【インタビュー】FC東京クラブナビゲーター羽生直剛氏が語る「今のFC東京」「新エンブレムの意味と覚悟」

日本の首都、東京をホームとするFC東京。

2023年、設立25周年を迎えたクラブは、まだ見ぬさらなる高みを目指すため、2024シーズンから使用する新しいエンブレムを発表した。

ファン・サポーターと築き上げてきた歴史の「継承」と、これから共に創り上げていく新しい歴史のための「革新」を合わせたものに仕上げられた新エンブレム。

そんな変革の時期にあるFC東京において、クラブナビゲーターを務めているのが元日本代表の羽生直剛氏だ。

今回、JリーグのトップパートナーであるKONAMIの協力を経て、公式ゲーム『Jリーグクラブチャンピオンシップ』のホームゲーム招待企画時に、羽生氏をQolyが直撃!

インタビュー前編では、自ら“レアキャラ”と語る羽生氏がクラブナビゲーターとして現在クラブ内で行っている仕事や、今のFC東京、さらにはこれからのFC東京について色々と聞いた。

「クラブナビゲーター」の役割とは

――本日はありがとうございます。まず、羽生さんは2020年からFC東京のクラブナビゲーターを務めています。具体的にどんな役割ですか?

2017年に現役を引退して、2年間はFC東京の現場寄りのスカウトを担当していました。

高校生や大学生の優秀な選手をクラブに入れるという仕事をさせてもらったんですが、それを経験して、現場サイドのことは選手も強化部もやってある程度見たなと思った時に、シンプルに「クラブがどう成り立っているんだろう」みたいな興味が湧いてきました。

「ビジネスサイドにコミットさせてほしい」というのをクラブに伝えて、3年間スポンサー獲得をメインに、スポンサーまわりの部署、事業部と連携を取ってきました。商談に出させてもらったり既存のスポンサーのフォローをやらせてもらったりしていました。

今、自分で会社も作っていて(※「AMBITION22」という会社)そのメンバーが何人かいます。そこも、たとえばスポンサーのリードの獲得というか商談の席を設けるみたいなところを追加のタスクとしてもらって、僕らのメンバーでFC東京のスポンサー獲得の第一歩を掴む。それを事業部とも連携して、チームとなってやり始めたというのが一つ。

もう一つ、僕はオシムさんの「強みを掛け合わせるチームビルディング」を目の当たりしていたので、ストレングスファインダーという、ネット上で144個の質問に答えて強みを出すというツールがあるんですけど、そのコーチングの資格を取ったりしました。

人が成長する、人の強みを掛け合わせたチームを作るみたいなところに興味があったので、そういう資格を取った中で、人事総務部と言われるような部署と連携して、ビジネススタッフ向けのチームビーディングみたいなことなどをクラブ内でやらせてもらっています。

FC東京にとって“変化の年”だった2023年

――2023年はFC東京のチームとしてどんなシーズンでした?(※インタビューは昨年11月25日に実施)

クラブ力としてやっぱり僕らはまだまだ未熟なんだなと思いますし、ミクシィさんのもとで改めて、次のフェーズに向かう1年目だったのかなと思っています。

現場もそうですし、僕はどちらかというとクラブの中を見てきたので、“変化の年”だったとは思うんですよね。

ただ、サポーターの方がいて、選手はプロとして当然そこで何か表現しなきゃいけないと考えると、物足りなさもあると思います。見ていてワクワクするようなサッカーを常にしないと、首都のクラブとしては寂しい内容というか。

僕らはもっと、Jリーグを本当の意味でリードしていくようなクラブを目指さないといけません。

ビジネスサイドもそうですし、現場サイドもそこを目指さなきゃいけないなというのは僕も思っているところではあります。

――そうした中で、アカデミー出身の選手たちがレギュラーに定着したり、世代別代表でも活躍したりしています。羽生さんもスカウトをされていたとのことですが、FC東京のアカデミーから良い選手が、より多く出るようになってきたのはどんな理由があると感じていますか?

まずはアカデミーの指導者の方たちが頑張っているというのがあると思います。彼らなくしてこうした状況は作れません。

指導者の方たちがプロフェッショナルとして働いている結果だと思いますし、さらに言えば、クラブが本当に輝き続ける、輝こうとすることにより、「FC東京でプレーしたい」という子どもたちが増えると思うんです。

スカウトの時で言うと「FC東京は中学生でいいチームを2つ(U-15深川とU-15むさし)持っているんでしょう?そのエリートがさらに高校生になるなら、外から獲るスカウトは要らないのでは?」と言われるんです。

そういったことを経験すると、やっぱり力を入れないといけないですし、選手が集まってきやすいというのはクラブとして理解した中で、本当に磨ききって20歳とかで活躍するような選手をとにかく育てよう、と。

そこはアカデミーのポリシーというか、すごく意識をしながら選手たちと向き合っているんだと思います。

――パリ五輪世代の代表では、アジアカップの日本代表にも選出された野澤大志ブランドンや、バングーナガンデ佳史扶選手、木村誠二選手(※今季はサガン鳥栖へ期限付き移籍)がレギュラー争いをしていますけど、昨年のU-17ワールドカップに出場した佐藤龍之介選手や後藤亘選手はチームの中心選手でした。彼らへの期待は?

今のアンダー世代の代表選手がどうかは分からないですけど、僕らの時のアンダー代表の選手たちは、もちろん成功している人もいますけど、そこで満足してトップチームに上がった時に活躍しきれなかった選手もいました。

今その年代のトップなだけであって、これからやらなければいけないのはそれこそ日本を代表する選手であり、世界に羽ばたく選手になることです。

何か言えるとしたら、今の彼らが考えなくてはいけないのは、現状に満足することではなくてさらに上を目指すことであり、周りの指導者の方や親御さんも含めて「目標はもっと上にありますよね」という指導をしてくれたらいいかなという感じです。

――そういった意味では、2022年に青森山田から加入した松木玖生選手はプロでも1年目から主力になりました。彼もスペシャルな部分がある選手だと感じているんですが、彼に関して特に印象的だったことなどはありますか?

間違いが少ない、という感覚ですかね。プレーは良くも悪くもすごく大人っぽいなと思いました。力強さはもちろんありますけど、高卒とは思えない落ち着きというか、馴染み方というか。

一方で、もうちょっと破天荒さとか、若さがあるがゆえの色々なものを見せてほしいとはちょっと思っていました。

新しくなったエンブレム「ここからは自分たちの責任」

――クラブは昨年、2024シーズンから使用する新しいクラブエンブレムを発表しました。エンブレムをリニューアルした理由というのを羽生さんから伺ってもいいですか?

僕はあまり詳しく知らないですけど(笑)。多分賛否もありますし、クラブ内でも長くいるメンバーやスタッフは長い時間をかけて議論していたと思います。

僕もエンブレムを新しくするにあたっての最初の議論には入らせてもらっていました。絶対こういう問題が起きそうですよねとか、サポーターの方に対してこうだよねみたいな話はクラブ内でもずっとしてきましたし、めちゃくちゃパワーが要ることだというのはみんな分かっていました。

ただ僕は…僕自身は変化をしようとすることは大事だと思っている派なので、クラブがしっかりと次のステップに行くという強い意志があるんだとしたらそれはやるべきというか。仮に多くの人からある意味批判されたとしても、それを正解にしていくのは僕ら、クラブなので。

全員が全員「いいね」と進むことは想定していないと思いますし、ここからはある意味自分たちの責任です。変えたからには何かを表現していかなければいけないというのは、プロフェッショナルとして「それをやる」という意気込みだとも思います。

自分たちもその責任を負わなくてはいけないですし、周りの人に示していかないといけません。それをみんなで成し遂げた時に、クラブとサポーター、関係者が喜べるよう形作っていければいいなという感じですかね。

――羽生さんがクラブナビゲーターに就任されたのは前任の大金直樹社長(現取締役会長)の時代でした。そこから役割の変化みたいなものはありました?

大きくは変わらないです。

たとえば、先ほど言った僕の作った会社のメンバーがいるので「そこと連動しましょうか」と言った時に、今までのJリーグではあまりないような取り組みな気もしますが、そこに対して「羽生さんがしっかり管理しながら進むのであればそれで良くない?」と言ってくれるような感覚、とか。

あと、ストレングスファインダーなどはミクシィサイドでもそういうツールを使っていたりしたので、「羽生さんがそのコーチングの資格を持っているのであればやってみようよ」みたいな感じは今までにない取り組みなのかなと思います。

今まで当たり前だったところを少しずつ変えながら、より魅力あるクラブにしていこうとか、変化をしながらも常に上を目指していくようなクラブにしようというのは、マインド的にもクラブの中で少しずつ変わってきているんじゃないかというのはあります。その中で僕自身の役割も少しずつは変わってきたかなと思います。

――羽生さんがクラブナビゲーターで、石川直宏さんがクラブコミュニケーター。そういう役割分担みたいな形もうまくいっているという感触はありますか?

僕は表に出るのがあまり好きではないので(笑)、そこはナオ(石川直宏)が全部やってくれています。ナオのほうが間違いなく色々な意味でクラブに関わってくれていますし、シンボルのような人だと思うんですよね。

僕は現役時代のFC東京での役割もそうでしたけど、ナオが活躍してくれるのをフォローできるような、あまり目立たないけどしっかり仕事をしていると言われるようなイメージで働いている感じです。

ナオの存在は大きいですし、僕はもうレアキャラでいいと思っています。今日参加してくださった4組の皆さんにも「レアです」と言っておきました(笑)。

「ここが一番の幸せ」と思われるクラブに

――今回のような形でのイベントでファン・サポーターの方との触れ合いはどうでしたか?

すごく良い取り組みというか、皆さんとても喜んでいたのでそれが答えだと思います。

――では最後に、クラブとしてどういう未来を東京の街と共に描いていきたいか。羽生さんの中にあるイメージを教えてください。

あくまで僕の中のイメージですが、やっぱり首都にあるクラブは一番大きいというか、一番リードをしていかなくてはいけない存在ですし、そういうクラブであって欲しいと思います。そして実際にそうなった時、僕も含めたビジネススタッフや選手は、クラブの一員としての誇りをより持てるようになる―。

「首都のFC東京だ」となった時に、全員が本当の意味で誇りを持っている集団でありたいと思いますし、選手も「FC東京でプレーすることが一番の幸せだ」くらいの輝きというか、眩しいチームでありたい、というのがざっくりとですがありますかね。

スカウトの時も、「うちのクラブに入りませんか?お願いします」というのは立場上そういう感覚もあるんですけど、僕たちが声をかけたら「本当に嬉しいです。すぐ行きます」と言われるくらいクラブの価値を高めるって何なんだろうとも思ったんです。スカウトをやめた時にビジネスサイドを見たいと言った根本はそこでした。

低姿勢でお願いすることが必要な時もあるというのはもちろん分かっていますけど、僕がジェフから例えばステップアップして、FC東京へ来たとか。ヴァンフォーレ甲府へ1年レンタルで行って、その時にアウェイ戦で見た味スタって、めちゃくちゃ眩しかったんですよね。

だからこそ、極端に言うとお願いしない状況の中で、選手も「ここでやりたい」と言ってくれる、「ここが一番の幸せだ」と思われるクラブになったらすごいなと。そこを目指せたらいいなと、僕の立場ではそういうふうに思っています。

今季から使用!2023年「新しいエンブレムを発表した」5つのJリーグチーム

筑波大学時代やジェフユナイテッド市原(当時)でのイヴィチャ・オシム氏との出会い、「嬉しいという感覚はなかった」という日本代表でのプレーなどについて聞いたインタビュー後編は9日(金)配信予定。お楽しみに!

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