広島県「人口流出」3年連続で転出1位 進学・就職で若者が...魅力アップ策を町おこし専門家がアドバイス

広島県民には、ショックな記録が生まれてしまった。2024年1月30日、総務省が発表した「住民基本台帳人口移動報告 2023年(令和5年)結果」で、1万1409人が転出した同県が都道府県別で最多であることが分かった。しかも転出数1位は3年連続だ。

広島に、何が起きているのだろうか。町おこしの専門家に話を聞いた。

就職時に「帰ろう」となりにくい

広島県の転出数が1万人を超えたのは、今回が初めてだ。「人口移動報告」の2022年の結果を見ると、転出数は9207人、また、21年では7159人となっている。

広島県の広報に取材した。「転出超過の大部分は若者世代が占めており、卒業時に進学や就職で県外に出てしまうのが一番大きな原因と考えています」と話す。県内にとどまらないのは「首都圏など、より高いレベル(の進学や就職)を求めてかと思われます」との回答だった。

今度は広島県出身者や在住経験のある人に聞いてみた。高校まで広島県で暮らし、関西地方の大学に進学、就職先は東京という30代男性Aさん。広島県の広報担当者同様、「自分自身の経験から言うと、進学と就職の問題が大きいと思います」と指摘する。

「もちろん県内にも優秀な大学が色々ありますが、どうしても首都圏や関西の大学のほうが選ばれがちです。一度地元を出てしまうと、『就職時に広島に帰ろう』とはなりにくい。周囲で広島に戻って就職した人は、実家が会社を経営しているとか、何かしら強い動機がある印象です。僕自身は関西の大学に進学後、広島での就職も考えました。でも、当時志望していた業界は県内に有力な企業が少なく、結局縁がないままに終わりました」

福岡と大阪に挟まれて

広島県の大学を卒業した30代男性Bさんの口からも、やはり、就職関連の話が飛び出した。

「広島県で就職しなかった(東京で就職した)理由は、広告代理店や出版社など、希望していた業界の会社の所在地が東京であることがほとんどだったからです。個人的に広島県からの転出が多いと感じたことはありませんが、一番は広島県よりも都会な大阪と福岡に挟まれていて、そちらに流れていくことでしょうか」

このほか、Bさんはこんな問題点を挙げる。

「空港と広島駅(市街地)の移動に約1時間かかること。東京からだと新幹線は約4時間。飛行機だと1.5時間ですが、市街地までの移動に時間がとられます。アクセスが微妙な気がします」

結婚を機に県内に移住した40代女性Cさんは、「出産のしづらさ」を挙げる。

「各市町村において『産婦人科に入院しづらい』という話を聞きます。昨年3月、東広島市に『40年ぶり』に産婦人科が新規開業し、ニュースになったほどです」
「呉市の公式サイトを見ると、『出産が出来る市内の病院』が1つしか紹介されていません。事実、そこでしか産めません。『出産しづらい』のが、若い夫婦層に敬遠されているのかもしれません」

製造業とサービス業の強化は不可欠、「教育移住」も狙い目

街作りの専門家であり、内閣府の「地域活性化伝道師」も務める木下斉氏に広島県の人口流出について聞いた。

そもそも広島県は人口が多く、それゆえ大量に流出している面は否定できないとしつつも、「広島は広域都市圏の競争で負けています」と指摘する。広島県の西には福岡県福岡市と北九州市、東には岡山県岡山市と倉敷市がある。県民がこれらの都市圏に流出していると説明する。

「福岡市は大学数も多く、北九州市は製造業が盛ん。また、北九州空港は24時間稼働する空港です。岡山市は文教都市である一方、倉敷市は工業都市、観光都市として機能し、都市圏のバランスが良いのです」

では、広島県が転出1位から抜け出す名案はあるのか。木下氏は、製造業とサービス業のどちらも強化すべきと訴える。

「マツダを中心とした自動車産業や、ゴム・樹脂製品メーカーのモルテンなどで製造分野は頑張りながら、観光分野は修学旅行よりも、外国人のように観光地での出費額が多い『高付加価値な観光客』にかじを切るべきです。原爆ドームや宮島は元より、他にも存在する瀬戸内海の多数の島々を活用した観光産業振興が大切なのであり、もっと県としても力を入れるべきでしょう」

近年、長野県の佐久市や軽井沢町が盛んに受け入れている「教育移住」も狙い目だと明かす。「選ばれる学校によって移住者が殺到している」というのだ。

「他とは異なる先駆的な教育機関を、もっと設置していく必要があるでしょう。叡啓大学のように、広島県も新たな教育機関をつくってきていますが、幼稚園から中学校が狙い目です」

こうした策を広島県が実行するために、木下氏は、「従来からやっているような地元の人たちで固めるような会議をやめて、外の力をもっと使うこと」を提唱した。

「富山県庁は成長戦略会議を大幅刷新し、県内出身者かつ国内外で活躍するメンバーの会議に変革しました。そこからの提案で、県政を変更しようとしているのが注目されています」

(J-CASTニュースBiz編集部 坂下朋永)

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