冨安健洋が強調した「熱量不足」をどう解消する? キャプテン遠藤航らへの注文

AFCアジアカップカタール2023は、6日と7日に準決勝、10日に決勝を迎えるが、タイトルを争うステージに日本代表はいない。準々決勝でイラン代表に1-2の逆転負け。8強止まりに終わったからだ。

「中東で中東勢と戦うのは非常に難しいと改めて感じました。相手のモチベーションが非常に高く、死に物狂いで戦ってくるところを、我々もさらに死に物狂いで必死になって戦わないといけない。常に覚悟を持ってやらないといけないと感じています」

試合後、森保一監督は悔しさをにじませたが、イランやイラクと日本では、アジアの頂点に立ってやろうという意欲と執着心の部分に大きな差があったと言わざるを得ない。

今の日本代表は大半が欧州組で、リーグ戦の真っ只中に同大会に参戦しなければいけない。となれば、このタイミングでアジアの大会に出る意味があるのかと心のどこかで考えてしまう気持ちも分からなくもない。

それでも、代表活動は限られており、長期間チームとして活動できるのはアジアカップやワールドカップのようなビッグトーナメントに限られる。ゆえに、森保監督らスタッフにとっては非常に重要な場だったが、選手側もどこか集中しきれない部分があったと言わざるを得ないだろう。

そういう中、アーセナルという世界最高峰クラブで激しいポジション争いにさらされている冨安健洋は、個人の立場をいったん横に置き、代表のために厳しい発言を続けた。最たるものがイラン戦後の「熱量が感じられない」という強烈ワードである。

「本当に勝ちに執着するべき時にできない。良くない日本のまま、変わることができずに終わってしまった。それは今回だけじゃない。僕自身も含めてもっともっとやらないといけない」と、彼は闘争心を奮い立たせるプレーや行動がチーム全体に足りなかったことをハッキリと指摘したのだ。

確かにまるで優勝したかのように歓喜を爆発させたイランと、ただただ呆然としていた日本では、選手たちのアジア制覇に対する意識や意欲の違いがあまりにも大きかった。それが冨安は情けなくて仕方なかったのだろう。

もちろん彼自身も発信力や牽引力の不足を反省している。

「僕はピッチでそんなに勝ちへの執着をああだ、こうだと言うタイプではないから、ピッチ上で後ろから声を出してやるべきことをやるというか、オーガナイズしたりだとか、細かいところの修正だとかをやっているだけ」と語っていたが、冨安が鬼気迫る思いをピッチ上でぶつけたり、気迫あふれる競り合いでサルダル・アズムンをつぶすような仕事をもっと見せていたら、ピッチ上の雰囲気がガラッと変わっていたかもしれない。

冨安よりさらに年長の選手はよりアクションを起こさなければいけない立場。特にキャプテンの遠藤は背中で引っ張るスタイルを最後まで変えなかったが、苦境に陥った時はもっと周りを鼓舞したり、時には怒りをぶつけたりしてもいいはずだ。

過去のキャプテンを見ても、長谷部誠は代表合宿の集合時間に遅刻してきた森本貴幸に厳しい言葉で猛省を促したのが有名だし、吉田麻也にしてもFIFAワールドカップカタール2022アジア最終予選で序盤3戦2敗と崖っぷちに追い込まれた際、「自分が責任を取ります」と語気を強めていた。

そんな先人たちとは異なり、遠藤はどんな時も感情を高ぶらせることなく、つねに安定した精神状態で物事に向き合えるのが強み。だが、イラン戦のように一方的に押し込まれた苦境では指示や周囲を鼓舞する姿勢を積極的にすべきだったのではないか。

とりわけ、森保監督はピッチ上の選手たちの考えを優先する指揮官だけに、ピッチ内のリーダーはより強い統率力と発信力が必要だ。そこは彼に今一度、考えてほしい部分である。

サッカーは年齢でやるわけではないから、小学生の頃から海外で生活し、メンタル的にも外国人に近いところのある久保建英が前線のリーダーをやってもいいし、堂安律も持ち前の歯に衣着せぬ物言いで強引にチームを引っ張ってもいい。そうやって一人ひとりが熱量を持って大会に臨まないと、本来の実力も日本の強さも発揮されずに終わってしまう。彼らがその事実を再認識したことが、今大会の数少ない収穫と言っていい。

「自分たちのワールドカップ優勝という目標は変える必要はないと思うし、日本がワールドカップで優勝するための1つの通過点だと思ってやっていくしかない」と遠藤は自らに言い聞かせるようにコメントしていたが、ワールドカップに行くまではずっとアジアとの戦いが続く。特に2024年は二次予選、最終予選ばかりで、いわゆる強豪国との対戦機会は全くない。

ヨーロッパのトップでプレーしている面々は毎月のように日常的に対峙している相手とは異なるタイプの敵と戦い、勝っていかなければならないのだ。

「日本から金星を挙げてやる」と鼻息が荒くなっているアジア勢に簡単には勝てないということを強く自覚しつつ、今回参加したメンバー全員が「熱量が感じられない」という冨安の発言をどう受け止め、改善につなげていくのか…。3月には北朝鮮との2連戦も待ち構えているだけに、失敗に終わったアジアカップをムダにすることだけは許されない。

取材・文=元川悦子

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