「地方創生」に向けた誘客施策に関する自治体アンケート調査を実施(2023年)~誘客施策推進にあたっての課題は観光協会や観光地域づくり法人(DMO)との連携、二次交通や宿泊施設の不足、観光協会やDMOにしかできないことがある一方、民間企業の専門性やノウハウによる協力も求めている~

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、全国の地方自治体(市区町村)に対して、「地方創生」に向けた誘客施策に関するアンケート調査を実施し、自治体が取り組んでいる誘客施策の方針、取組内容や課題、自治体が協力を必要とする民間企業などについて分析した。ここでは、一部の分析結果を公表する。

1.調査結果概要

全国の自治体で地方創生に向けて様々な取り組みが推進されているなか、観光やワーケーション、二拠点居住など、地域活性の源となる人の来訪増加を図る誘客施策は、人口減少が進むなかで、自治体にとっての主要な施策の1つである。一方で、コロナ禍で観光客が減少し、未だにコロナ禍前の水準に戻っていない地域も少なくない。

本調査は2023年9月~11月に全国の258自治体(市区町村)に対してアンケート調査を実施し、自治体が取り組んでいる誘客施策の方針、取組内容や課題、自治体が協力を必要とする民間企業などについて分析した。

自治体がコロナ禍後の誘客施策を推進するにあたっての課題について(最大3項目までの複数回答)、「観光協会や観光地域づくり法人(以下、DMO)※との連携」が31.4%と最多であった。次いで、「域内における交通インフラの脆弱性(来訪した人の移動が不便)」(28.6%)、「域内のインフラ(宿泊施設等)不足」(23.8%)、「域外の人々に対する効果的なプロモ-ションが難しい」(23.2%)と続く。

約3割が課題として挙げた「観光協会や観光地域づくり法人(DMO)との連携」については、域内にDMOがあるものの、域内での連携した地域づくりが進んでいないことや、DMOの主要メンバーは出向者が多く、元の所属先企業に帰任すると専門人材が不足するなどの課題がある。一方、多様な事業者との連携など、観光協会やDMOでなければできない役割があるという理由から、一般の民間企業ではなく、地域の観光振興を担うこれら組織への期待を持つ自治体担当者は少なくない。

次いで課題として挙げる自治体の多かった「域内における交通インフラの脆弱性(来訪した人の移動が不便)」については、特に二次交通の整備不足を具体的内容として挙げる自治体が多かった。駅からの公共交通機関が充実していないために、自家用車やレンタカーでなければ観光スポットまで移動できない地域も多くなっている。また、タクシーもドライバー不足の影響により長時間の乗車待ちという状況が多発している地域もある。バスを運行するにしても収益性や道幅などの問題から運行が難しい場合などもあり、自治体を中心とした地域の担当者はこうした状況に苦慮している。

※観光地域づくり法人(DMO:Destination Management Organization)とは、 観光に関して地域の総合的な役割を担う組織をさす

2.注目トピック~今後の誘客施策推進にあたり、協力を必要とする民間企業の業種は「交通事業者」と「大手旅行代理店」

本調査においてコロナ禍後の誘客施策推進にあたり、自治体が協力を必要とする民間企業の業種を尋ねたところ、「交通事業者(鉄道・バス会社等)」(41.6%)と「大手旅行代理店」(33.1%)が上位となった。

自治体にとって交通事業者は、域内を周遊するツアー等の交通手段としてのバス運行や、ラッピングバス等でのプロモーションなどを担えることから、特にバス事業者との連携が必要と考えている。また、自治体によっては補助金に依存しない独立性の高い事業者の参入や路線バスが廃止されたことに伴う二次交通の課題解決など、既存事業者に限らず民間企業の協力を必要としている状況にある。事業性があり持続可能な二次交通事業者の参入が期待される。

大手旅行代理店は、ツアー販売に必要な旅行業を有し、ツアー企画のノウハウがあることから、地域資源を活かした旅行商品開発等に関して協力が求められている。また、国内外の観光客への発信力の高さやインバウンド(訪日外国人客)誘致のための海外ネットワーク(海外拠点や現地パートナー企業など)を有するなど、開発した商品のプロモーションや販売においても、大手旅行代理店の国内外における集客力の高さを活かした提案が期待されている。

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