大森で昭和トリップ? レトロ感満載の純喫茶『珈琲亭 ルアン』で、本格コーヒー片手に至高のカフェタイムを

ディープな飲み屋街やおしゃれなランチスポットが点在する街、大森。そんなエリアで長年愛されているのが、近年数多くのドラマのロケ地として利用されることも多い『珈琲亭 ルアン』だ。昭和レトロ感満載のノスタルジックな雰囲気漂う店内では、オーナー自らが淹れた本格コーヒーが味わえる。

今回は、喫茶店100名店に選出されたこともある『珈琲亭 ルアン』を営むオーナーの宮沢さんに、お店の歴史やコーヒーへのこだわりについて詳しく話を伺った。

元サラリーマンのオーナーが、先代の純喫茶を継いだ理由

趣のある店構えが印象的な外観。創業当初(1971年!)は店のすぐ目の前に映画館が4つもあったのだとか。

JR大森駅から徒歩3分ほどの場所に店を構える『珈琲亭 ルアン』。新旧入り乱れる大森という街で、その外観から圧倒的な存在感を放っている。

誰もがつい、絵に描いたような白ひげの激渋マスターを想像してしまう店構え。しかし、重厚感のある扉を開けると、出迎えてくれたのは想像とは相反する耳触りの良い声とやわらかな笑顔が特徴的なお若いマスターだった。

聞くと、二代目オーナーである宮沢さんは元サラリーマンで、1990年に先代であるお父様が営んでいるこの店に戻ってきたとのこと。

2階建ての店内はどこを見ても「これぞ昭和レトロ!」という感じ。座席数は80席もあるので、ゆったりとくつろげそう。

「絶対にこの店を継ごう!と決めていたわけではないけれど、何となく引き寄せ合うタイミングが合って、『ルアン』に戻ってきました。その後は父と20年以上共に店を支えてきましたが、父が亡くなってからは僕がオーナーとして1人で『ルアン』の船頭を務めている感じです」。

創業当初は2階は麻雀屋、1階は喫茶店という形で店を開けていたそうな。当時の貴重なマッチの空箱と雑誌の切り抜きを拝見させてもらった。

昭和喫茶の象徴ともいえる『珈琲亭 ルアン』だが、宮沢さんがオーナーになったタイミングで、店の雰囲気を現代風にがらっと変えてみようとは思わなかったのだろうか?

「せっかく先代とこれまで続けてきたんだから、それを潰したら申し訳ないかなって。だから、僕もこれまでのルアンをそのまま続けていこうと思いました」。店の歴史や長年の常連客を、宮沢さんが1人でまるごと受け止めるのはさぞ大変だったはずだ。

しかし宮沢さんは、2018年にこれまでの店の方針を一変させる苦渋の決断をする。

「時代の流れに沿って、2018年5月に店内の禁煙化を決めました。正直、昭和の純喫茶にとって煙草とコーヒーはセットみたいなもので。禁煙化に伴い毎日お見えになっていたお客様が来なくなったのはすごく寂しかったけれど、この決断が店の客層を少しずつ変えていくきっかけにもなりました」。

店内の禁煙案内の表示。ただそれだけなのに、雰囲気たっぷり。

「最近では、お若いカップルや家族連れのお客様がかなり増えましたね。禁煙化後も変わらず毎日コーヒーを飲みに来てくれる常連さんもいるので、ありがたい限りです」。

『珈琲亭 ルアン』を愛するファンが途絶えないのは、店の歴史を背負いながらも、日々移ろいゆく時の流れに柔軟に応じていく宮沢さんの器量があるからなのだろう。

創業当初から変わらぬ名物カフェ・オーレと、昔ながらのミルクレープ

今回注文したカフェ・オーレ600円と、ミルクレープ470円。アンティーク調の食器も素敵。

『珈琲亭 ルアン』では、コーヒーを含む豊富なドリンクメニューのほか、ケーキや軽食のレパートリーも充実している。

“珈琲亭”というだけあって、コーヒーのメニューがとにかく豊富!お見せしていないページにも、ドリンクメニューがずらり。
こちらはケーキセットのメニュー。どれも捨てがたく、ケーキ選びに迷う迷う。

今回は、数あるコーヒーメニューの中でも特に人気が高いというカフェ・オーレ600円と、ミルクレープ470円をいただいた。

『珈琲亭 ルアン』の名物ともいえるカフェ・オーレ600円は、その作り方に目を見張るものがある。店員さんがテーブルまで足を運び、客の目の前でダイナミックなパフォーマンスとともにカフェ・オーレをブレンドしてくれるのだ。

すさまじい高さからカップ目掛けてカフェ・オーレを一気にブレンド!動画でお見せできないのが悔やまれる……。

熱々のコーヒーとミルクが入ったポッドを、胸元より高い位置から勢い良くカップに注ぎ入れるその熟練技は、一見の価値あり。こうして混ぜ合わせることで程よく空気が入り、口当たりの滑らかなカフェ・オーレになるんだとか。

ふわっふわの泡がこんもりのった、『珈琲亭 ルアン』の名物カフェ・オーレ600円。注文に迷ったらひとまずこちらをどうぞ。

初めて見る光景に圧倒されながらも、恐る恐る出来立てのカフェ・オーレを口に含んでみる。「おいしい……」思わず声が漏れてしまった。

カップから溢れ出んばかりのメレンゲのようなふわふわのミルクの泡が、後から来るコク深いコーヒーの苦味を程よく調和してくれる。少しずつ少しずつ飲み進めると、その時折によってミルクとコーヒーのバランスが絶妙に変化し、口の中で何度も新たなコーヒーのおいしさを堪能できる。

ミルクレープ470円。きめ細やかなクレープの層が美しい。お皿に盛られた濃厚なミルクと絡めても、甘みが強すぎない丁度良いバランス。

その合間にいただくミルクレープも、コーヒーとの相性抜群だ。甘すぎず重すぎず、コーヒーと一緒にいただくからこそ、ケーキの味がより引き立つ。

聞くと、『珈琲亭 ルアン』では常に10種類以上のコーヒー豆を常備し、コーヒー毎に淹れ方を変えながら、その味わいを最大限引き出しているそう。サイフォンやエスプレッソポット、ネルドリップなど、注文が入る毎に様々な手法でコーヒーを淹れる宮沢さんの手は、カウンター越しに見ても忙しそうだ。

「カフェ・オーレは炒りが深い豆を使ったり、コーヒー毎にカップを変えたり、何だかんだ色々工夫してますかね(笑)」。

コーヒーを淹れながら穏やかな笑顔で語る宮沢さん見て、宮沢さんのコーヒー愛にほんの少し触れられたような気がした。

タイムトリップしたかのような異空間で、芸術的なコーヒーを味わえる喫茶店

取材中も注文が入ったコーヒーを次々に淹れ続けるオーナーの宮沢さん。コーヒーに向ける眼差しは真剣そのもの。

「うちはチェーン店のようなマニュアルや決まりは特に設けていないけれど、帰る時にお客様がどんな顔で店を出たかは確認するようにしています」と語る宮沢さん。

店内に飾られている、名だたる著名人のサイン色紙や記念写真。これはファンには堪らない…!

「あぁ、このお客様は満足してくれたんだな、とか、このお客様はちょっと物足りなかったのかな?とか、帰りがけのお客様の顔を見ると、何となくそんなことがわかります。あとは、店頭に飾ってある芸能人の方のサインを眺めているお客様がいたら、少しだけロケ時のエピソードトークをしてみたり。些細なことですけど、中にはすごく喜んでくれるお客様もいるので、そういった気遣いには気をつけてますかね」。

特に難しいことはしていない、という宮沢さんだが、話を聞けば聞くほど、オーナーの人柄の良さが伝わってくる。

「儲けるより続けることが大事。お客様が喜んでくれることが一番です」。そう優しい笑顔で語る宮沢さんの顔は、とても凛々しく見えた。

「接待に使っても恥ずかしくない、でも家族連れでラフに来店もできる店。そんな店を目指しています。お高いカフェの雰囲気ではなく、”気軽に”いつでも毎日来ていただきやすい店を作りたいですね」。

店内に置かれている公衆電話。飾りというわけではなく、どうやら現役の様子。

年季の入った革張りの椅子や、現代ではまずお目にかかれないピンク色の公衆電話、アンティークな品の数々など、『珈琲亭 ルアン』に一歩足を踏み入れると、まるで昭和の異空間にタイムトリップしたかのような不思議な感覚に襲われる。

それでもお店こだわりのコーヒーを片手に椅子に腰掛けると、この空間に身を置いていることが、自分にとって安らぎの時間になっているのだと実感できる。

ちょっと特別な日の待ち合わせに、一息つきたい時の休憩場所に…どんな利用目的でも、違和感なく最適で最高な空間を提供してくれる純喫茶、それが『珈琲亭 ルアン』だ。

オーナーが淹れる芸術的なコーヒーとともに、あなたならこの空間でどんな過ごし方を楽しむだろうか?

珈琲亭 ルアン 住所:東京都大田区大森北1-36-2/営業時間:7:00~19:00(土・日・祝は7:30~18:00)/定休日:水・木/アクセス:JR京浜東北線大森駅より徒歩3分

取材・文・撮影=杉井亜希

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