【連載】箱根事後特集『萌芽(ほうが)』 第2回 2区 山口智規

東京箱根間往復大学駅伝(箱根)では、チームに付勢して、流れを手繰り寄せる走りを見せた山口智規(スポ2=福島・学法石川)。臨んだ2区では、渡辺康幸氏(平8人卒)の持つ早稲田記録を、29年ぶりに塗り替える偉業も成し遂げた。そんな山口に、エースとして挑んだ箱根の振り返り、そして、見据える今後について伺った。

※この取材は1月13日にオンラインで行われたものです。

2区には「自信があった」

箱根前合同取材での山口。色紙に書いた通りの、『存在感』のある走りを見せた

――解散期間はどのように過ごされていましたか

母校に行ったり、成人式があったり、地元で家族に会ったりしていました。

――疲労の面はいかがですか

1、2日くらいはきつかったのですが、すぐに練習ができたので、今は特に問題はないです。

――箱根の話に移ります。2区の出走が決まったのはいつ頃ですか

12月に入ってからすぐくらいでした。

――出走が決まった時の心境を教えてください

言われた時は本当かと思いましたが、自信はあったのでやってやろうという気持ちにはなりました。

――前回大会で2区を出走した石塚陽士(教3=東京・早実)選手からお話などはありましたか

直前の中継所での過ごし方を教えてもらいました。

――具体的にどのように過ごしたらいいと言われたのでしょうか

(中継所は)割と寒くて、床が冷たいので、寒さ対策はしっかりしていった方がいいよと言われました。

――レース直前は、プレッシャーなどありましたか

いえ、楽しみだなくらいに思っていました。

――気候の面ではいかがでしたか

コンディションは暑くもなく、寒くもなく、風もいい方向で吹いていたので、走りやすかったです。

「エースという存在に一歩近づけた」

2区を走る山口

――タスキを受け取った時の順位は12位でしたが、どのようなことを考えてスタートしましたか

正直、嫌なところで持ってきたなとは思っていたのですが、まあやるしかないと割り切って、気持ちを入れて突っ込んで頑張りました。

――他メディアで「早稲田記録を抜きたいという気持ちもあった」とおっしゃっていましたが、記録を抜ける自信はどれくらいありましたか

本当に未知で、そんなにタフなレースやコンディションを得意な自覚がなかったので、2区をどれくらい走れるか分からなかったです。少し(早稲田記録を)頭に入れておくくらいでしたが、実際にあれくらい抜けたので良かったなと思います。

――沿道の応援はいかがでしたか

すごい応援で楽しかったです。

――名前を呼んでもらえましたか

結構(自分の名前を)呼んでもらえましたけど、やはり名前で呼ばれるとそちらの方を見てしまいますね。

――花田勝彦駅伝監督(平6人卒=滋賀・彦根東)から「15キロまで余裕を持っていく」とのお話があったそうですが、序盤からハイペースで入っているように伺えました。そこについてはいかがですか

正直単独で走るのが嫌だったので、(前に)追いつこうと思って追いついたら結構きつかったです。10キロ地点ですでに余裕がなかったので、頭の中でごめんなさいと思っていました。

――レース中の監督の言葉で印象に残っている言葉はありますか

5キロ地点で声かけがあったのですが、10キロ、15キロでは監督車が後ろの方にいて何も聞こえませんでした。20キロ地点では、「頑張れ」と言われて、ラスト1キロでは花田さんが「ワセダッ、ワセダッ」と歌っているのと、「世界の扉が開いたぞ」と言っていたのが聞こえました。

――給水の時は具体的にどのような言葉をかけてもらいましたか

10キロもきつくて余裕が無かったので、須山(向陽、スポ2=鹿児島城西)の「行けるぞ!」という言葉には背中を押してもらいました。15キロ地点での濱本さん(寛人、スポ4=熊本・宇土)の給水も、4年生に給水してもらったことで、頑張ろうと気持ちをもう一度入れ直すようなタイミングとなりました。

――権太坂や戸塚の坂などのアップダウンはいかがでしたか

(アップダウンが)得意だと思っていなかったので、怖かったのですが、周りが落ちてきてくれたため、逆に、行けるかもという元気が出てきました。下りが上手く走れたので、余裕が出てきた感じはありました。

――ラストに城西大の選手をスパートでかわされました

残り3キロは全然余裕が無かったのですが、あんな規模の大会は無いので(最後は)きついというより、楽しいという気持ちの方が大きかったです。

――どの地点で早稲田記録が抜けると確信しましたか

20キロ地点くらいで、ずっといいペースで来ているなと思っていたのですが、正直ゴールタイムは予想できませんでした。残り400メートルくらいの監督からの声かけで非常にいいペースで来ているんだと感じました。

――区間順位について、走り終わった直後に「悔しい」とおっしゃっていましたが、目標は区間賞を取ることだったのでしょうか

そうですね。練習状況的にも区間賞を狙えるかなと思っていたのですが、全然届きませんでした。

――8人抜きをされたことについてはいかがですか

タスキをもらった位置が位置だったので、自分の走りをすれば前にある程度行けるかなと思っていました。全部間瀬田(純平、スポ2=佐賀・鳥栖工)のおかげという感じではあります(笑)。

――ご自身の走りに点数をつけるとしたら何点ですか

80点です。やはり負けてしまったのもありますし、黒田(朝日、青学大)以外に2人にも負けているので、あまり満足してはいけない結果かなと思います。

――箱根前に「今までの自分を変える走りをしたい」とおっしゃっていましたが、そこに関してはいかがですか

去年の駅伝シーズンや、全日本(全日本大学駅伝対校選手権)までとは違った自分になれたと思います。

――具体的にどのようなところが変われたと思われますか

やはりエースという存在に一歩近づけたのかなと思います。

――チーム全体の走りはどのように見ていましたか

北村さん(光、スポ4=群馬・樹徳)と大志さん(伊藤次期駅伝主将、スポ3=長野・佐久長聖)が走れないということは分かっていたので、そのような危機的状況でも、全員がやるぞという気持ちを持って走れたのは良かったなと思います。

――特にチームの中で印象に残っている選手の走りはありますか

工藤(慎作、スポ1=千葉・八千代松陰)が駅伝2つを外してしまった後の出走だったので、しっかり山を上れてほっとしています。

――総合順位7位という結果についてはどのようにお考えですか

正直ほっとしているところではあります。しかし、チームとしては5番を目指していた中での7番でしたし、現状にしっかり向き合って反省すべきなのではないかなと思います。

トラックでは学生トップを目指して

上尾シティハーフマラソンで日本人トップに輝いた山口

――3月のニューヨークシティハーフマラソンはご自身にとってどのような位置付けとなるレースですか

トラックに力を入れたい中での3月のハーフになるので、位置付けとしては難しいです。しかし、海外勢とのレースになるので上位で戦っていきたいです。自分のこれからのキャリアのステップとして、大事にしたいレースです。

――今季トラックシーズンの目標を教えてください

日本選手権(日本選手権陸上)で上位入賞することと、5000メートルの学生記録更新を目指してやっていきたいです。

――伊藤大志駅伝主将に代替わりをしてチームはどのような雰囲気になりましたか

大志さんを中心に今の3年生がすごい盛り上がっているので、来年の箱根に向けてしっかりやるぞということはチームの中ですでに浸透しています。楽しみなチームだなと思います。

――来年の箱根の目標はお話しされたのでしょうか

まだ話してはないのですが、新入生が入ってから(目標を)具体的に決めようとなっています。ある程度往路優勝を目指せるようなチームと、総合3番を狙えるようなチームを目指していこうということが話の中に出てきました。

――上級生、そしてエースとして迎える新体制のチームで、ご自身の役割をどのようにお考えですか

やることは、走って結果を残すことだと思うのですが、チームの底上げや有望な選手の引き上げをするということについては、僕からアドバイスできるようなことがあればしていきたいです。周りにいい影響を与えられる存在になりたいです。

――今年1年の抱負をお願いします

トラックでは学生トップを目指してやっていくのと、駅伝でも圧倒的な強さを求めて、エースらしい走りができるように頑張っていきたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 草間日陽里)

◆山口智規(やまぐち・とものり)

2003(平15)年4月13日生まれ。172センチ。福島・学法石川高出身。スポーツ科学部2年。第100回箱根2区1時間6分31秒(区間4位)。解散期間中に成人式に参加された山口選手。「成人式で紹介してもらったので、変に街に行って歩けなかった(笑)」と印象に残っているエピソードを教えてくださいました!

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