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ヤングマシン50周年記念号で掲載した復刻記事を不定期でWEBヤングマシンに紹介するシリーズ。今回は1984年に登場した初代ニンジャこと「GPz900R」が初登場したときの開発者インタビューをお伝えしたい。
●文:ヤングマシン編集部
Z1から10年目のスーパーマシンはインタビュアーも絶句の熱さ!
カワサキが空冷Z1系から決別し、次世代の水冷フラッグシップである初代Ninja=GPz900Rを投入。数々の革新メカを備え、当時の本誌ではこれを「ウルトラメカ満載のスーパーマシン」と表現した。
開発者インタビューは、取材陣が圧倒されるほどの熱気! エンジンに関しては「とりあえずの究極」で、4バルブ化やフリクションロスの低減に「10年を要した」。そして車体は、従来スポーツ性が低いとされてきたダイヤモンドフレームの常識を覆し、「低重心、スリム、軽量化」の全ての主題を満たしたという。とはいえ国内仕様は上限が750で、逆輸入車の900はまだ遠い存在だった。
ヤングマシン1984年3月号より。インタビューの扉ぺージには、【特報】本誌独占 設計者インタビュー いろいろなタイプのエンジンを試みましたが、やはり『ベストパフォーマンスはインライン4』でした! とある。
以下に1984年3月号、当時のままの記事を掲載したい。
最高速度253km/h(於アメリカ)/0~400m加速10秒559(メーカー発表値・テストライダー)
本誌では、カワサキの次世代を担うであろうこのウルトラメカ満載のスーパーマシンに関し、いち早く設計者インタビューを試みた。明石の熱気にインタビュアーは絶句! 「本気で創ったんだ!」ということが、言葉の端々に感じられるほどだった。
忍者GPz900R 独占インタビュー・エンジン編
大排気量のスーパースポーツは、いつもカワサキから発進する、というのは知る人が知るところのことだろう。タイトルで“10年目の回答”と謳ったが、この900Rは明石の彼らにはやはり“本懐”だった。
●技術部部長 島田和男氏──エンジン本体を担当した氏の口調には、エンジニアとしての精神を端々に感じることができた。ベストパフォーマンスへの挑戦は今後も続く、と強調、“カワサキを見守って欲しい”と付け加える。
パフォーマンスは1Lオーバーだ!!
【YM】このエンジンを我々は、10年目の回答として受け止めてもよいのでしょうか?
「──私どもの明石の技術部では“とりあえずの究極”であると考えています。どこのメーカーさんも多分そうであると思いますが、いろいろなタイプのエンジンを持っておりまして、多くの視点、角度から研究を重ねていることでしょう。明石では、V型もそしてターボに関しても徹底的に、しかも先取りの精神で開発にあたりました。
ターボについては750でひとつの決着をみましたし、V型(L型)においても機をみて、と思っております。そしてこの900Rには、我々は水冷インラインの4気筒というレイアウトで臨みました。熱対策という観点と、スーパースポーツというコンセプトから、16バルブと、横置き4気筒はどうしても見のがすことはできなかった、ということなんです」
【YM】このエンジンの透視図を見ると、そうとも言えませんが、見た目の斬新さという点では“むしろオーソドックス”ですね。
「──単にインライン4、いってしまえば、それはそのとおりです。
しかしながら、システムの簡略化、軽量化、コンパクト化、というスーパースポーツに最も要求されるものを満たすという点で、このエンジンは究極です」
115psのハイパワー軽量エンジン。クランクシャフト前方には一次駆動ギヤで回されるバランサーシャフトが見える。このシャフトのお蔭で超低振動エンジンに仕上げられたのだ。シリンダー後方にオルタネーターを配し、エンジンのケース幅をつめた、それを生かしてエンジンを下げ、バイクの重心位置を下げることにも成功している。カムチェーンラインをシリンダー左端に配し、子のエンジン最大の特徴でもあるインレットからエキゾーストへかけて一直線にむすぶポート形状を可能にしたレイアウト。機能優先のエンジン設計だ。
【YM】どこがどうなっているのか、という点ですが……
「──二輪の場合、最大のネックは“振動”という問題です。ピストンが上下することを、回転運動にして動力を得る、言ってしまえばこれほど非効率な方法はないのですが、やはりこれしかないのです。今のところ。
振動は、どんなタイプであれ避けられません。大きいか小さくおさえられるか、もし小さくおさえられるんだったら極限までやったほうがよろしい。
我々が考えたのは“バランサー”です。これもオーソドックスなのですが、ハウジングの下方にありギヤで駆動させるもので、初めての試みです」
【YM】バランサーはどれほどの駆動抵抗になるのでしょうか。
「──エンジンの中身については、各パートの、極限までのスムーズと静寂を追求しました。抵抗がゼロというのは不可能な話ですが、そういった細部の見直しでトータルとして相殺された、と言えるかと思います。むろん、この(サイレント)シャフトは、、オイルの中で回っていて、この抵抗は大きなものなのですが、これも考慮のうちです。また、ベアリングの類も徹底的にやりました。スムーズと静寂です」
【YM】重量に関してはどうですか?
「──水冷にする、ということでこれも重要な項目でした。トータルで相殺された、ということです。12年前のZ1用よりも5kg軽量化です」
【YM】カムチェーンを左側にもってくる、というレイアウトは、何かエンジンの性能にかかわる発想があったのでしょうか?
「──カムチェーンをどこにセッティングするか、というのは、発想ということじゃなしに、すでに限定されたことですね。右か真ん中か左しかなく、右にクラッチがあるから、左側の方が設計しやすかった、ということです。
しかしながら、いちばんの効果は、冒頭でも述べましたが、コンパクト化に大きく貢献した、さらに、高効率なパフォーマンスが与えられた、につきます。というのは、空間効率の良さと実質的なパワーに対する効率は、水冷化したことと、吸排気系を一直線にできたことで具体化されたのです。
レーサー、とくに耐久レーサ―では、こうしたノウハウは最重要項目で、古くは12年前のZ1のスーパーバイクレースから始まっていたのです。当時Z1はAMAで4度、そしてFIM耐久マニファクチュアラーズチャンプを3度、そして、2度の耐久チームチャンプを獲得しました。そうしたかつての経験・集積がこの、革命的エンジンレイアウトを生んだと言っても過言ではないです。
何度も言って恐しゅくですが、オーソドックスです。しかし、シンプルイズベストなのです」
【YM】16バルブ化とバルブの狭角化についてはいかがですか?
「──カワサキは、Z1以来1気筒当り2バルブで十分であると考えてきました。レースをみればわかると思いますが、しかしここに初めて4バルブ化を進めた裏には、時代の流れという以上に、やはり、メリットがあるということでしょう。“フリクションロス”ということばは、多くのパートに使用できるのですが、ことエンジンについてはとりわけ重大です。デメリットを“フリクションロスの低減”で割ると、16バルブ化はおのずと回答として表れる、我々はこの開発に10年を要しました」
忍者GPz900R 独占インタビュー・フレーム編
マシンを設計する場合、メリットとデメリットの相殺という問題が、事の初めに登場する。明石の技術者の苦悩の跡は、マシンを見れば一目である。しかし、見事なほどの発想に驚きを禁じえない。
●技術部 永安 雅氏──“可能性”ということばを多く使用する氏の言いまわしに、氏自身のキャパシティと熱意を感じる。スーパーマシンのセオリーをくつがえしたといっても過言ではなかろう、その張本人である。
常識を破ったダイヤモンドフレーム!
【YM】もう一度、原点にかえってお話しを受けたいのですが、“車体設計上の目的”とは、いったいどんなところにあるのでしょうか。
「──(ちょっと間をおいて)……それは、低重心・スリム・軽量化ということに尽きます」
【YM】900Rにはダイヤモンド・フレームが採用されているわけですけれども、このダイヤモンド・フレームは、大排気量スポーツバイク用としてはマッチングはとりにくく、ホンダのCBX1000の6気筒では、高速直進性や高速コーナリング等の安定感に欠けるという評があります。何故あえて、こうしたタイプのフレームの採用を決定されたのですか。エンジン高を下げるとか、軽量化のメリットは分かるのですが、剛性面で問題が出てきそうな気が非常にするのですけれど。
「──地上高とバンク角、という二律背反する項目を、我々はまず満足させました。エンジンにできるだけの可能性を与えたかったのです。
フレームのチームでは、それを受けて試行錯誤を続けました。そして、いろいろな、重なりがあって結論を出しました。メリットの部分だけを抽出したのです。『ダイヤモンドでスポーツ性を成りたたせる』という、従来ではポピュラーでない方法で、です。
しかし、これを完成させるという事は“低重心、スリム、軽量化”の全ての主題を満たせるのです。
ダイヤモンドだとフレーム単体重量は当然軽くなる。クレードル部分がないので、その分エンジンを下げられる。これはスリムなエンジンなので、バンク角などに余裕を持たせながら低重心も可能になったのです。
コンパクトで軽く、強力な強度メンバーであるエンジンのポテンシャルを、走りと機能のために最大限引き出せる様にしたのです」
【YM】単に“ダイヤモンド”というだけではなさそうですね。この図を見ますと……
「──エンジンを本体から釣るパネルと、ステップ部もフレームの一部とするところに、大きな特徴があります。柔と剛、それは我々の不変のテーマです……」
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