なぜ、米の人気スタジオ・ブラムハウスは“原作者と監督”を尊重するのか? CEOに聞く

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『ゲット・アウト』『M3GAN/ミーガン』など数々のヒット作を手がけるブラムハウス・プロダクションズの最新作『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』が間もなく公開になる。本作は、人気ゲーム『Five Nights at Freddy's』の映画化で、ゲーム作者のスコット・カーソンの意思を尊重して映画づくりが行われた。

ヒット作を連発するブラムハウスはどのようにして原作者と共に映画制作を進めたのか? 彼らの作品が映画ファンを魅了し続けるのはなぜか? スタジオのCEOを務めるジェイソン・ブラムに話を聞いた。

ジェイソン・ブラムが2000年に設立したブラムハウス・プロダクションズはしばしば“低予算のホラー映画で成功している会社”と説明される。しかし彼らは『セッション』や 『ブラック・クランズマン』などホラーではない作品も手がけており、ジャンルが何であれ、通常のハリウッド映画よりも作者や監督の意思を尊重して制作にあたるのが特徴だ。

「ハリウッドの典型的なやり方は、人気のコミックや小説、ゲームの権利をスタジオが大金を払って買ってきて、作者のことは横に置いて自分たちで脚本家や監督を雇って映画をつくる。そして、映画が完成してプレミア上映になった段階でやっと原作者を呼ぶわけだ」とブラムは説明する。

実は本作も最初はそんな“作者の意向などお構いなし”で映画化されようとしていたようだ。

「10年ほど前に大手のスタジオがゲームの映画化権を獲得したんだ。でも、ゲームの作者のスコット・カーソンは作品に対する思い入れが強いから、映画化する際には自分のビジョンで映画化したいと思っていた。彼はゲームが成功してたくさんお金を持っていたから(笑)、金の力に負けて意に沿わない映画化を許可するわけがない。結果的に彼は権利を自分の元に戻したんだ」

何人もの監督が候補にあがっては消え、何バージョンもの脚本が書かれたようだ。しかし、それらはスコット・カーソンが意図したものではなかった。原作になったゲームの世界観や重要なポイントをちゃんと反映していなかった。

「そこで、私がスコットに電話して言ったんだ。『あなたが頭の中に思い描いているビジョンを映画にするお手伝いをさせてくれませんか?』とね。その結果、映画化の道のりはとても複雑なものになった。というのも、彼は映画制作のプロじゃないし、映画制作というものをまったく理解していないので、我々は彼の頭の中にある映像を抽出して実現させなければならなかった。おかげで8年もの年月がかかってしまったよ!」

ブラムはそう言って豪快に笑う。

「でも私はこの映画をゲームを遊んでいるファンの人に楽しんでもらいたいと思った。ハリウッドだと通常は、原作が何であれ“万人受け”を狙う。でも我々はあえてゲームのファンに向けて映画を作りたかった。結果的に完成した映画は、ゲームを遊んでいない観客にも観てもらえてヒットしたわけだけど、本作の成功の最大の要因は、ゲームのクリエイターを映画制作のリーダーとして迎え入れたことにあると思う」

ブラムと作者のカーソンは話し合いながら制作を進めていった。彼らの作る映画は“低予算”と言われるが、ハリウッド映画なので予算規模も公開規模も大きく、リスクもまた大きい。それでもブラムハウスは原作者や監督のビジョンを尊重する。

「ブラムハウスはハリウッドの他の映画制作会社と運営の仕方が違うと思うよ。我々は原作や原案がある映画の場合は作者に、オリジナル作品の場合は監督により多くの権限を与えるようにしている。でも、それは特別なことでも何でもないんだよ。だって、アメリカ以外のアジアの国々やヨーロッパでは監督が普通に多くの権限を持っているからね。ハリウッドがそうではないだけで、国際的には普通のこと。僕らは国際的なシステムを、ハリウッドの商業ホラー映画に適用しているだけなんだ。このやり方は最高に楽しいよ!」

ブラムハウス映画の根底には“家族のドラマ”がある

本作の主人公は、幼い頃に弟が行方不明になってしまったマイク。彼は自分の目の前で弟が何者かに連れ去られる悪夢に苦しめられながら、現在は幼い妹と共に暮らしている。しかし、仕事はうまく見つからず、妹と暮らす資金を捻出するために廃墟と化した古いレストランの夜間警備員の仕事を引き受ける。“フレディ・ファズベアーズ・ピザ”は、かつて大盛況だった店で、レストランフロアでは機械仕掛けのマスコットが歌い踊り、店内にはゲームコーナーもあって子どもたちに大人気だったようだ。現在は朽ち果て、誰も足を踏み入れることのないレストランで、マイクはイタズラや盗難などがないよう警備を開始する。しかし、ある日、止まっているはずのマスコットたちが動き始め、侵入者たちに牙をむく。

「若い人はこの映画をホラー映画だと思っているかもしれないな」とブラムは笑みを見せる。確かに本作は、廃墟になったレストランを舞台にしたホラー要素のある映画だ。しかし、映画を観ていくとホラーだけでなく、家族ドラマ、ファンタジー、ミステリーなど様々な側面が見えてくる。

「私は最初からこの映画はR指定ではなく、“PG13(アメリカの映画のレーティングのひとつ。PG13は、13歳未満の子どもは入場する際に保護者の同意が必要)”にしたかった。この件についてはスコット・カーソンともよく話し合って同意してもらえたよ。我々はホラー映画をたくさん手がけているけど、ブラムハウスの作品の多くは、その中心に“ファミリードラマ”が描かれている。どんなジャンルの映画でも、そこには家族のドラマがあって、それが観客の胸をうつ。観客が魅了され、共感できる物語がある。そこは本作でも目指したよ」

真夜中の朽ちたレストランで動き出す機械仕掛けのマスコットたち。それだけで恐ろしいが、映画は観客の予想外の方向へと転がっていく。

ブラムのすごいところのひとつは映画づくりにおける“予算の投じ方”にある。

「我々は予算を抑えて映画を作りたいと思っている。だから我々は、一番予算のかかるVFXをあまり使わない映画を作ってきたし、本作ではVFXを使用していない。スコットも私もすべてをリアルなもので撮影したいと考えていたからね。そのための準備と努力はしたよ。劇中に登場するマスコットのアニマトロニクス(撮影用のロボット。本作では名門ジム・ヘンソン・クリーチャーショップが制作を担当した)は撮影開始の1年前から作り始めたんだ。

それに多くのハリウッド映画でプロデューサーは、予算を配分する際に自分にもギャラを払う。でも我々のスタジオでは自分たちにはギャラを払わない。無駄に金のかかる映画スターやスタッフは雇わないし、雇った監督や俳優にはまず最低限のお支払いをして、映画が成功したら成功した分だけ後から支払いをするようにしているんだ。もし、成功しなければ……みんなでまた頑張ればいいんだよ(笑)。

そうして予算を抑えるようにしているけど、時々、ルールを破ってお金をかけることもあるよ。“画面に映るもの”についてのお金ならね。ある一定のラインの役者やスタッフにだけ必要以上のお金を支払うようなことはしない。映画のクオリティを上げるために、時々ルールを破ることがあるんだ」

ジェイソン・ブラムは何を質問しても、その回答はいつもクリア。無駄な金はかけない。原作者と映画の作り手を尊重して、映画を良くするために金と労力を使う。ブラムハウスが映画ファンから愛されるスタジオになったのは当然のことなのだ。

「私は日本のみなさんにこの映画を映画館で一緒になって楽しんでもらいたい! 『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』は子どもから大人まで揃って楽しめる映画だし、観る年齢によって違った感じ方をしてもらえると思う。これまでに我々の映画を観たことのある人には、この映画を通してブラムハウスという会社をこれまでとは少し違ったイメージで捉えてもらえると思うよ!」

『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』

2月9日(金) 公開

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