財務の健全性を保つ計画です。成果が見えれば株価は上向くかもしれません。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。